文様のふ・し・ぎ 14 宝尽くし

宝尽くし

打ち出の小槌を振り下ろすと、小判や宝物が泉のごとく湧いて出て……子どもの頃に絵本などで目にしていたおとぎ話に出てくるワンシーン。パーッとあたりが光り輝くように艶やかで賑々しく、いかにもおめでたい。

 文様の世界に重ね合わせると、そうした様子を表した「宝尽くし」という中国が由来の文様がある。中国では「雑宝」とよばれる珊瑚などのように珍重されていたものを集めて意匠化したものや、仏教で用いられていた法具などを意匠化した「八宝」といったものが、日本では一緒くたになって「宝尽くし」となったといわれている。

 文様には打ち出の小槌や巻き軸など様々なものが描かれるが、ひとつひとつの文様の意味を並べるというよりも、まるでそれらが宝箱からいっぺんに飛び出してきたといった華やかな様子が当てはまる。福を呼び寄せる吉祥文。お正月などのハレの日に、人々の笑顔も運んで来てくれるだろう。

 

 【宝尽くし文様】

中国の「雑宝」と呼ばれる宝の文様と、宗教上の吉祥文様を組み合わせたものを呼ぶ。何をいくつ組み合わせるかは時代や地方によって違うが、打ち出の小槌や巻物など、おなじみのものから、蔵を開ける鍵や希少価値のあった丁子(クローブ)など、ユニークなモチーフも。

 

 

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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