えんぎもの 2017夏

「夏越(なごし)の祓(はらえ)」をご存じだろうか。6月の晦日(みそか)、あちこちの神社に茅(かや)や藁(わら)でつくられた大きな「茅(ち)の輪」が掲げられる。正月からの半年で知らず知らずに身についてしまった穢(けが)れを祓うために、この茅の輪をくぐり、残り半年の無病息災を祈るのが「夏越の祓」だ。神社によって多少の違いがあるが、「水無月(みなづき)の夏越の祓する人は、千歳(ちとせ)の命延ぶというなり」「蘇民将来(そみんしょうらい) 蘇民将来」などと唱えながら左回り、右回り、左回り、の順に8の字を描くように茅の輪を三度くぐる。この呪文のような言葉が覚えられない上に、くぐる方向を間違えたりもするのだが、要は気持ちのモンダイ、ありがたやありがたや、と感謝しながら、ともかく、くぐる。神様は小さなことは大目に見てくださるに違いない、きっと、たぶん。

 蘇民将来、というのは人名だ。その昔、ある兄弟のところに旅人が訪ねてきた。裕福な兄は、一夜の宿を乞う旅人を断り、貧しい弟の蘇民将来が温かくもてなした。その旅人は、実は素戔嗚尊(すさのおのみこと)だった。数年後、蘇民将来のもとを恩返しのため再訪した尊は「こののち疫病が流行(はや)ったら、茅の輪を腰に着けておくように」と言い残して去った。その後、村は疫病に襲われたが、尊の教えに従った蘇民将来とその家族だけは無事で、子々孫々まで繁栄したという。

 京都・八坂神社の祇園(ぎおん)祭の粽(ちまき)も、この伝説に基づいた厄よけのお守り。夏越の祓も祇園祭も、猛暑や日照りの過酷な季節を乗り切るための祭事だったのだろう。

イラスト=川口澄子 文=編集部