いまの子供の3人に1人は、教科書の意味が正しく理解できていない。名門・開成高校の柳沢幸雄校長は「今の子供たちは長文を読み慣れていません。ツイッターやLINE、インスタグラムなどの文章はコマ切れだから、読解力が身につかないのでしょう。長文を読み、長文を書く力をつけるには、『話す力』を身につけさせるといい」と語る。なぜ「書く力」より「話す力」なのか――。

活字離れの誤解。今ほど「文字」に親しむ時代はない

活字離れが進んでいるといわれて久しい。

出版科学研究所が発表している出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売額を見ると、1996年の2兆6564億円をピークに長期の下落傾向にある。2017年の紙の出版物(書籍・雑誌合計)推定販売金額は、1兆3701億円(前年比でマイナス6.9%)。ピーク時の半分近くまで縮んだ。確かに活字離れは進んでいる。

「子どもを本の虫にするには撒き餌が大事。親が子に与えるのは必ずしも真面目な小説でなくてもいい。子どもが好む漫画やゲーム攻略本でもいい」と語る開成高校・柳沢校長(『プレジデントFamily2018秋号』より)。

しかし、これは「紙に印刷された文字」の話だ。「デジタルの文字」が伝える情報量は圧倒的に増えている。東京大学合格者数1位を誇る私立の雄・開成学園の柳沢幸雄校長は次のように語る。

「ツイッターやLINE、インスタグラムなど、SNS上に書かれている文字の数は膨大です。今ほど、文字が社会に浸透している時代はないのではないでしょうか。子供たちはそれを読んでいるのだから、どの時代よりも文字に親しんでいるはずです」

読んでいる「文章の短さ」が問題だ

一方で、今の子供たちの文章読解能力が低いと言われる。

今年2月、AIで東京大学合格を目指す“東ロボくん”研究で有名な国立情報学研究所の新井紀子教授が著した『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)では、読解力がないために教科書の意味が正しく理解できていない子が3人に1人はいるとして、衝撃を与えた。

文字があふれる現代に生きているはずの子供たちの読解力は、なぜ、低いのか? 柳沢校長の見解はこうだ。

「読んでいる文章の短さが原因だと思います。ツイッターの(書き込みできる)文字数は140文字と制限されています。SNSの投稿やLINEのメッセージも短い。内容もコマ切れになっていて、ひとつのことを長く説明はしていません。読解力をつけるには、やはり長い文章を読み込み、さらにそれをある程度長い文章で書くトレーニングが必要です」

柳沢校長によると、この「長い文章を読み(読解力)」「長い文章を書く(作文力)」という力の有無が将来の職業をわけるのではないか、という。

「世の中の仕事には、大きくわけて長い文章を読んで書く必要のあるものと、その必要がないものがあります。近い将来、多くの仕事がAIに奪われるといわれています。AIに奪われないのは、コミュニケーション能力や臨機応変さといった能力が求められる仕事とされていますが、私は、それに加えて、長い文章を読み、長い文章を書く力が必要な仕事も含まれると考えています」