「世界を変える人、日本を変える人」 第5回
「日本が名実ともに貢献できるグローバルヘルス分野に注目を」
近藤正晃ジェームスさん(特定非営利活動法人 日本医療政策機構)
あと2ヶ月に迫ったG8の洞爺湖サミット。
サミットは開催国にとって、グローバル社会の主要課題を設定する「チャンス」だ。
いま、「環境」に注目が集まりがちだが、日本が存在感を示せるもう一つの分野が
「保健」である。「失われつつある日本の存在感」をとりもどすために、
日本の政府が、企業がいまできることは何か。
今年2月に世界銀行とグローバル・ヘルス・サミットを共催した医療政策機構の
近藤正晃ジェームス氏に聞いた。
鳥インフルエンザ大流行!
そのとき日本の自治体は?企業は?
今、アジアを中心に世界で死者を出している鳥インフルエンザは、わが国にすでに上陸しています。国内では鳥類への感染のみが確認されていますが、海外ではすでに鳥から人に感染しています。人から人へ感染が疑われる例も海外では数件報告されており、いつ何時、1918~19年にかけて日本でも40万人近い死者を出したスペインかぜのごとく、パンデミック(大流行)を起こすかわかりません。
日本で新型インフルエンザのパンデミックが起きた場合の被害は、日本政府によれば、感染者2500万人、死者17~64万人と予測されていますが、これは低めだとする見解も発表されています。交通網がこれだけ発達した今日、パンデミックが国際的に広がるスピードは、スペイン風邪の時代とは比較にならないでしょう。
パンデミックへの対処方法について、地方自治体ごとにガイドラインを作成していますが、地域によってその水準はバラバラです。例えば、仙台市では、感染症の専門家が副市長に任命されており、一般市民への説明会の開催、ガイドラインやDVDの配布が進んでいます。残念ながら、このような地方自治体は稀で、地域によって対応能力に大きな差が生じています。
重要なことは、パンデミックが起きた際に何をすべきか、何をするべきではないかについて、一般市民がはっきりと分かっていることです。外出時にマスクをする、帰宅時に必ず手洗いをする、不要不急の外出を自粛する、人混みを避ける、病院での二次感染を避けるべくできる限り自宅療養する、最低2週間分の食料・水・薬を備蓄する、一人暮らしの高齢者を助け合う、などが初動として大切です。地域レベルでは、保育園・幼稚園においてインフルエンザは最初に広がるので、それらを観測し、感染が広まった場合には速やかに閉鎖する準備も必要です。こうした基本的なことを一般市民が知り、備えについて議論を深めることが何よりも大切です。
世界で6000万人を超える死者が出るとも推測されており、経済への打撃も計り知れません。アジアでパンデミックが起こった場合、アジア中の生産や物流が麻痺状態になることが考えられます。日本企業の生産網・物流網はアジアと直結しており、パンデミックへの対応策が不可欠ですが、きちんと検討を進めている企業は稀です。日本企業が、パンデミックが起きた際の対応策のモデルを世界に示すことは大きな国際貢献になります。また、ウイルスが突然変異していく事態が起こった場合、それに対抗する新薬開発が必須となりますが、その知的財産を社会で広く共有するために、アジアの中で豊かな国として日本が積極的に資金提供するといった貢献も考えられます。
「保健」は「環境」と並んで
日本が国際貢献できる有力分野
日本がこういった領域――いわゆるグローバルヘルス(国際保健)という分野で主導権を発揮し、世界に貢献することは、今後、外交上も非常に重要な意味を持つでしょう。政治や宗教といったセンシティブな部分を越え、効果的に国際貢献できるのですから。直接恩恵を受けた人々は決して忘れませんし、一般市民レベルで日本のプレゼンスにつながっていきます。
日本は戦後、さまざまな疫病・感染症と戦い、克服してきた歴史を持ちます。例えばかつて死の病と言われた結核。戦前の母子感染率は非常に高いものでしたが、現在はG8の中でも日本の乳幼児死亡率は最も低く、いわゆる母子保健の水準は世界最高水準になりました。そのような実績と高い医療水準を持って、非常に効果的に感染症に苦しむ人々を救うことが出来れば、国際社会でも大きな存在感を示すことが出来るでしょう。
今年、日本でG8サミットが行われますが、8年に一度の議長国の醍醐味は、課題を設定する権利を持つことです。これは、世界をこう変えたいというビジョンの意思表示でもあり、きわめて大きな影響を与えることができます。
日本は、2000年の沖縄サミットでグローバルヘルスを世界的な課題として位置づけました。エイズ、結核、マラリアなどへの感染症への世界的な取り組みを呼びかけた結果、2002年にグローバルファンド(世界基金)が創設されたのです。ここ数年、巨額の資金が投入され、約250万人の命を救われたと推計されています。グローバルヘルスの一連の流れを作ったのは日本で、次回のサミットでも前述の母子保健などの分野で、大きな貢献が期待されています。ただ、広報の課題もあり、あまり認知されていないことが残念です。
すでにこの分野で、国際貢献を果たした日本企業があります。住友化学は、アフリカでマラリアを防ぐための蚊帳をつくり、素晴らしい医学的効果を挙げています。先日の世界経済フォーラム、いわゆるダボス会議において、かのビル・ゲイツが賞賛すべき企業の一つとして同社の名前を挙げました。まさに、本業が持つ財産が生きており、アフリカの工場での雇用を促進するという形での経済効率も含め、現地で、そして国際的に大きなプレゼンスを示せている成功例だと言えるでしょう。
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近藤正晃ジェームスさん





