2009年11月20日
「日本はジュニア・パートナーですから」
ワシントンからオバマ大統領に同行したCNNのダン・ロシィアン記者は、カメラに向かってはっきりと言った。
鳩山首相が「平等なパートナーシップ」を築きたいと考えていても、取材記者はアメリカの本音を隠さなかった。けれども、オバマ大統領の日本に対する配慮はぬかりない。訪問国で相手国をむやみに非難しないという外交儀礼は見事で、今月14日のサントリーホールでの講演でも日本をもちあげた。
「日本は世界の舞台でより大きな役割を果たすようになり、日米同盟は進化し、世界の安定に重要な貢献をしてきました。(中略)最近では日本の卓越したリーダーシップを通して、アフガニスタンやパキスタンでの国際開発努力への追加コミットメントが提供されています」
アメリカ大使館の招待を受けて、この日、私は1階の後方席に座っていた。
「アメリカ合衆国バラック・オバマ大統領です」というアナウンスが流れると、手を振りながら颯爽と登場し、全員が総立ちで迎えた。張りのある声と、会場につめかけた聴衆を魅了する言葉の運びかたは、最前列に座っていた鳩山政権の閣僚たちにはなかなか真似ができない。30分という時間は一つの「ショー」ですらあった。
しかし、「日本の卓越したリーダーシップ」という表現には苦笑いせざるを得ない。前回のコラムでも書いたが、鳩山首相がアフガニスタンへの50億ドル支援を決めたのはオバマ大統領来日の3日前である。大統領はこうした浮いた言葉で日本国民を一時的に喜ばせはしたが、カネを出すことが卓越したリーダーシップに値するかは大きな疑問である。
国内のオバマ報道は驚くほど良好だったが、文面通りに大統領の言葉を信じてはいけない。4月のプラハ、6月のカイロの両演説に比べると、内容は「濃縮ジュースを水で薄めた」印象で、パンチ力がなかった。テーマが絞れていないのだ。ワシントンポストも14日、「オバマ大統領は世界の政治ダイナミズムを変えようとはしなかった。新しいアジア政策を発表するには極めて短い演説だった」と書いた。
アメリカにも建前と本音はあるのだ。オバマ大統領は「日本はアメリカにとっての礎石」と言うが、中国をより重視せざるを得ない現実がある。演説の中では次のような言葉を使った。
「中国が世界の舞台でより大きな役割を果たすと同時に、成長しつづける経済力に見合った責任を果たすことを、アメリカは歓迎いたします。中国とのパートナーシップは、経済を活発化させようとするアメリカの努力が報われることで立証されるでしょう」
すでに米中関係が日米関係よりも重要であるという見方は、ワシントンや北京で一般化している。それはオバマ大統領の東京とソウルの滞在時間が丸1日だったにもかかわらず、中国が上海と北京の2都市、しかも丸3日を費やしたことで端的に示されている。
さらに米中は12年ぶりに共同声明を発表し、戦略的パートナーシップを築いて首脳同士が相互に訪問しあうとことも確かめ合った。密接な結びつきは安全保障面でも同じで、北朝鮮問題の核開発問題の解決は、6カ国協議という枠組みを追求しつつも、朝鮮半島の「非核化」には中国の関与が必要との考えがある。そこに「日本の卓越したリーダーシップ」への期待はない。
しかし日本の安心材料もある。米中両国が、日米関係のような同盟を結ぶことはない点だ。根本的な価値観の違いは埋めようもなく、中国もそれを認めている。両国ができることは、差異を理解して協調していくことだ。いってみれば、米中両国は格闘技のライバルでありながら、仲間意識も持ち合わせるという間柄である。
経済面でも同じで、オバマ大統領は「バブルと崩壊のサイクル」を繰り返してはいけないと指摘した上で、中国を競争相手であり、なおかつパートナーでもあると位置づける。
そうした中、オバマ大統領は現実的(プラグマティック)であり、前向きな姿勢を示す。軍事力でアメリカに勝る国はないので中国を封じ込めようと思えば可能だが、そうはしない。ブッシュ前政権のような力で押すことは避けている。あくまで笑顔をみせて友好色をだす。
「中国との深い関係は日米同盟を弱体化することにはなりません。逆に、繁栄して国力を強める中国は東アジア地域にとって、力の源泉になります」
それでは今、日本はどうすればいいのか。パートナーとして手を組んだ米中両国の中に入って「G3」を提唱すべきなのか。アメリカはすでに中国に対して「G2」を提案したが、中国側はそのアイデアを退けた。それは独自の外交政策をとり続けたい思いが強く、アメリカと同盟関係を結ぶつもりがないという意思の表れだった。
この点で中国はぶれていない。ぶれているのは日本である。民主党政権ができてまだ間もないとの言い訳はそろそろ通用しなくなってきた。いまだに閣僚同士の意見調整ができておらず、蛇行運転をしすぎである。
「ジュニア・パートナー」から脱して本当の意味でのパートナーになるためには、真に「卓越したリーダーシップ」を発揮しなくてはいけないが、いまだに普天間基地問題でアタフタしている。仲良しクラブ的な「東アジア共同体」構想とは別に、鳩山版の「東アジア戦略」を早く打ち出すべきである。


