ダブルキャリア列伝【7】 狩野俊さん

[第24回] 居酒屋も本屋も同じ“本能”商売だ

 
 
2009年2月23日
 
 

 

── 古本屋コクテイルは、どんなジャンルが強いんですか。

狩野 得意なジャンルがないんです。縛りがなくて、何でも売る感じです。

── あえてジャンルをなくしているんですか。

狩野 「あえて」と言いたいですね。ひとつのことに興味を持ち続けることができないという自分の弱みを、「あえて」と言い換えただけかもしれないですけれど。
 いい古本屋の条件は、いい編集がなされていること。例えば、西荻に音羽館という古書店があります。行かれるとわかりますが、本が実にいい並びになっている。あれこそ店主の広瀬さんの編集センスのよさなんです。目録だけで売っている古本屋もそう。月の輪書林という有名なところがあるんですが、目録がみごとな編集物になっている。そういうことが僕はできない。それもあって、専門を持てない、持たないんでしょうね。

── 店売りではなく、即売会の面白さは何ですか。

狩野 よく行くのは西部古書会館ですが、ものすごいカオスなんですよ。ひとつの本屋が棚4つ分くらいを受け持って、計15店ぐらいの参加があるんですが、江戸時代の和本を扱っている店から、アイドルのグラビア雑誌を扱っている店まであって、とにかく混沌としています。
 市場で本を仕入れて、面白いものは並べ、駄目なものは縛って会場の外にある均一コーナーで売る。会が終わって、売れ残りは再度、市場に出す。その場、限りというのが僕にとっては楽。溜まらない。それが即売会の魅力ですね。

── 即売会でも棚を編集されるわけですよね。

狩野 それなりに、ですね。棚が4つしかないので、スペースは小さくて、時間も短い“編集“ですけどね。

── コクテイルで売られている(並んでいる)本も編集されていますか。

狩野 はい。でもここの編集は駄目ですね。

── 駄目というのは売れないということですか。

狩野 見ていてつまらない。あとは、細かく本を動かさないと売れないんですが、それをやっていない。店の外に百円均一の箱を出しているんです。「飲もう」と思って、うちの店に足を踏み入れるのは、敷居が高くて勇気がいるようなんですけれど、百円の本を持って、「これください」と入ってくるのは楽みたいです。それを3回続けると、次は酒場のお客さんになってくれる。外の百円均一の箱が客寄せ機能を果たしているんです。

── 長嶋有さん、角田光代さんのトークショーとか、お店で色々なイベントもやられています。どんなきっかけで始まったんですか。

狩野 原点は最初に勤めた洋書店、WONDER LANDです。店の同僚に、後に文藝賞を獲った黒田晶(あきら)という女性がいたんです。海外留学も長くて、向こうの本屋事情にも詳しかった。彼女から、「向こうの本屋ではカフェがあったり、ポエトリー・リーディング(詩の朗読会)をやったりしているんだよ」という話を聞いていて、「面白いな」と思っていたので、国立で最初の店を開いた時も、酒場を併設するということが、おかしなこととは思わなかったんです。
 「詩のボクシング」というイベントがあるんです。最初の優勝者が谷川俊太郎さん。ボクシングリングに見立てた舞台に、2人の朗読ボクサーが上がって、自作の詩を朗読し合う、まさに「闘い」なんですが、その2回目に準優勝した人が、たまたまうちの店に来て、「詩のリーディングをやらせてください」と。それで実現したのが最初のイベントだと思います。

── それは高円寺ですか。

狩野 国立です。あと音楽のライブもやりました。ガラス張りの店なのに、防音もせず、ドラムやトランペットを入れて演奏してもらったら、近所から山ほど苦情が来た。
 トークショーは、高円寺の前の店で、岡崎武志さんのが最初でした。1回目はお客が10人くらいで、2回目は40人に膨れ上がって、入りきれなかったので、店の周りを二重に囲んで岡崎さんの話を聞きました。

── 置かれている本が古本ではなく、新刊本だったら人は来ないですか。

狩野 どうなんでしょう。「ユー・ガッタ・メール」というアメリカ映画にブック・カフェが出ていました。バーンズ・アンド・ノーブルという有名な新刊書店がモデルだと思うんですけれども、スターバックスを併設していて、そこで飲み物を買ってきて、まるで図書館みたいに客が本を読んでいました。
 本というアイテムは、知的な雰囲気と温かみがある。飲み屋のインテリアに最適だと思います。新刊と古本の違いはわかりませんが。

── 店を2つ、3つと増やす考えはないんですか。

狩野 増やすほど儲かっていないので……。ただ、ここの契約がもう少しで切れるので、立ち退かなければいけない。

── 古いから取り壊しですか。

狩野 そうです。そのうち、別の場所に移らなければいけない。そのときはどういう店にしようか、は色々考えています。

── 高円寺以外もありうるということですか。

狩野 できれば高円寺ですね。最近、高円寺が好きになったので。前はそうじゃなかったんですが。

── 意外ですね。

狩野 「中央線っぽい店だね」とよく言われて、向こうは誉め言葉なんですけど、僕はそう受け取れずに、「嫌だな」と思っていました。
 高円寺の濃い人が集まる酒場って何軒かあるんですけれども、「ここもその一軒だ」と言ってくれた人もいた。それも誉めているんですけれども、嫌でしたね。
 人気グループのGLAYが若いころ、高円寺に住んでいて、引っ越したら売れるようになったという話があるんです。「コクテイルが、もうひとつの高円寺伝説になったらいいのに」と思っていて、中央線の色に染まりたくなかった。今は諦めていますけどね。

── 昔の理想は千駄木や谷中ですか。

狩野 いや、もっとおしゃれな感じの街に出したかったですね。下北沢とか恵比寿。今は考えが変わりましたが。

── 自分を古本屋さんと思っていますか。居酒屋さんと思っていますか。

狩野 両方じゃないのかな。古書会館で古本の入札をやって、途中で店に行って、煮物の味見をして、また古書会館に戻る。場所も近いので、2つの仕事にあまり垣根がないんですよ。どちらも本業。両方が上手く回ると、お金の面でもうまく補填してくれるから。
 古本屋だけだったら、もっと売らなければならない。ネットにも力を入れる必要がある。店の本も充実しないと駄目。そうなると楽しくなくなって、辛くなるはず。「次の即売会で売れないと、生活が立ち行かない」とか。
 そうじゃなくて、飲み屋もやっていると、もっと楽に、楽しく本が売れる。飲み屋のほうも、利益が出るような値段設定にして、お客さんにも愛想よくする。両方やることで、両方が楽しくなっている感じがします。

── ある種の人にとってはうらやましがられないですか。

狩野 だから嫌われるんでしょうね(笑)。
 僕の本に、古本屋さんのインタビューが載っています。『古書月報』という古本屋の機関誌に2年間、隔月で連載させてもらったものの中から、ふたつを選んで掲載したんです。古参の先輩を中心に、生い立ちから、古本屋になった経緯、仕事の魅力といった話をずっと聞いて、「古本屋とは」「古本とは」「そもそも本とは」と、散々、考えてきたんですが、答えが出ないんです。
 古本の即売会の初日に行かれたことがありますか。とにかく、ものすごいんですよ。場所を開けると同時に人が殺到して、まるで餓鬼の集団です。本には知識が詰まっています。即売会に行くたび、人間が知識を欲するというのは、食欲と同じ、本能に近いものではないのか、ということを実感します。そういうものを供給する仕事には、儲かる、儲からないという基準を超えた楽しみがあるのではないか、というのが僕の仮説です。
 「なぜ本屋をやっているの」という問いに対して、「儲かるからだ」と答える本屋がいてもいい。でも、「儲からないのに、何で本屋をやっているの」という問いに対しては、「儲けを度外視してもやりたい楽しみが得られるから」と答えたいですね。
 食欲も知識欲も本能だとしたら、食べ物を出す飲食店と、知識の詰まった本を売る本屋も変わらないのでは、と思います。



(次回に続く)

 
 

狩野 俊

かりの・すぐる
「古本酒場コクテイル」店主

1972年福島県生まれ。洋書店勤務を経て、98年、国立市に「コクテイル書房」を開業。半年後に店の一部を改装し、酒を出し始める。2000年高円寺に店を移転、「古本酒場コクテイル」を営む。著書『高円寺 古本酒場ものがたり』(晶文社)。




インタビュー・構成=荻野進介

●おぎの・しんすけ 1966年、埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業。著書に『ダブルキャリア 新しい生き方の提案』(共著、NHK出版、生活人新書、2007年)。

 
 
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