ダブルキャリア列伝【2】 よしたにさん

[第6回] 仕事のストレスを「オタリーマン」にぶつける

 
 
2008年5月29日
 
 
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── 作品はどんなスケジュールで描かれているんですか。

よしたに 休みをあてるだけで、十分まわります。私の場合、パソコンでやっているから、という部分が大きいんですけれど、昔に比べ、一つの絵を描きあげるのに必要な労力が激減しています。
 例えば消しゴムを使わなくてよくなりました。パソコンだと色塗りではみ出してもすぐ消せるんです。そういう細かいところでかなり省力化ができている。そんなこともうまく作用して、休みの日だけで十分まわせる仕事量になっているんです。

── 漫画やイラストを描く仕事は、システムエンジニア(SE)の仕事にどんな影響を与えているんでしょう。

よしたに お互いのストレス解消みたいなところがあります。仕事のストレスを絵にぶつけ、絵のストレスを仕事にぶつけて、という感じです。あとは、私の中ではあくまでSEの仕事が本業なんですが、「こんな一面もあるんだぞ」という、精神面の自信がついたというか。

── いつぐらいから自信がつきましたか。

よしたに いや、どこから、というわけではないんですが、そうですね……。イラストでお金をいただいても恥ずかしくないのかなあ、と思い始めたのが、始めて1年ぐらい経った頃でしょうか。

── 入社されてすぐイラストの仕事が舞い込んだんですか。

よしたに いや、とんでもない。入社5年目、つまり、サイトをやって5年目ぐらいです。最初の発注があって以降は、割とコンスタントに注文が来るようになったんです。
 絵描きにもプロとアマチュアがいます。でも、プロだからこういう絵を求められる、アマチュアだからこういう絵でいい、ということではない。要するに、アマチュアでもプロに太刀打ちできる技量を持っている人がごろごろいるんです。
 絵描きを本業としてやるなら、売り込みが必要です。まったく別の仕事を持ちながら、絵を描いて売るのはかなり難しかったと思うんですけど、パソコンが出てきて、ネット上で作品を見てもらうことができるようになって、売り込みがかなり楽になったと思います。あと、さっきも言ったように、作業量もパソコンのおかげで減ってきているので、本業の合間に詰め込めんでも十分やっていけるようになったのではないでしょうか。
 逆に言うと、僕のような人間が本業を持ちながら、何がしかのお金をもらっているわけですから、専業でやっている人たちの分を含め、多分、イラストの単価はどんどん下がっていると思います。

── それは文章の世界でもそうです。プロ顔負けのブログを書いている人がごろごろいますからね。

よしたに テクニカルライターの人が最近、よく嘆いていますね。素人が、ブログで専門家の見解に簡単にリーチできるようになったので、解説者が要らなくなりつつある。本業だけでものを食べていくのがどんどん難しくなっています。

── よしたにさんのご活躍を会社の人はご存知なんですか。

よしたに 8割ぐらいの人が知っていると思います。

── お客さんはどうですか。

よしたに お客様は幸いなことに、ご存知なんですけど興味がない方々が大半です。

── それが「幸い」なんですか。

よしたに はい。できるだけ、本業には影響を及ぼせたくないと思っているからです。知らないのがベストで、セカンドベストが知っていても興味を持たれないことです。

── 本業に影響を与えないためにはどういう工夫をされているんですか。

よしたに 自分の名前は出さないということと、自分からは必要以上にしゃべらないことですね。
本の発行点数は山ほどあるので、本が出てもばれないだろうと思っていたんです。「木を隠すなら森の中」じゃないですけど、何年も経ってから、「そういえば、これ見かけたんだけど」みたいなレベルだと思っていた。
ところが本を出した初っ端でテレビの取材があって、ばれてしまいました。テレビは面白いもので、つけていれば皆、見るんです。経営陣も見れば、部長層も見れば、同僚も見れば、後輩も見るんですよ。「同僚がテレビに出た」となったら、噂はぱっと広まり、「ああ、あいつか」という感じですね。

── 肉親、例えばお父さんの反応はどうですか。

よしたに 喜ぶ一方ですね。「良かったね」って。

── 「こんなに売れたのなら、もうサラリーマンやめてもいいよ」みたいな。

よしたに そうは言わないです。基本は「好きにしろ」です。「おまえの面倒は見ないよ」というポジションからスタートしているので、基本的に、自分の食い扶持は自分で稼がなきゃいけない。それで、稼げるんだったら「好きにしな」っていう。

── お母さんがよく電話かけてこられるとか。

よしたに そうですね。「まだ売ってないのね」って(笑)。発売日前に書店に問い合わせしたりしているんですよ。面倒くさいんで、発売日を教えていないんですけど。
あと、こういった取材を受けた時に、「なんで先に言わないの」って。雑誌は買う時期を逃しちゃうと手に入らないし、テレビも見る時期を逃すと見られませんからね。
友達が結構、いい反応なんです。ほとんど興味がない(笑)。反応は「おめでとう」ぐらいなものです。

── ここで出てくる話はほとんどノンフィクションですか。

よしたに そうですね。演出の範囲内で多少変える箇所はありますけど、話の軸は基本的にはノンフィクションです。

≪ 読者は20代、30代の男性サラリーマンが一番多いという。「わかる。自分も同じだ」と身につまされながら、読んでいる同業のSEの人が多いような気がする。最近は、若い年代にファンがどんどんシフトし、小学生ファンも増えているというから驚く。オタリーマンのキャラクターは見た目が可愛らしいので、そこが好まれているのかもしれない。≫

よしたに 最近、サイン会に小学生が来るんですよ。恥ずかしくて会場に入れなくて、親御さんが本だけ持ってきたりとか。

── ネタを考えるのは大変ですか。

よしたに 異業種参入組なので、私にはあまり漫画家の友達がいないんです。よって、比較対象がないので、正確にはわからないんですが、「作業は早い」と思います。7年もサイトで同じことをやっているので、手順はかなり確立しています。
イラストレーターとしてやっていた時期もあるので、どこに手をかけて、どの程度のものを出せば、お金をいただいても恥ずかしくなくなる、というのがわかるんです。仕事は、どこに、どれだけの力を入れるかも大事ですけれど、どこで、どれだけ力を抜くかというのも大事ですよね。漫画に関しては3冊目なので、その辺がちょっとわかってきました。

── それまでは結構、肩に力が入っていたんですか。

よしたに そうですね。1枚の絵を10数時間もかけて描いていたことがありました。でもこれは普通なんですよ。少ないながらも知り合いに漫画家がいるんですが、1日の仕事量が1~2枚というレベルだったりします。
僕の場合、色塗りまで含めて、1日に7~8枚はいけます。僕の絵は線が少ないんです。線の細かさとか緻密さが期待されていないんです。そういう意味では、自分が見せたい、強みの部分だけを描かせてもらっている面がありますね。

(第3回につづく)

よしたに

Yoshitani
システムエンジニア。兼、イラストレーター。
1978年生まれ。2001年、神奈川県の大学を卒業し、IT系企業に就職。SEとして働きながら、自らの経験をもとに描いた漫画『ぼく、オタリーマン。』が大ヒット。その他の仕事に財務省PV「大臣になった男」、「全国フードテーマパークガイドブック(ブッキング社)」など。現在、Yahoo!オフィシャルブログ「 エンジニア★流星群 @Tech総研」で「理系の人々」など好評連載中。個人サイトは「ダンシング☆カンパニヰ」。

●「ダンシング☆カンパニヰ
大臣になった男
理系の人々
中経出版「コミックゾーン」

インタビュー・構成=荻野進介
●おぎの・しんすけ 1966年、埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業。著書に『ダブルキャリア 新しい生き方の提案』(共著、NHK出版、生活人新書)。

 
 

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