職場の心理学 [277]●溝上憲文
ローソン流「ダイバーシティ採用」外国人3割、女性5割
ドメスティック企業の典型であるコンビニ。
国内が飽和状態になるなかで、どう海外へ出ていこうとしているのか。
多様性とリーダーシップを育むローソンの人材育成を取材した。
店舗展開も
人材採用も
キーワードは多様性
国内店舗数4万店を超え、飽和状態にあるコンビニ業界。新たな成長ステージに向けた事業戦略を各社模索しているが、ローソンのキーワードは店舗を核にした「業態の多様化」だ。
若い女性を対象にした健康志向型店舗「ナチュラルローソン」、均一価格で提供する「ローソンストア100」、小分けした生鮮品を販売する「ローソンプラス」など様々な店舗を展開している。拡大一辺倒ではない。それぞれの土地柄や客層のニーズに合わせた店舗フォーマットの多角化だ。
一見、非効率にも思えるが「競合店がひしめく場所に普通のローソンを出店すれば、収益に多少の影響が出る。商圏や客層が被らないローソン100を出店すれば競合をブロックし、収益を維持することができる」(日野武二ヒューマンリソースステーション人事企画部長)という効果もある。
もう一つの特徴は、一般の小売業とは違い、1万店のうち直営店はわずか200店舗というフランチャイズビジネスであること。そのため、「商圏や収益構造を考えながら加盟店主に売り上げを伸ばすためのノウハウを提供するコンサルティング」(日野人事企画部長)が社員の重要な仕事になる。
加盟店主との良好な関係を築きながら、エリアや客層を考慮した最適な店舗スタイルを提案し、収益向上を図るのは、上に言われて動く従来型の上意下達型人材では難しい。「現場に向き合い、自ら考えて最適解を見出す自律型人材」(中村剛ヒューマンリソースステーション人財開発部長)が求められている。
ではこのビジネスモデルを支える人材をどのように育成し、配置しているのか。じつはすでに採用段階から始まっている。同社は2005年の学卒採用から女性、続いて08年から外国人の積極的採用を推進しているが、近年の平均の採用比率は外国人が3割、女性が5割を占める。ここでもキーワードは「多様性」だ。
「ナチュラルローソンなどの様々な店舗やeコマース事業、それから海外出店など積極的にチャレンジしていくうえで企業風土もモノカルチャーだけではやっていけない。受容性が高く、柔軟な組織風土の中で様々な人がいろんな意見をぶつけ合うことでアイデアも生まれ、組織も活性化する」(日野人事企画部長)
女性は新卒に限らず中途採用も実施している。現在女性の管理職層は30数人。新卒女性社員も含めた女性社員比率は15%程度という。今後もさらに高めていく予定だ。
「現在は経営会議のメンバーに女性がいない。女性比率を上げていくのと同時に、経営層に早く女性に入ってもらいたいという思いがある。新卒・中途に限らず採用・育成を通じて多様な人たちがしかるべきポジションで活躍し、会社の意思決定に参画していく状態をつくり上げることが我々の課題だ」(日野人事企画部長)
女性に限らず、外国人が3割いると日本人にも刺激を与えずにはおかない。
「日本にきた外国人留学生は、それなりの覚悟を持って何事にも積極的に行動する。たとえば研修で『これをやりたい人いるか』と聞くと、日本人は講師と目を合わせないようにして避けることが多いが、外国人は全員が手を挙げる。その影響を受けて日本人も手を挙げるなど積極的に動くようになった」(中村人財開発部長)
多様な人材の獲得が人的資源のインフラであるとするならば、店舗運営のコンサルティング人材をどのようにして育て上げるのか。同社でのキャリアパスは、入社後の導入研修を経て直営店舗に配属。そこで1~2年間、店長を経験し、ストアサポーター職、さらに試験に合格しスーパーバイザー(SV)と呼ぶ店舗運営指導員になる。SVは標準で九店舗を担当し、単体約3300人の社員のうち約1000人を占める。
SVの上の職階は10~15人のSVを束ねる支店長、その上は支社長になる。支店は全国に77カ所、支社は7つ。支店長は課長職に相当し「SVをいかに育成し、レベルアップを図っていくか。そしてその中から支店長をいかに育成するかが重要になる」(日野人事企画部長)。
SVになるのは標準で26~27歳。支店長は早い人で32~33歳という。
入社後から
いきなりプレーイング
マネジャーに
加盟店をサポートするSVの“現場力”は入社後の店長経験で磨かれる。店長といっても日販50万円なら年間1億8000万円の売上高をコントロールする責任を負う。中村人財開発部長は店舗経験を「マーケティングとマネジメントを含む加盟店オーナーの疑似体験の場と位置づけている」と指摘する。
「データだけではどんな人がどういうものを買っているのかイメージが湧かない。実際にお客さんに接することで、何曜日に買いにくるのか、もしかしたら誰かと一緒に食べているかもしれないという想像が働くもの。今度そのお客さんが来られるときに欠品がないようにしようとか、生のマーケティングを経験してもらう。また、コンビニといっても15人ぐらいのアルバイトがおり、社員と違って、突然出勤できないという事態も発生する。アルバイトをいかにマネジメントするかも経験してもらう。こうした加盟店のオーナーの疑似体験をすることが、SVとしてオーナーに対する指導やアドバイスをするときに役立つ」
まさに入社後からプレーイングマネジャーの経験を積ませる。教育はOJTだけではない。入社後1~2年間は知識習得のeラーニング以外に年間6回の2泊3日の研修も実施している。テキストを使っての講義形式ではなく
「課題を設定し、参加者がお互いにディスカッションしながら知恵を共有する」(中村人財開発部長)実践的な研修を行っている。
報酬や昇進の仕組みも明確である。毎月の給与は就いた役割ごとに定額を支給。SVは8階層、支店長は単一の金額が支給される。ただし、給与は同じ役割なら同額であるが、賞与については評価によって大きく変動する。
SVまでの非管理職層は年収の25%、支店長以上の管理職は30%を賞与が占める。
SVの賞与評価は実績などの定量的部分とプロセスの両面から評価され、評価ウエートは6対4の割合だ。プロセス評価は「SVがこなすべき一通りの仕事ができて標準の評価になる。そのうえでオーナーと対話し、店を変えていくことができればプラスの評価となり、逆にそれができなければマイナス評価となる」(日野人事企画部長)仕組みである。
また、賞与には支店単位の実績も加味される。ある支店が全国でもトップクラスの成果を挙げた場合、支店に配分する賞与の原資が増えるが、逆に成果が低い支店は配分原資が減る。したがって個人の評価は同じでも受け取る賞与の額は異なる。狙いは支店単位でのチームワークの重視にある。
「個人が自らの成果追求に走ることなく、チーム全体で情報を共有し、組織としての成果に結びつけていくやり方を目指している。とくにエリア戦略を非常に重視しており、エリアでいかに効率的に店舗を配置し、最終的には競合店に打ち勝ち、いかに収益を上げていくかが課題となる。そのためにはエリアにふさわしいやり方とはどういうものかについて支店内で侃々諤々の議論を行い、加盟店のオーナーさんとの打ち合わせをしながら戦略を練ることが極めて重要になる」(日野人事企画部長)
支店長昇進の関門は
一日缶詰めの
マネジャー・アセスメント
エリア戦略の展開の要となる支店長は、多いところで160店舗を統括する。全社政策に基づいてエリア戦略を策定し、遂行するためにSVをまとめ上げるマネジメント力も要求される。支店長に昇進するには、実績を踏まえた支社長の推薦が必要になるが、最終関門として全社共通のモノサシである「マネジャー・アセスメント」で合否が下される。
これは本社の課長職候補者に対しても実施され、1日缶詰め状態で厳しくチェックされる。
「支社長から推薦を受けているので当然、業績もよく、やるべきことができている社員ばかりであるが、最終確認を本部で行っている。一定の課題を与えて六人でまとめ上げていくという擬似的な環境を設定し、それぞれが支店長・課長であればどういう戦略を練り、判断するのか。あるいはどこに気を使う人なのか、プレゼン力、コミュニケーション力など多角的視点からアセスメントしている」(日野人事企画部長)
当日は客観性を確保するために外部のアセッサーも参加する。アセスメントの期間は1日であるが、精度を向上させるために3日間かけて行うことも検討している。
ところで女性と外国人を積極的に採用しているが、女性を半分採用した05年入社組で最初にSVに昇進した社員は6人。うち5人が女性という。08年から採用をスタートした外国人社員は主にSVのアシスタントないしは商品部や海外事業グループなど本社スタッフとして活躍している。
現在、小売業各社の海外進出が相次いでいるが、コンビニ業界も成長市場であるアジアでの出店を加速している。ローソンは1996年に業界として初めて中国・上海に進出し、現在、合弁企業を通じて315店舗を展開する。また、昨年4月には内陸部の重慶市に100%子会社を設立。同社の新浪剛史社長の陣頭指揮の下、15年までに300店舗の出店を見込んでいる。
当然ながら海外の人材マネジメントと活躍できる人材の養成が重要になる。日野人事企画部長は人材マネジメントにおいて2つのフェーズを想定する。
「我々が目指しているのは、どの国、どの地域であってもお客様にとって欲しいときに欲しいものがあることだ。第一フェーズとしては、日本で培ったローソンの商売のやり方を移植していくことが重要であり、まずは現地法人に経営陣を派遣してやったほうが拡大は早いと思う。第二フェーズとしては、これはあくまでも私見だが、やはりローソンの価値観や理念を現地の人たちが理解し、しっかりと執行できるようになれば、現地の人材に経営に参画してもらい、我々がサポート役に回ったほうが事業としてもうまくいくのではないか」
小売業各社のアジア進出は始まったばかりであり、いずれ「人材の現地化」が大きなテーマになる。その前に最大の課題となるのがグローバルに活躍できる人材の確保と養成だ。その点、ドメスティック企業の典型であるコンビニ業界にあって外国人比率の高い多様性のある組織が重要になる。日野人事企画部長は「柔軟で受容性の高い組織は、海外でも通用し、いつでも海外に赴任できる人たちの層を厚くするという意味でも重要な鍵を握っている」と指摘する。
ローソンのDNAを受け継ぐ外国人の社員に限らず、その中で揉まれた日本人社員を含む受容性の高い組織はグローバル人材のインキュベーターになる。すでにそうした経験を持つ社員が重慶に赴任している。
「神奈川県の支店長クラスの社員だが、彼の下に日本語があまり上手ではないバングラデシュ出身の部下がいた。非漢字圏ということで日本語のレポートをうまく書くことができなかったが、懇切丁寧に指導し、夜中までかけて文章をチェックしてやるなど非常に面倒見がよかった」(中村人財開発部長)
中村人財開発部長は海外で活躍する人材に共通する要素としてリーダーシップと受容性を挙げる。
「語学ができるにこしたことはないが、通訳を使ってもマネジメントはできる。大事なのは日本で培ったビジネスセンスに加え、面倒見のよさを含むリーダーシップと相手を理解し、受け入れる受容性の高さだ。そうした要素を持つ人材を養成し、海外に送り出すことが何より大事だと考えている」
何より多様性のある企業風土を醸成すること。そして入社後の店長経験を含む一連のOJTを通じてリーダーシップを磨くこと。グローバル人材の養成において最も肝となる部分を的確に捉えている。









