ビジネススクール流知的武装講座 [273]

宝の山は近海に!
日本が「資源大国」になる日

 
 

多くの資源開発の余地がある日本の周辺海域だが、
その実現には大きな問題が存在する。
今国会で改正される鉱業法が、
事態を打開するカギになる、と筆者は主張する。

 
 

一橋大学大学院商学研究科教授
橘川武郎=文
text by Takeo Kikkawa
1951年生まれ。東京大学大学院経済学研究科第2種博士課程単位取得。青山学院大学助教授、東京大学社会科学研究所教授を経て、現在一橋大学大学院商学研究科教授。専攻は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『日本電力業発展のダイナミズム』、共著に『現代日本企業』などがある。


資源エネルギー庁/PANA=写真
平良 徹=図版作成

 
 

世界第6位の海洋大国ニッポン


 わが国は、世界第6位の領海・排他的経済水域(Exclusive Economic Zone/ EEZ)・大陸棚の広さを有し、これらの海域では石油・天然ガスに加えて、メタンハイドレートや海底熱水鉱床などのエネルギー・鉱物資源の存在が確認されている。
 しかし、これらのエネルギー・鉱物資源の実用化・商業化には、賦存量・賦存状況の把握、生産技術の開発、開発による環境への影響の制御など、様々な課題が残されている。

 これまでのところ、わが国周辺において国が物理探査を行った海域はきわめて限られている。
 具体的には、2009年度までに国が二次元物理探査を行ったのは約12万平方キロメートルのみであり、三次元物理探査にいたっては約6000平方キロメートルにとどまる。
 三次元物理探査は、それまでの二次元物理探査に比べ試掘ロケーション選定の精度を飛躍的に高めるものであるが、日本国内に三次元物理探査を行う能力を有する企業等は存在していなかった。


日本初の三次元物理探査船「資源」

 このような事情をふまえ、わが国に、海域における石油・天然ガス資源の発見を可能にする探査能力を構築し、開発活動をより計画的かつ機動的に実施することをめざして、08年2月、資源エネルギー庁所有の公船として、日本初の三次元物理探査船「資源」が導入された。
 今後の日本周辺海域における物理探査は、この「資源」を活用することによって、遂行されることになる。
 09年3月策定の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」では、18年度までに、6万2000平方キロメートルの三次元物理探査を実施することになっている。

 このように、これまで遅れていた日本周辺海域における三次元物理探査については、今後、「資源」の活躍によって、状況が打開されることが期待できる。
 しかし、ここで見落としてはならない点は、わが国の資源開発をめぐっては、それ以外にも大きな問題が二つ存在することである。その一つは、わが国の海洋資源が、いわば「無防備状態」にあるという問題である。
 表1は、資源探査規制について、各国の比較を行ったものである。この表からわかるように、わが国には、諸外国で実施されているような資源探査規制が存在しない。
 また、探査データの提出に関する制度的枠組みもない。この結果、無秩序な資源探査活動が行われており、とくに海域では、この制度的不備につけこむ形での外国船による事実上の資源探査活動が目立っている。


 

開発主体決定の先願主義を是正せよ


 もう一つの問題は、わが国では、資源開発主体の決定に関し先願主義を採用しているため、技術的能力ないしは財務的基盤が不十分な者が鉱業権を取得してしまうことが多く、結果として開発が進まないケースが頻発していることである。
 10年3月末現在、日本には8179件の鉱業権が存在するが、稼行しているのは1558件にすぎず、5562件が未着業、1059件が休業のままである。
 表2は、資源開発主体の決定方法について、各国の比較を行ったものである。
 この表からわかるように、わが国では、技術的能力ないしは財務的基盤をチェックすることなく、先願主義によって開発主体を決めている。決定にあたって、事業計画を審査したり、入札を行ったりすることもない。
 これらの問題を解決するため、1950年(昭和25年)に制定された鉱業法が、今国会で、制定後初めて本格的に改正されようとしている。

 改正のポイントは、
(1)鉱業権の設定に関する許可基準の追加:許可基準に、技術的能力および財務的基盤を有する者、公共の利益の増進に支障をきたさない者、などの条項を付け加える
(2)鉱業権の設定に関する特定区域制度の導入:国民経済上とくに重要であり、安定供給が強く求められる特定鉱物(石油・天然ガス等)について、現行の先願主義を見直し、国が指定した特定区域においては、国が開発事業者の募集、選定を行うようにする
(3)鉱物の探査に関する許可制度の導入:鉱物探査を行う者に対して、事前許可を求める。また、国が必要と判断した場合には、探査の結果の報告を求めることができる
 などの点にある。

 鉱業法が61年ぶりに本格改正されれば、先に指摘したわが国の資源開発をめぐる二つの問題点は、解決に向かうことになる。
 政局の混乱のため、今国会での鉱業法改正は6月26日時点で実現していないが、法改正の成立が1日も早く望まれる。
 冒頭で述べたように、わが国は、世界有数の海洋資源保有国となる可能性をもっている。
 その一例が、メタンハイドレートである。
 メタンハイドレートは、低温・高圧の条件下でメタンガスと水が結晶化した氷状の物質であり、それを産出、利用することができれば、日本のエネルギー事情は大きく好転する。


 

「燃える氷」の生産が
エネルギーの安定供給を可能にする


 この点について、09年に経済産業省が策定した「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」は、次のように述べている。
「メタンハイドレートは、よく『燃える氷』と称されているが、温度を上げる、ないしは圧力を下げるなどの変化を与えると水分子と気体のメタン分子に分離する。分離されたメタン分子は在来型天然ガスの主成分と同じものであり、メタンハイドレートは非在来型の炭化水素資源として、期待されている」
「一次エネルギー供給の8割以上を海外からの輸入に依存する我が国にとっては、炭化水素資源の一種であるメタンハイドレートが我が国領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚(以下『我が国周辺海域』という。)に相当量賦存していることから、メタンハイドレートの生産技術が確立され、メタンハイドレートの実用化・商業化が実現すれば、極めてインパクトの大きい国内エネルギー資源(天然ガス資源)の供給源を持つことになる。言うまでもなく、国内(陸域・海域)に存するエネルギー供給源は、供給リスクの観点から、最も安定した供給源である。したがって、メタンハイドレートの安定的、かつ経済的な生産を可能とする技術の開発に成功することは、国内に極めて大きな炭化水素資源の供給源を持つことに等しい。そのため、メタンハイドレートの生産技術開発は、我が国へのエネルギーの安定供給確保の観点から、極めて重要な課題といえる」。


メタンハイドレートの海洋産出試験は
世界初の試み


 日本周辺の海域には、東部南海トラフ海域(東海沖~熊野灘)を中心として、相当量のメタンハイドレートの賦存が見込まれている。
 ただし、メタンハイドレートは、地層中に固体で存在するため、在来型の石油・天然ガス資源のように井戸を掘るだけでは自噴しない。
 メタンハイドレート層から天然ガス(メタン)を安定的かつ経済的に生産するためには、右記の文章にもあるとおり、圧力を下げて分解するなどの、新たな生産技術の開発を行うことが必要である。

 日本は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を中心にして、世界に先駆けてメタンハイドレートの研究開発を進めてきた。例えば07年には、メタンハイドレートの原始資源量の評価手法を確立し、東部南海トラフ海域における原始資源量を公表した(わが国天然ガス消費量の約14年分)。
 また、08年には、日本とカナダとの国際共同事業として、カナダ北極圏の永久凍土地帯のメタンハイドレート層を対象とした陸上産出試験において、世界で初めて「減圧法」を用いてメタンガスを連続的に採取することに成功した。
 さらに、JOGMECは、09年度から、日本周辺海域におけるメタンハイドレートの海洋産出試験に取り組んでいる。これもまた、世界で最初の試みである。
 長いあいだ資源不足に悩まされてきたわが国が、「海洋資源大国」になることは、あながち夢の中の出来事だけとは限らない。
 今回の鉱業法改正は、夢を現実にするための第一歩となるかもしれないのである。


 
 
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