職場の心理学[256]

「金のなる木」を逃さない
報・連・相入門

 
 

自分が現場にいなくても
現場の必要な情報をすべて吸い上げるには──。
ホウレンソウの達人が、
部下から情報を引き出す質問、声かけ、
雑談力の鍛え方を伝授する。

 
 

シンキングマネジメント研究所所長
今井繁之=文
Shigeyuki Imai
●いまい・しげゆき リコー、ソニー等を経て、1990年、論理的思考による問題解決・意思決定手法のより一層の普及のため、シンキングマネジメント研究所を設立。大手企業のほか、27の地方自治体の管理者を対象に研修指導を行っている。『ホウ・レン・ソウの基本 これだけシート!』など著書多数。

大井明子=構成
高橋常政=イラストレーション

 
 


失敗談を披露して
報告しやすくする


 「若い社員が、まったくホウレンソウ(報告・連絡・相談)をしてくれないんですよ……」という管理職の嘆きを、最近よく耳にする。
 一方の部下は、「ちゃんとやってます」と主張する。詳しく聞くと、すべてメールで報告していると言うのだ。しかし、上司は毎日山のようにメールを受け取るので見落とすことも多い。そして何より、メールでは細かいニュアンスが伝わりにくいし、コミュニケーションが一方的なので、本当に重要な情報がこぼれ落ちてしまう。
 ビジネス環境の変化が激しい今日、現場のきめ細かい情報はますます貴重になっている。自分が現場に行けない分、現場を知る部下からどうやって情報をすくい上げるか。受け身の態度で、単に部下のホウレンソウを鵜呑みにするのではなく、積極的かつさりげなく、部下から情報を聞き出すことが求められる。

 部下からのホウレンソウで最低限行うべきなのは、ネガティブな情報をすくい上げること。これはホウレンソウの「初級編」だ。
 悪い報告は、上がってきにくいもの。自分に責任があればなおさら、叱責されるのを恐れるし、上司の手を煩わせるのを遠慮して、できるだけ自分だけで処理しようとする部下もいる。だが、ネガティブな情報こそ、できるだけ早く把握して対応しないと、取り返しのつかないことになりかねない。
 上司の対応如何で、部下のホウレンソウからトラブルの予兆をつかむことができる。まずは、部下の話のどこからどこまでが「客観的事実」で、どれが「部下の意見・判断」かをはっきりさせ、現状を正確に把握しよう。

 たとえば、「担当の○○デパートで、わが社の製品の売り上げが落ちています。どうやら、ライバル社がコミッションを上げたことが原因のようです」という報告があったとしよう。
「そうか、それはいかん。早速部長に相談して、わが社もコミッションを上げるよう手配しよう」という対応は拙速であると言わざるをえない。
 部下に質問を投げかけて、意見や判断の根拠を明確にすべきだ。根拠となる事実が不確かであったり、本人の思い込みによるものであったり、自分の責任を回避するために情報を曲げて伝えているかもしれないからである。

 この報告の中で、「客観的な事実」は「売り上げが落ちた」という部分だけだ。売り上げ減の原因は、部下の憶測にすぎない。上司は、「本当にライバル社のコミッションアップだけが原因なのか?」「ほかの原因は考えられないか?」と問いかけてみる。
 経験を積んだ上司なら、「長年の付き合いがあるデパートなのに、他社がコミッションを上げたくらいで売り上げが落ちるはずがない」ということは何となくわかる。
 だからといって、頭から「コミッションだけが原因なわけがない。ほかに原因があるんじゃないか。ちゃんと営業活動していたのか? 売り場担当者からの要望にきちんと応えられてなかったんじゃないのか?」などと問いつめるのはよくない。できるだけ部下本人が落ち着いて考えてから報告させることが重要だ。
 上司が決めつけて判断してしまうと、部下はやる気をなくすし、「課題を解決し、状況を改善しよう」というモチベーションも下がってしまう。
「ちょっと待てよ。コミッションだけが原因なら、ほかのデパートでも売り上げが落ちてもおかしくないのに、落ちているのは○○デパートだけだな。ほかに何か原因は考えられないだろうか?」「売り場や担当者の様子に、何か変わったことはなかったか?」などと問いかけてみよう。
 責任を追及して叱責するためではなく、「事実を知って対策をとることが目的」という姿勢を示すことが大切だ。厳しい口調で問い詰めると、部下は委縮し、ますます自分の責任を隠そうとするものだ。
「私が現場にいたころ、実はこんなことで売り場担当者の信頼を損ねることがあってね、売り上げが落ちてしまったことがあったんだ」などと、自分の失敗談をさりげなく披露するのもよいだろう。
 こうしてじっくり聞けば、「実は最近、別のデパートの店内改装の対応が忙しく、○○デパートの訪問回数が減ってしまいました。その関係からか、いつの間にか、売り場の位置を変えられてしまいました」といった、「本当の原因」に関わる別の情報を報告してくれるはずだ。


ビジネスにつながるヒントは
雑談の中にある


 次にホウレンソウの上級編。ホウレンソウをさらに有効活用すれば、経営判断の大きな材料になる情報を部下から得ることもできる。
 初級編では、「目の前の問題を解決する」という目的が明確で、引き出すべき情報もはっきりしているので、質問さえうまく投げかければよかった。
 しかし、ビジネスにつながるヒントとなる情報は、ホウレンソウの「報告」から漏れやすい。なぜならそういった情報は、フォーマルな報告よりも、雑談の中に紛れ込むことが多いからだ。

 私が実際に聞いた、ある上司と部下のやりとりを見てみよう。
「お帰り。今日は○○社の△△工場に行ってきたんだったな。どうだったね」
「課長、ただいま戻りました。ウチの製品、とても満足していただいているようです」
「それはよかった。しかし今日はずいぶん疲れた様子じゃないか」
「そうなんですよ。△△工場でちょうど、工事車両の出入りにぶつかってしまい、なかなか営業車を駐車場から出せなくてまいりました。おかげで戻りが予定より遅くなりすみません」
「おおがかりな工事が行われている様子だったのか?」
「あまり気をつけて見ていなかったので、何台くらいだったかわかりませんが……」
「もし生産設備の拡張なら、うちの製品の追加を売り込むチャンスだぞ」
「確かにそうですね。疲れていたので、どうせ補修工事だろうと気に留めていませんでした。明日にでももう一度訪問してみます」

 調べてみたところ、新しい事業部が新製品の生産ラインを追加するための工事をしていることがわかった。さっそく営業活動をしたところ、これまでの納入実績が評価されて、すぐに採用が決まり、大幅に売り上げを伸ばすことができたという。
 課長がもし声をかけていなければ、工事車両に関する情報は報告されなかっただろう。部下が、「報告するほどのことでもない」と思っていた事象の中に、ビジネスを左右する情報が隠されていたのだ。
「君のお陰で、売り上げを大幅に伸ばせたな。よくやったな」と、ねぎらいの言葉をかけるのを忘れずに。こういった経験を重ねれば、部下も気をつけて変化の予兆を探して報告するようになる。

 最近の若い社員には、上司である「オジサン」と直接会話することを嫌がる人も多い。しかし、だからといって嘆いてばかりでは、みすみす有益な情報をドブに捨てることになる。
 上司には、部下が見落としている情報をすくい上げる役割が求められているのだ。部下が話しかけてこないならば、こちらから働きかけるしかない。外出先から戻ったときに「お疲れ様。どうだった?」と一声かけるだけでも、情報を引き出すきっかけになる。
 ただし、くれぐれも「ああしろ、こうしろ」と指示ばかりして追い立てたり、説教ばかりにならないように。ますます上司と話したがらない部下を育てるだけだ。


今こそ我慢できる上司であれ


 ホウレンソウでここまで実行するのも、忙しい上司にとってはなかなか難しいことだろう。しかし、さらにもう一歩、先をいくホウレンソウの活用法がある。ホウレンソウのうち、判断力が問われる「相談」をうまく使い、自分で判断し、行動できる部下を育てることだ。

 ある中小企業の社長から、「ウチの社員はどうも、問題解決や意思決定の力がなくて困る。社員にそういった研修をやってくれないか」と相談を受けたことがある。
 社長室でその社長と、研修について打ち合わせをしていたときのこと。社員が「失礼します」と、青い顔をして社長室に入ってきた。
「どうしたんだ?」
「はい、社長。実は○○部品に不具合が出てしまい、A社の納期に間に合いそうにないのです。どうしましょうか……?」
「わかった。それは何とかしなければいけないが、ちょっと待てよ。確かB社用に生産していた同種の○○部品があったはずだ。B社は納期までまだ時間があるから、それをA社にまわしたら何とかなるんじゃないか」
「社長、ありがとうございます! そうします。助かりました」

 社員が部屋を出ていくと、社長は私にこうボヤいた。
「うちの社員はみんなああなんです。すぐに『どうしましょうか』と答えを聞いてくる。自分で考えるということをしないんです」
 こういったケースはワンマンな上司や、過去に現場で実績を上げてきた上司に多い。部下に考えさせるのは時間がかかるので、それが待てず、つい答えを出してしまうのだ。
「部下が何でもお伺いを立ててくるので、忙しくて困る」と嘆きながらも、頼りにされているのをよしとしてはいないだろうか。こういう上司は、「どうせ部下には判断できない」「オレが考えたほうが早いし正確だ」と、何でも自分が判断してしまい、それが部下の成長を阻害していることに気付いていない。

 上司の現場経験や知識が通用する間はいいが、市場環境は大きく変化している。いずれ経験や知識が古くなり、通用しなくなるときがきたとき、会社のマイナスになる判断をするようになってしまう。すぐに答えを与えることは部下のためにも、会社のためにもならないのだ。
 部下のほうが現場の状況は詳しく把握している。上司がうまくガイドすれば、自分で考えて判断することができるようになるはずだ。答えを伝えるのではなく、判断の仕方を教えよう。
「どうしましょうか」と聞いてきたら、まずは「君はどうしたらいいと思う? いくつか案を考えてきてもらえると、オレは助かるなぁ」などと促そう。
 そのうえで、出てきた案を部下と一緒に一つひとつ見ていこう。それぞれの案について、メリット、デメリットを確認し、「それを採用したら何かまずいことは起こらないか」と質問を投げかけてガイドし、部下がベストの結論に到達するよう導くのだ。
「あの上司のところに相談に行くと、必ずいくつかの案と、その根拠を聞かれる」ということになれば、部下は自ずと自分で考えるようになる。複数の案を持ってくるだけでなく、それぞれを分析して、最善と思われる案を提案してくるようになるだろう。

 ビジネスの現場では、状況はめまぐるしく変化しており、即断即決を求められることが多いので、上司の側にも余裕がないのは理解できる。
 しかしだからこそ、今の上司には我慢が必要だ。「どうしたらいいと思う?」と問いかけるのは最初はイライラするかもしれないが、長い目で見ると部下の成長を促し、チーム全体の力を伸ばす。そして現場の状況に即した精度の高い判断をすることができるようになる。
 ホウレンソウは、部下にその励行を呼びかければよいというものではない。生かすも殺すも、上司次第なのだ。

 
 
PRESIDENT 2011年1.3号
PRESIDENT 2011年1.3号
税込価格 690 円
売り切れ
 
PRESIDENT公式twitterアカウント

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更