人に教えたくない店 [442]

孤島の野犬の丸焼きに亀料理。
でも僕は食べられれば幸せなんです

石川直樹さん

 
 

写真家・冒険家
石川直樹
Naoki Ishikawa
1977年、東京生まれ。早稲田大学第二文学科卒、東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。高校時代のインド一人旅を皮切りに旅を始める。2000年北極から南極まで人力踏破する「POLE TO POLE」参加。01年当時の世界最年少世界七大陸最高峰登頂達成。04年熱気球で太平洋横断に挑戦。そのルポルタージュ『最後の冒険家』など著書・写真集多数、多くの受賞歴を誇る。現在、瀬戸内国際芸術祭にて新作を展示、10月19日より東京都現代美術館「トランスフォーメーション」展参加予定。

撮影/矢幡英文
構成・文/渡邉乃々

 
 

“星の航海術”という、ミクロネシアに伝わる、近代計器を一切使わない伝統航海術があるんです。海図やコンパスを持たず、星の光とあらゆる自然現象を頼りにカヌーを操り、体ひとつで海を渡っていく。人類の叡智といってもいい奇跡的な技術です。すっかり魅了されて、その継承者に10年ほど前に弟子入りしました。
 実際に“星の航海術”を操る航海者と、サイパンからミクロネシアの島まで渡ったことがあります。これだけ交通が発達した今でも、日本から普通に行けば、飛行機と船を乗り継いで10日はかかる孤島でした。このミクロネシアの島がすごかったですね、食が。
 そこらの野犬の丸焼きが出てきたり、亀を食べたり。亀は小笠原などでも食べられていますが、普通においしかった。でも犬は……ワイルドな味でした!(笑)。
 アラスカのユーコン川を川下りしていたときのイクラ丼も忘れられません。ずっとインスタントラーメンを食べていたんですが、旅の終盤に先住民の人にイクラをもらったんです。それを自分で味醂に漬けて、丼にしたのがすごくおいしくて。
 旅先でおなかを壊したときは、絶食してコーラだけ飲んで治します。いつもその方法。僕は食べられるだけで幸せを感じてしまうんですね。生きるために食べるというのが前提にあって、旨いまずいより、おなかが空いたときにちゃんと食べられる、それだけで嬉しいんです。
 今は狩猟に興味があって、各地のマタギ文化が残る土地に通っています。狩猟の技術があれば、どこでも生きていけるじゃないですか。僕自身は罠猟をやってみたい。鉄砲を使うよりも、より動物たちとの知恵比べみたいな側面が強いですから。
 自分で食材を得るというのはどういうことか、そのことを最近よく考えています。だから、狩猟や農業に興味がある。そうした取材過程で、東京の「六本木農園」を知りました。農家から直接野菜を買って、メニュー一つ見てもポリシーを感じます。
 沖縄は昔から好きで、ぼくにとっては本当に落ち着ける場所。「rat&sheep」には来るたびに必ず立ち寄っています。店主のタイラジュンさん自身も写真家で、沖縄の美術関係の人たちが集まってくるお店でもあるんです。料理もおいしいですよ。
 チョモランマとか南極、北極とか、そういう場所へ行くことが冒険だと強調されがちですが、僕は、山の上でも東京でも沖縄でも「新しい世界と出合う」という意味では、どこにでも冒険は存在すると思うんです。ビジネスマンの人は、日々大冒険ですよね。会社や部下を背負いながら、日々新しい世界と向き合っている。僕なんかがプラプラ旅しているより、よっぽど大冒険ですよ、絶対。

 
 
夜カフェ
rat & sheep


山羊ハンバーグに泡盛。 うちなんちゅうの隠れ家へ

●普天間基地から10kmほどに位置するかつての外人住宅街に昨年オープン。料理はほかに、本日の鮮魚ゆし豆腐のアクアパッツァ(1420円)など。店主で写真家のタイラジュンさんは、石川さんも時折寄稿している写真雑誌『LP』の発行者でもある。
●沖縄県浦添市港川2-13-9
TEL.098-963-6488
営業時間/17:00~24:00 日曜休 カウンター10席 ソファ8席 カード不可


山羊肉など失われつつある伝統的な食材や、無添加ソーセージなど県内の意欲的な生産者が作る食材を使って、旧来の郷土料理の枠にとらわれない新しいスタイルで沖縄の味を今に伝える一軒。
  • 1.ピンザハンバーグパンかライス付き(893円)。ピンザ(宮古島の言葉で山羊)と豚肉の合挽き肉を塩胡椒のみで味付けし、オリーブオイルで焼き上げたシンプルな秀作。溢れ出る肉汁が野趣溢れる自然のソースに。
  • 2.野原カレー(714円)。クミンやコリアンダーに、フーチバー(沖縄のよもぎ)も加えた、インドと沖縄のチャンプルー・カレー。
  • 3.プカプカプーカの口笛ソーセージ(651円)。女性2人によるケータリング会社「プカプカプーカ」製の、県内産素材を使った無添加ソーセージ。オーガニックのシャルドネ(ボトル2415円)と。
  • 4.「しぐれ30度」(1合525円)など、泡盛はやちむんで。
  • 5.外人住宅の趣を生かし、ゆったりと席を構えた店内。

野菜料理
六本木農園


農家直送の野菜がたっぷり。 “夏の鍋”に体も喜ぶ

●小・中規模農家から直接仕入れた野菜を、農家生まれの料理家・舘野真知子さんによる野菜の滋味を存分に生かしたオリジナルレシピで供す一軒家レストラン。
●東京都港区六本木6-6-15
TEL.03-3405-0684
営業時間/月~水18:00~24:00、木~金18:00~26:00、土17:00~23:00 日祝休 小さな畑に面した1階は32席、地下30席。野外のウエイティングバーもある。VISA、MASTER可


ほとんどの客がコース料理で注文。写真は、3のコロッケ以外、すべて農家さん応援コース(3800円)より。
  • 1.ありが豚のさっぱり梅ハーブ鍋。スープは梅を利かせただしにローズマリーとタイムで風味をつけたもの。後ろの豚肉とおかひじきはしゃぶしゃぶしていただく。
  • 2.夏の“特集農家”さんのウエルカムベジタブル。わさび菜などの生野菜5~6種類は、古代ひしおのサワークリームソースで。ほかにも、とうもろこしのグリルやトマトと蜂蜜のジュースなど、旬の恵みが詰まった前菜だ。
  • 3.国産豆と雑穀のかぼちゃコロッケ(780円)。花豆などの数種類の豆と雑穀、かぼちゃをペーストにしてコロッケに。トマトソースとルッコラがよいアクセント。
  • 4.3種のお惣菜。右から、蒸し新じゃがのルッコラセサミペースト和え、白ごまとこんにゃくの根菜シャキシャキサラダ、土遊野農場の平飼い卵の冷たい茶碗蒸し。
  • 5.畑に臨む店内。
 
 
PRESIDENT 2010年8.16号
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