職場の心理学 [245]

業績不振の根を断つ
「クイックヒット」の法則

 
 

企業再生の現場で求められているのは即効性のある施策である。
疲弊とリストラ不安の入り交じった組織で
大胆な改革を成功させるための秘訣を、事例とともに紹介する。

 
 

ジェネックスパートナーズ シニアクライアントパートナー
河合 拓=文
text by Taku Kawai
●かわい・たく 商社、外資系コンサルティングファームを経て、現職。SPA向けブランドポートフォリオ、総合商社業務改革、百貨店SCM構築支援、新規チャンネル戦略、M&A戦略などを手がける。

高橋常政=イラストレーション

 
 

企業再生へのスタートは
「踏み絵」の儀式から


 「レポートはいりません。お客さんを紹介してください。実際に実務を助けてください」
 最近では、こんな依頼が多くなってきた。5年前、我々は大企業の経営者に「レポート」を提出し、戦略のアドバイスをするという仕事をしていた。しかし、最近ではそういう仕事はめっきり減ってきた。なぜなら、昨今の経営課題の深刻さは、レポートだけで解決するレベルを超えているからだ。
 弊社に相談してくるクライアントは、資金はすでに底をついているが、借金をしてでも最後の一手に懸けなければならない状況に追い込まれている。この「一手」が失敗したら、従業員やその家族を路頭に迷わせることになる。当然、投資や融資を検討している金融機関は慎重になる。「レポートを読んでくれれば上手くいきます」と言ってもダメで、「私が自分で、責任を持って現場に入り、この計画を達成します」と言わなければ話は前に進まない。

 我々が支援している改革は、経営者を前にして「過去の反省」を役員会でプレゼンすることから始まる。通常、業績が悪化する組織では、この「過去の反省」を曖昧にし、問題の所在を明らかにしないまま「改革案」を始めることが多い。しかし、問題の根本原因を明らかにしなければ、どのような手を打っても同じ状況に陥るだろう。ここまでに至った因果関係を経営者に同意させる。これは、改革を進めるうえでの「踏み絵」の儀式となる。
 我々の経験から言うと、企業が不振になった原因は次の三つとなる。
 まず、社長の放漫経営。社長以外の役員はみなそれに気づいている。しかし、誰もそれを言わない(言えない)。なかには、次々に明かされる会社の実態を聞いて、今まで隠してきたことが明らかにされていく爽快感を感じながら、うれしそうな顔をしている人もいる。
 第二に、過去、神風が吹いて大成功を遂げた企業が、成功体験から抜けきれず、世の中が変化しているのに自己改革を怠った結果、不振に陥るケースだ。その場合は、我々に対して「おまえら素人に何がわかる」という態度となる。彼らは、この期に及んでも自己否定をしない。頭ではわかっていても体がついていかない状況になっている。
 最後に、組織全体がサラリーマン化し、自分でリスクをとる仕事の仕方をしていない。外の環境はどんどん変化し、中国などから安価な競争品が入ってきているにもかかわらず、ゆで蛙のように昔の仕事のやり方を続けていたために業績不振に陥ったケースだ。この場合、我々からの反省論は「右から左」に流れ、誰も聞く耳を持たない。

 このような状況で再生のプロジェクトはスタートすることになり、こうした状況を打破するためにはちょっとしたコツが必要になる。
 業績悪化の原因が明らかになればなるほど組織では「犯人探し」が行われ、「特定の誰か」がやり玉に挙げられる。しかし、さらにさかのぼって分析すれば、組織のシステム、仕組みに起因することが多い。このように、責任の所在を明らかにしつつ、その根本原因を、最終的には「組織」や「仕組み」の不具合と説明していく。「反省と将来の展望」という相反する感情を同時につくり上げる繊細さがポイントになる。

 ここで、弊社で実際に手がけたある製造業の再生事例を紹介しよう。
 この会社は地元の名門企業で、独自素材を市場に供給することでマーケットにおいてユニークなポジションを確立していた。しかし、当時、中国からの安価品の攻勢にさらされ、製造現場では工場稼働率が40%にまで落ち込んでいた。流通の中抜き、不採算製品からの撤退など様々な手を尽くしたが、しょせんは縮小均衡路線を踏襲しているにすぎず、赤字は拡大。とうとう売り上げは5年前の半分近くに落ち込んだ。「今期中に黒字化しなければ、この事業からは撤退します」という本部長の宣言でプロジェクトはスタートした。
 こうした不振企業に必要なものは、明確でシンプルな成長戦略のコンセプトだ。難解な経営理論を振りかざし、複雑な説明をすることが戦略スタッフの仕事だと勘違いしている人がいるが、この手の戦略は、内容が難解なだけに「裸の王様」になりやすく、わかりにくいがゆえに、そのまま合意されてしまうという危険性を持っている。しかし、そもそも、その本質を理解している人がいないので、プロジェクトが進むにつれ、様々な解釈が生まれ、組織がバラバラになる。


「あたりまえのことを
ばかにせず、ちゃんとする」


 我々は、この再生現場では、可能な限り戦略を単純化した。その秘訣は勝てる製品・市場への「絞り込み」である。当時、顧客のセグメンテーションが曖昧だったため、同社の製品群は1000を超えていたのだが、顧客のニーズ、競合との関係性から、これらを12に再分類し、それぞれにおいて、価格政策と原材料の配合から、製造プロセスまでを、市場の要求特性に応じて変えていった。また、顧客を、売上高と利益率で重点、非重点、撤退に三分類し、営業人員を再配置していった。このように「誰が、どの製品を、どの客に、いくらで売り込むか」という明確な目標を示し、営業活動を単純化したのである。

 このような話をすると、多くの人は「そんなことはうちでもやっている」と言うだろう。実際、この製造業の会社でも、同じことを言われた。しかし、よく話を聞くと、「やっている」と言っている人はほとんどが企画部門の人間か、現場に管理を丸投げしている管理職であり、実際は、嘘だらけの営業日報で、進捗管理をしているレベルだった。彼らは、一切現場を見ていない。
 God is in the details (神は細部に宿る)とはよく言ったもので、明確な戦略コンセプトは、徹底した現場主義とセットにしなければ意味がないことを知っておく必要がある。通常は、この二つが分離され、「私、考える人、あなた、やる人」と、頭と手足がバラバラに動いている。

 こんなこともあった。私が「日本市場でダメなら、海外の可能性があるのではないか」とたずねた。彼らは、大した調査もせず、外部のコンサルタントに調査を依頼し、海外はダメだと先生が言ったという。私が「それなら、一緒に調査に行きましょう」と海外に同行し、彼ら自身が海外の顧客と交渉するのを、自らの目で見届けた(結果は残念ながらうまくいかなかった)。しかし、こうしたアクションの結果、わからなければまず自分でやってみようという意識が高まり、組織力をまとまった方向に向けられるようになった。
 不振企業では、「即実行」というアクションがとられず、企画に対しての検証が放置されている。この組織も「海外出張は金がかかる」とか「この大事なときに旅行か」などと嫌みを言われ、企画がつぶされてしまっていた。考えてみれば、外部のコンサルタントに高いお金を払って調査を行うより、直接自分で海外に行って、やれるだけやってみればよいのだ。そのほうがよほど安上がりだし、実感値も高い。

 だから、事業を復活させることができる秘訣を一言で言え、と言われれば、我々は「ABC」と答えることにしている。ABCというのは、「A=あたりまえのこと」を「B=ばかにせず」、「C=ちゃんとする」の頭文字をとったものだ。我々が手伝えることは、経営と実務のPDCA(Plan Do Check Action)をひたすら実直に回すことだけである。


ヒエラルキーを脱した
抜擢人事が
戦える組織をつくる


 次に、適切な組織、体制の構築である。従来の組織体制で再生プランを手がけても、うまくいかないことが多い。こうなるまで放っておいたのは既存の組織なのだ。その組織が心を入れ替え、明日から全く違うやり方をするというのは考えにくい。「戦える組織」をつくるため、既存組織のヒエラルキーにあてはまらない抜擢人事を行うことになる。
 我々は、このセオリーに従って、改革チームを組成した。しかし、このクライアントは、従来のヒエラルキーに沿った形で「担当課長」や「担当部長」でプロジェクトを進めようとした。我々は、経営トップと議論をし、最終的には、間接部門や他事業部からも人を抜擢し戦闘配備した、新たな組織を組成した。ここからわかるように、再生の現場では、しばしば大胆な組織改革が必要となり、こうした意味でも、プロジェクトは経営トップを巻き込んだ体制づくりが前提となる。

 再生が始まった組織では、たび重なるリストラと「土足で上がり込んでくる外部の人間」に、不安と疲弊が入り交じった状態になっている。
 こうした組織の不安を解消する最もよい方法は、なによりまず「短期で出せる成果」を出すことだ。しばしば古い体質の組織では、車座と称して管理職が飲み会を開き、現場の愚痴を聞いて回るということをしがちだが、「具体的成果」のないまま飲み会をやっても、ネガティブな雰囲気が組織に蔓延するだけである。
 弊社では、「短期に出せる成果」のことを、クイックヒットと呼んでいる。クイックヒットは必ずしも経営課題と直結していなくてもよい。成果の大きさよりもスピードのほうが大事だ。我々の経験から言えば、最初のクイックヒットは1カ月以内に打て、である。

 最後に、絶対に再生できるという信念が必要だ。今まで改革を進めてきた経験のある方は、よく胸に手をあてて自分に聞いてみてほしい。「あなたは、本当に改革が成功すると信じていたか」と。おそらく、大多数の人が「また始まったか」という気持ちで、上から言われたことをやっていただけという状況ではなかったか。
 こんな話がある。このプロジェクトの中間報告会で、目標としていた数字が達成できない状況になったとき、報告会前日、プロジェクトルームで最も青い顔をしていたのは、当時コンサルタントとして現場に入っていた私だった。周りのチームの人々(組織の当事者たち)が、あまりに絶望的な顔をしている私を見て心配になり、私に対して「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私たちが何とかしますから」と声をかけてくれたぐらいだった。
 そのとき、私は「この人たちは、心の底から黒字化を達成すると信じていないのではないか」と感じた。この事件があった後、チームの人間と毎日のように個別に話し合い、ひざ詰めで、「なんとしてもやりきろう」と語り合った。いつしか、こうした「熱意」は組織に伝播し、業績が少し上向いたときがトリガーとなって戦闘能力が高まり、全員が「戦う集団」に変わっていった。今思い出せば、この「やる気の変化」が、最も業績向上に寄与した気がしてならない。

 さて、実際に弊社が手がけた製造業の再生事例を紹介しながら、事業再生について語ってきた。ここで「事業再生」のために必要なことをまとめたい。
 企業は、組織の集合体であり、組織は事業活動の集合体である。また、事業とは、その事業を動かす「個人」力の結晶だ。従って、企業、事業を再生させるためには、個人の活動現場にまで下りてゆき、丹念に個々人の意識を変えてゆく必要がある。全体的にこういう傾向だから、漠然とこうすればうまくゆく、などという成功例は聞いたことがない。
 私は、戦略スタッフとして極めて有能な人物が、企画部門に配置され、管理側になった瞬間に、ハンズオフ(丸投げ)になり、「権限委譲」の名の下に「責任放棄」のマネジメントを行っている姿を何度も見てきた。また、その結果、現場の方向性がバラバラになり、組織の縦階層(機能別)、横階層(役職別)に深刻な断層、亀裂が生じ、事業がどんどん毀損するというのが業績悪化のスタートとなる。
 事業再生とは、マネジメントそのものであり、実直なまでに経営のPDCAを守り抜くことなのである。


 
 

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