ビジネススクール流知的武装講座 [245]

誰が「頼れるミドル」を滅ぼしたのか?

 
 

現場と経営の板ばさみにあう中間管理職……
ミドルという言葉が前向きに語られなくなって久しい。
現在のミドルの衰退は組織や経営にも責任があり、その復活が
企業繁栄の鍵を握る、と筆者は説く。

 
 

一橋大学大学院商学研究科教授
守島基博=文
text by Motohiro Morishima
東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科社会学専攻修士課程修了。イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。組織行動論・労使関係論・人的資源管理論でPh.D.を取得。2001年より一橋大学商学部勤務。著書に『人材マネジメント入門』『21世紀の“戦略型”人事部』などがある。

平良 徹=図版作成

 
 


なぜ「ミドル」のイメージは
失墜したのか


 「ミドル」という言葉を聞いたとき心に浮かぶのは、いいイメージだろうか、悪いイメージだろうか。昔はいいイメージも多かった。「ミドル・アップアンドダウン・マネジメント」などという言葉で表現されるように、ミドルは経営からの方針や戦略と、部下のもつ現場情報を組み合わせ、そこから自部門の次の展開に関する戦略をたて実行する。また、目標の達成過程で、部下の意欲をうまく保ちながら、同時に部下を育成する。部下への配慮を怠らない、人間性あふれるリーダーの姿がそこにはあった。
 そして、しばしばその過程で、自分が常日頃考えているアイデアを、そっと戦略に盛り込んで組織変革を目指すのである。実際、野中郁次郎氏が描く知識創造型経営の中核は、そうしたミドルであり、そうした描写がさほど違和感なく受け入れられるほど、企業の競争力が健全なミドルに依存していた。

 だが、これに対して、最近はマイナスのイメージが多いように思う。トップダウンで指示を出す経営と、権限委譲を求める現場との狭間で苦労するミドル、自らの成果ノルマと部下の管理監督を上手にバランスできずに苦悩するミドル。または経営による方向性提示をそのまま部下にフォワードする“転送”ミドル。
 さらには部下育成のための余裕がなく、困ってしまっているミドル。職場に増えた非正規社員とどうコミュニケーションをとっていいかわからず困っているミドル。ミドルという言葉からポジティブな要素が大きく失われた。

 こうした状況にいたった原因は何なのだろうか。しばしば指摘されるのは、ミドル自身の弱体化だ。ミドルの資質や能力、意欲が低下したという議論である。確かにこの側面も見逃せないのかもしれない。しばしばこうした主張に基づいて、リーダーシップなどに関する、一層の研修や育成が一つの解決策として展開される。
 でも本当にそれだけなのだろうか。本当にミドルの能力が低下したことが主な原因で、ミドル研修を行うことが主な解決策なのだろうか。
 私にはそうは思えない。なぜならば、現状を見ると、ここにあげたようなミドルの姿は、必ずしもミドルのもつ能力の低下によるのではなく、むしろそれよりも、ミドルの置かれている状況が変化し、ミドルの力を削いでしまっているように思われるからである。
 ここしばらく多くの日本企業で行われてきた組織や経営改革、さらには新たな人事制度の導入が、現在ミドルが示す一見能力不足かのように見える現象の背後にあるのではないだろうか。


ミドルを危機に追いこむ、
三つの“職場寒冷化”


 言い換えると、私は、ミドルが自らの役割を十分発揮できなくなったのは、経営の仕業なのではないかと思うのである。したがって、ミドルは強化されるべき存在ではなく、支援されるべき存在となる。
 では、より具体的にはどういう要因が絡んでいるのだろうか。いくつもあるのだろうが、私は主に三つの要因が潜んでいるように思う。私は、この三つをまとめて“職場寒冷化”と呼んでいる。この環境変動により、ミドルマネジメントが危機に陥っているのである。

 第一は、組織のスリム化とコストカットである。バブル経済が崩壊してからの日本の職場では人員など資源一般のスリム化が大きく進んだ。その結果、職場は、質的に見ても、量的に見てもぎりぎりの状態に置かれているのである。上記にのべたようなミドルが戦略性や人間性を発揮するには、ある程度の余裕が必要だ。だが、そのための“のりしろ”が減っている。日々の仕事に追われて、部下への配慮や育成をする余裕すらないのである。新たな方向を考える余裕などとてもない。
 ちなみに、愛知県経営者協会が平成21年度に行った質問紙調査(研究報告書「『ミドル』を活かせ」)でも、「ミドル層が抱える業務遂行上の課題や悩み」として、多くの回答が集まったのは、「職場の人手が足りない」(46.7%)、「ノルマや課題達成といったプレッシャーが強い」(30.2%)であった。忙しさやプレッシャーに追われて、自分ならではの仕事ができにくい現場ミドルの姿が浮かぶ。他のミドルに関する調査を見ても、ほぼ同様の結果である。

 第二は、人材に関する新たな考え方の浸透、特に“成果主義”の普及である。ただし、ここでいう成果主義とはいわゆる賃金制度としての成果主義ではない。賃金制度改革としての成果主義の副産物として進展した、成果や結果を出すことへのプレッシャー増大を指す。
 いうなれば、“できる人”とはどういう人かに関する判断基準の変化であり、具体的には、マネジメント能力ではなく、目に見える形での業績貢献が、人材評価の基準として重視されるようになったことである。また、こうした状況は、ミドルのプレーイングマネジャー化でも強化された。
 人材に関する価値観の変化だから、本当の成果主義の到来だともいえよう。ミドルにも、成果を出すプレッシャーが大きくのしかかり、本来のマネジメントの仕事がやりにくくなってきたのである。
 愛知経協調査でも、前記した業務遂行上の課題や悩みの上位にノルマや課題達成へのプレッシャーがあげられる点や、実務とマネジメントの比率に関して、実務を減らしたいと考えるミドルが半数以上(50.9%)いるのである。そして、実務を減らしたいと考えているミドルは、「組織全体を見渡したい」(実務を減らしたい50.9%中、33.3%)、「マネジャー特有の業務に専念したい」(同、29.8%)、「自ら課題を構築し、解決したい」(同、13.2%)などをその代わりにする仕事としてあげており、実務を減らして、よりマネジメント的な仕事をしたいと願うミドルの希望が読み取れる。

 そして第三は、ミドルが現場リーダーとして育つ機会が減少したことである。多くの企業で、階層別研修などのミドル支援のための研修が減少し、選抜型のシニアリーダー育成へと予算が振り分けられた。また、企業自体の事業変革や、組織再編などが行われるなかで、これまでの順調なキャリア発達が阻害される側面もあった。さらにOJTに依存してきた現場リーダーの育成は、職場の育成機能の低下により阻害されている。職場は、ミドルマネジメントになるまで、後輩指導を通じて、チームを率いる能力を獲得する場であった。その意味で職場は、リーダーシップを学ぶ教室だったのである。
 愛知経協の調査でも、業務遂行上の課題や悩みとして、「これまでのキャリア形成が不十分だった」を24.0%があげるなど、力不足、能力不足、経験不足を感じるミドルが多いことが明らかになっている。さらに自らの役割をよりよく果たすために必要なスキルとして、58.7%が、「上司と部下のコミュニケーション能力」をあげている。多くのリーダーが自分の力不足感で悩んでいるのである。


“絶滅危惧種”のミドルを救う
四つの方法とは


 職場寒冷化により、いわば、“絶滅危惧種”とでもいえる状態になってしまったミドルを救うためには何が必要なのだろうか。
 大きく四点があげられよう。
 まず第一に、ミドルが役割発揮を行うために必要なスキルを習得するための研修や育成を会社が行うことである。研修や育成は、最終的な解決策ではないが、その第一歩ではある。選抜型の経営リーダー育成への注目に比較して、現場リーダーが仕事をするための知識獲得の機会は以前に比べて縮小している。これまで現場でのOJTに頼ってきたミドルの基本動作スキルの習得を、意図的な育成計画として再構成し、施策として実施していくのである。

 第二が、意図的なジョブローテーションである。ジョブローテーションは、「経験の場をつくり出す」ための施策である。多くの企業で、仕事における専門スキルの強調などにより、職場内での柔軟なジョブローテーションが難しくなってきている。さらに、事業部制や分社化などが進むなかで、部門を超えたローテーションはさらに難しい。この点も意図的な経験付与施策として導入することが必要だ。

 そして第三が、実務とマネジメントとのバランスを再構築することである。確かにミドルというのは集団(部門)の長であり、部門全体として成果を高めることが求められる存在なのである。本来の役割に力点を置けば、部門管理を行い、メンバーがさばけない異常事態に対処するのが、ミドルの役割である。
 もちろん、プレーイングマネジャーの状態を避けられない以上、部門管理と、部下がもちこむ異常への対処だけがミドルの仕事だと言い切ることはできないかもしれない。でも、少なくとも「プレーイングマネジャー」という考え方は、ミドルマネジャー本来の姿ではないという認識は必要であり、ミドルがマネジメント業務を行えるような職務再設計をする必要がある。

 そして、第四が、人材育成の行われる場としての職場の再生である。職場は、単に仕事スキルの獲得の場ではなく、他人とのコミュニケーション能力を高める場であり、また、チームワークや協働のやり方を覚える場である。
 職場の変質により、OJTが機能不全に陥り、ミドルが力不足感をもっていることは先に見たとおりである。これに対して、off-JTをより計画的にしていくことに加えて、同時に職場のOJTを復活、再生させることにも注力すべきだろう。

 ここにあげた対策は、単に研修などを通じて、ミドルの能力を高め、問題に対処するという考え方ではなく、環境への働きかけとミドルへの支援を重視した、期待される役割を発揮しやすい環境の整備が必要だという考え方に基づいている。
 冒頭で述べたように、日本の企業が成長していた時代、ミドルは、新機軸を生み出し、実践のための方法を考え、組織を動員して、企業の成長を支えてきた。その意味で「戦略ミドル」だったのである。こうした競争力の源泉としてのミドルによる役割の遂行が、環境要因からのプレッシャーによって困難になってきた。職場寒冷化に歯止めをかけ、ミドルを再生させることは、多くの企業にとって必要なことである。
 だが、こうした施策はある意味では対症療法である。長期的に必要なのは、新たな企業の姿のなかで、ミドルとは何をする存在なのかに関する議論を起こし、新しい戦略ミドルの役割像を構築し、競争力の基盤としてのミドルを復活させていくことだろう。
 ミドルが本当に疲弊してしまう前にこうした動きが、いま求められている。手遅れにならなければいいが……。

 
 
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