人に教えたくない店 [433]

成功するのは「美味しく食べてきた」人。
テーブルを通じて、人と人とをつなぎます

ますい志保さん

 
 

銀座「ふたご屋」ママ・作家
ますい志保
Shiho Masui
1968年、神奈川県生まれ。13歳からタレント活動を始めるが家族離散で15歳から自活。簡易宿泊所暮らしなどの紆余曲折の末に明治大学文学部を卒業する。その後、縁あって銀座に“就職”。94年、双子の妹、さくらとともに、銀座に会員制クラブ「ふたご屋」を開店した。2003年に子宮癌を発症したが、無事快癒。波瀾万丈の人生経験を綴ったエッセイはベストセラーとなった。現在は小説執筆に情熱を注ぐ。処女長編『ブラック・シャンパン』は“平成の『黒革の手帖』”と評され注目を集めている。

構成・文/須藤靖貴
撮影/古市和義

 
 

 美味しいものを食べるよりも美味しくものを食べたい。そう著作に書いたことがあります。
 もちろん、美味しいものを美味しく食べることが最高です。ということで、文句なしに素晴らしい2店を紹介させていただきました。どちらも味のよさはもちろん、お客をもてなす心にあふれています。クラブのママとしての勉強にもなりますし、一人の客としてもとても豊かな気持ちになれる店です。
 家庭の問題などいろいろとありまして、15歳で妹と一緒に自立しました。食べることもままならず、ずいぶんと苦労してきました。レトルトのカレーなどは滅多に食べられないご馳走で、一袋をお湯で倍に薄めて二人で分け合ったものです。
 そういう経験があったせいか、銀座で勤めだした初日、お客さまになにかご馳走してやると言われて、「カレーライス」と答えてしまって。テーブルの下で、先輩のお姉さん方から“草履キック”が飛んできましたね(笑)。ここは「お寿司」と言わなければいけません。当時、私が思い浮かべるご馳走はカレー、おでん、焼きそばだけでした。
 そんな感じの銀座デビューだったものの、エネルギッシュに働きました。高級なものでもそうでないものでも、なんでも美味しくいただき、仕事を頑張る。ご飯が食べられない苦しみ、ひもじさの経験は、経済的に潤うようになってからも決して消え去るものではありません。だから、いつだって食事のシーンは楽しいこと、ありがたいことなのです。そして、一人で食べるよりも、みんなでにぎやかに食べるほうが気持ちがいいのですね。

 仕事柄、いろいろな人を見る機会に恵まれました。強い人、成功する人を見ていますと、「たくさん、美味しく食べてきた人だな」と感じます。なにを食べてきたかではなく、いかに多くのテーブルを囲んできたか。強い人、成功する人は「つなぐ」ことの大切さを知っています。だから異なった職種の人どうしをつないだり、他の部署を巻き込んだりして、より豊かで大きな仕事ができるのでしょう。敵対する人でさえ味方に取り込んでしまう度量を持っているのですね。人と人をつなぐ一番の場所は、会議室ではなく、お皿の載ったテーブルだと思います。
 多くの著作を出させていただきまして、いまは小説執筆に勤しんでいます。机に向かう孤独で苦しい作業ですが、長編を脱稿したときの打ち上げは、やはりこういう店にということになりますね。素敵な場所で美味しく食事ができると思えば、やる気がわき上がってきます。
 私の店も、お客さまにそう思っていただける素敵な場所に─そう思いますね。

 
 
てんぷら
近藤


味の本質を見つめてきた名人が シンプルに表現する芸術

●天ぷら職人・近藤文夫さんが1991年に開店。熟練の技を堪能できる。「素材の味を超えられないのなら、揚げないほうがいい」との言葉には頷くしかない。2004年には全面バリアフリーに改装。国内外の顧客に愛されている。
●東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル9F
TEL.03-5568-0923
営業時間/12:00~13:30(LO)、17:00~20:30(LO) 日曜と祝日の月曜休 カード各種 カウンター25席 全席禁煙 予約制


夜のコースは1万500円から。
  • 1.この日の「えび」は天草産。
  • 2.指宿産の「そらまめ」。若い豆が適し、季節が進むにつれて使用産地は北上していく。
  • 3.「にんじん」。口の中に甘みと旨みが広がる。「にんじんのいいところだけが味わえる切り方、揚げ方です」(近藤さん)。
  • 4.とろけるような「天然ふぐの白子」(写真手前)と「利尻産ウニ」。

京懐石
菊乃井 赤坂店


すべての皿に季節が薫る、 本物の京都を、忠実に

●都会の喧騒の中にひっそり光る京数寄屋のたたずまい。出汁を取る水も京都の井戸水を使用。「ひたすらに“京都”をお届けします」とのモットーで最高のもてなしを。辻昌仁料理長が腕を振るう。
●東京都港区赤坂6-13-8
TEL.03-3568-6055
入店時間/昼12:00~13:00、夜17:00~21:00 日曜休(夏季・年末・年始休あり) 1階は35席、2階は個室。いずれも要予約


昼懐石1万500円、夜の懐石は1万5750円、1万8900円、2万1000円(夜はサービス料別途)。写真は春の懐石1万5750円のコースから。
  • 1.甘鯛の身にからすみの粉をかけて焼きあげる「甘鯛唐墨粉焼き」(写真は3人前)。
  • 2.梅の季節が過ぎてつくしが顔を出す趣向の「かくれ梅」。梅干しの風味が口の中でじんわり爽やかに広がる。
  • 3.「菜の花蒸し」は菜の花畑に見立てた蓋物の逸品。にんじん、きくらげ、百合根とおからを和えた団子にウニの餡がかかる。器には蝶が!
  • 4.「八寸」には筍、うど、わらび、菜の花、いいだこといった春の味が満載。手前は白魚の握り寿司。
 
 

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