人に教えたくない店 [426]

故郷・越後に真正面から向き合った
『天地人』は、しんどい仕事でした

火坂雅志さん

 
 

作家
火坂雅志
Masashi Hisaka
1956年、新潟県生まれ。早稲田大学在学中から歴史小説に没頭する。出版社勤務後、88年に『花月祕拳行』で作家デビューを果たす。豊臣秀吉の侍医兼参謀を描いた『全宗』、徳川家康側近の金地院崇伝を題材にした『黒衣の宰相』などの意欲作を多数発表。今年のNHK大河ドラマの原作になった『天地人』で中山義秀文学賞を受賞した。現在、新潟日報などに小説「真田三代」を連載中。「この作品でも『天地人』と同様に、主舞台の長野、群馬の食材が頻繁に登場します」というから楽しみだ。

構成・文/菊地正憲
撮影/岡本 凛

 
 

 私の著書が原作のNHK大河ドラマ「天地人」は、幸いにして終盤を迎えた今も高い人気のようです。でも、この『天地人』の執筆は、実は私にとってしんどい仕事でもありました。故郷である越後に、真正面から向き合わなければならなかったからです。私にとって故郷とは、ありがたいけれども少々うるさい親のように、大きくて重い存在なのです。
『天地人』の主人公の直江兼続、そして主君の上杉景勝も越後の出身です。後に国替えとなり、今の山形県で活躍することになりますが、兼続はそんな雪国の厳しい自然を背景に、私利私欲を捨てて、民を愛し、郷土を守る“義”と“仁愛”の精神を育みました。凍てつく冬に耐え、草木の芽吹く春を待つという風土は、デビューして20年後にようやく大ヒット作に恵まれた私自身の作家人生とも重なり合います。

 戦国期は群雄割拠の地方の時代。それぞれの土地で豊かな食文化も花開きました。兼続たちも、地元の酒、料理を大いに味わっていたはずです。『天地人』でも、酒や食べ物を意識的に多く登場させるようにしました。そうすると、小説に仄かな「匂い」が立ち上ってくるんです。
 特に、極上の米と清らかな雪解け水に恵まれた越後は、私の大好きな日本酒の名産地でもあります。なかでも越乃寒梅は不動の王様。けれども、王様だけに「ハレ」の酒で、人生の節目などのとっておきのときに飲みたくなります。普段飲む「ケ」の酒は、越後の隠れた名酒でもある妙高山の純米酒と決めています。
 越後の食材は、こうしたうまい酒によく合うんです。海の幸なら、南蛮エビの刺し身とバイ貝が抜群に美味。野菜で言えば、新潟県人が特別に好む枝豆のほか、菊の花、ナスの料理も、酒の肴にうってつけですね。豚肉も特産で、越乃寒梅のような淡麗辛口の酒と相性がいい、もち豚のしゃぶしゃぶをよく食します。

 越乃寒梅の蔵元が経営している「きた山」は、酒はもちろん、肴も信頼できます。
 山形料理については、米沢牛など牛肉もいいですが、私はなんといっても山菜を挙げたい。実は、山菜は山形産が日本一おいしいと思っています。最大の決め手は雪。適度な雪が山菜を柔らかくするんです。
 それと、山形の人々が、とにかく山菜にこだわりを持っていることに驚きます。まず、種類が膨大にある。同じ春の山菜でも、早春から晩春まで、いくつもの時期に分けて旬のものを探して、独特の料理に仕立てるんです。そのほろ苦さと野趣が、これまた日本酒にぴったりなんです。
 山形屈指の老舗旅館が東京・銀座で経営する「古窯」は、地場の山菜も揃っているし、落ち着いて飲める雰囲気が気に入っています。

 
 
日本酒 越乃寒梅
きた山


地元の豊かな逸品が 銘酒をより引き立てる

●米どころ新潟が生んだ名酒「越乃寒梅」の醸造元である石本酒造が、2003年に開業。地元の食通に愛される店づくりをモットーにしている。火坂さんイチ押しの近海産魚介類も豊富に取り揃えている。店内は全体的に明るい雰囲気だ。
●新潟県新潟市中央区東堀前通9-1384-3 きた山ビル1F
TEL.025-222-3588
営業時間/17:30~21:30(LO) 日・祝日休 テーブル20席、小あがり10席、個室1室 カード可


  • 1.地元トップクラスのブランド豚「越後もち豚」と越乃寒梅特撰を使った「日本酒仕立しゃぶしゃぶコース」5000円。お通し、前菜のほか、南蛮エビやキスなどの刺し身、生野菜、デザートが付く。もち豚の量も1人前200gとたっぷりだ。火坂さんは「臭みがまったくなく、豚肉本来の旨みが味わえる」と高く評価する。
  • 2.「にぎり寿司」1200円。寿司だねは中トロ、イカ、赤貝、ヒラメ、そして珍しい地元特産の芽ネギなど。
  • 3.言わずと知れた日本海の高級魚ノドグロを使った「ノドグロの塩焼き」時価。脂が乗る冬が旬だ。
  • 4.「きた山サラダ」1000円。季節の野菜に茶そば、温泉玉子などが入り、華やかでボリューム感がある。女性客に大変人気があるという。

日本料理
古窯


選び抜かれた素材から、 技ありの滋味が生まれる

●山形県上山市の老舗温泉旅館の直営。腕を振るう星川直樹料理長は、弱冠28歳の若き実力派だ。山形名物「いも煮」も季節を問わず提供。
●東京都中央区銀座7-6-11 ミクニビル2F
TEL.03-5537-5400
営業時間/月~金11:30~13:30(LO)、17:30~21:30(LO) 土曜日11:30~13:30(LO)、17:00~20:30(LO) 日・祝日休 カウンター9席、テーブル34席、座敷8席 カード可


ここに挙げた料理は要予約。
  • 1.「納豆汁」1050円。山形名物の山菜、きのこ類がふんだんに使われている。コンニャクと納豆が相性抜群。
  • 2.「大根と菊の甘酢漬け」735円。菊、大根は、山形県内の提携農場から取り寄せた無農薬栽培のもの。
  • 3.「ゆず窯」2100円。庄内地方の近海で獲れる冬の魚マダラの白子を贅沢に使用。
  • 4.「冷汁」1050円。山形産の高野豆腐、しいたけを使用。白醤油で口あたりよく仕上げている。
 
 

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