ビジネススクール流知的武装講座 [230]

資本提携、構造改革……
JALは再び羽ばたけるか

 
 

経営再建中の日本航空に対して、米国デルタ航空、
アメリカン航空が支援に名乗りを上げた。
抜本的な費用構造を改善させるために、各航空会社の
本社レベルでの結びつきを強めなければならないと筆者は説く。



 
 

一橋大学大学院商学研究科教授
小川英治=文
1957年、北海道生まれ。一橋大学商学部卒業、一橋大学大学院商学研究科博士課程単位修得、商学博士。88年より同大学商学部勤務。ハーバード大学(86~88年)、カリフォルニア大学バークレー校(92~93年)でvisiting scholar。著書・訳書に『国際通貨システムの安定性』『金融経済入門』『金融リスク管理戦略』などがある

平良 徹=図版作成

 
 


日米航空路のオープンスカイへ
向けたJAL争奪戦


 先日、筆者が北京に出かけるために成田空港から乗った飛行機の中で読んだFinancial Times(2009年9月10日付)に、"Ties in the Skies"(「空の上の結びつき」)というタイトルの付けられた、世界の航空業界の国際的アライアンス(「スカイチーム」と「スターアライアンス」と「ワンワールド」)を比較分析した記事を見つけた。たまたま「空の上」でこのようなタイトルの記事を読んだこともあって、印象に残った。
 また、その出張の帰路、偶然にも日本航空の機内で、アメリカのデルタ航空が日本航空に出資を打診しているという記事を日本の新聞のトップ面で見つけた。さらに、アメリカン航空も日本航空への出資を検討しているという記事が続いた。
 前述した国際的アライアンスという点では、日本航空は、アメリカン航空と同じワンワールドに加盟している一方、デルタ航空は、もう一つのスカイチームに加盟している。これらのアメリカの航空会社にとっては、日米航空路におけるオープンスカイに向けての日本航空との提携の奪い合いという様相となっている。日本航空は、同じ国際的アライアンスに加盟する航空会社から資本提携を受けるのか、あるいは、異なる国際的アライアンスに加盟する航空会社から資本提携を受けるのか、どちらかを選択することになるだろう。今回は、この「空の上の結びつき」について考えたい。

 実は、筆者が、06年8月14日号の「プレジデント」誌に、ニューヨーク証券取引所とユーロネクストなどの証券取引所の国際的アライアンスについて書いた際に、その出だしで、日本航空が航空会社の国際的アライアンスの一つであるワンワールドに加盟するという計画が出されたときだったことから、航空業界の国際的アライアンスを例に出したことがある。それが今から3年前のことであるから、世界の航空業界の状況がこの3年間で大きく変化しつつあることがわかる。いうまでもないが、この間に起こった最大の出来事は、アメリカ発の世界金融危機と世界同時不況である。
 アメリカ発の世界金融危機と世界同時不況は、航空業界にも大きな影響を及ぼしている。サブプライム問題が顕在化する07年夏以前には、フライトが減便される前にもかかわらず、飛行機の中はビジネス客で込み合っていた。しかし、世界金融危機と世界同時不況以降、航空会社はフライトを減便しているものの、それ以上にビジネス客が減少したように見える。


需要の価格弾力性が
低いビジネス客に起こった変化とは


 これまでは、各航空会社は、単価の安い団体の観光客よりも単価の高いビジネス客をより重視して、ターゲットにすることによって、収益を維持してきた。団体の観光客は航空運賃に比較的敏感であるのに対して、ビジネス客は、どちらかといえば、航空運賃にそれほど敏感ではなく、ビジネス客の需要の価格弾力性が低かった。むしろビジネス客は機内で仕事のできる幅広いシート、美味しい機内食、ゆっくり休めるフラットシート、充実したビデオ・プログラムなどのサービスを重視していた。また、航空会社は、ビジネス客の需要の価格弾力性の低さを前提として、世界金融危機が発生する07年までの原油価格の急騰も、燃油サーチャージ(特別付加運賃)に価格転嫁することで対応してきた。
 しかし、世界金融危機による世界同時不況で、ビジネスが低迷していくに伴って、根本的に出張の回数が大きく減少する一方、同時に、単価の高いビジネス客も航空運賃に敏感にならざるをえなくなってきた。このようなビジネス客の構造的な需要の変化の中で、各航空会社はその対応を迫られている。

 Financial Timesの記事に戻ろう。世界には、三つの航空業界の国際的アライアンスが存在する。それらは、デルタ航空とエールフランス=KLMオランダ航空を中軸とするスカイチーム、ルフトハンザ・ドイツとユナイテッド航空を中軸とするスターアライアンス、そして、ブリティッシュ・エアウェイズとアメリカン航空を中軸とするワンワールドである。日本の航空会社については、前述したように、日本航空はワンワールドに加盟している。一方、全日空はスターアライアンスに加盟している。また、これらの三つの航空会社の国際的アライアンスの規模の比較は、表(出典:Financial Times)に要約されている。


利便性にプラスの効果を生む
「ネットワーク外部性」


 日本の航空会社が加盟していないスカイチームは、日本人にはなじみがないかもしれないが、全日空が加盟しているスターアライアンスとほぼ同じ規模をもった国際的アライアンスであることは、表から明らかである。そして、これらの三つの国際的アライアンスの中では、規模のうえでは、ワンワールドが見劣りするのは否めない。
 すでに06年8月14日号の「プレジデント」誌に書いたことを繰り返させていただくと、現代のように、航空サービスのグローバル化が進む中、その基盤となるシステムもグローバル化する必要がある。例えば、航空路のネットワークが国内だけではなく国境を越えて地球規模で構築されなければならず、グローバル・ネットワークの構築が各航空会社にとって必須となっている。航空業界においても、ネットワークのグローバル化が競争原理によって進んできている。

 グローバル・ネットワークにおいては、ネットワーク外部性が作用するといわれている。ネットワーク外部性の
「外部性」とは他人の行動が本人の利便性・効用にプラスの効果を及ぼすことを意味する。そして、ネットワーク外部性の「ネットワーク」とはその他人の人数が多ければ多いほど、プラスの効果が大きくなることを意味する。ネットワークがバイ(二つ)の関係をいわず、マルチ(多角的)の関係をいうように、ネットワークのマルチ化が進めば進むほど、そのプラスの効果は増大するのである。ネットワーク外部性が強く作用するのは、典型的には、航空業界のように人・モノの移動に関わる産業である。
 世界の航空会社は、それぞれにハブ空港を有しており、そのハブ空港を中心にその国あるいはその地域に航路のネットワークを構築している。これらの航空会社が国際的アライアンスを締結して、お互いにネットワークを利用し合えば、自ら外国あるいは他の地域に新しい航路をつくらなくても、他の航空会社のハブ空港までつなげられれば、自らにとっても相手にとっても航路のネットワークが拡充することになる。


「空の上の結びつき」から、
「地上での結びつき」へ


 このような航空会社間の国際的アライアンスによるグローバル・ネットワークの構築は、航路のネットワークの拡充のみならず、予約システムの統合、共同運航による座席の効率的利用(これは国際的アライアンスによらなくとも可能であり、実際に行われている)を促進することになる。このように、航空会社間の国際的アライアンスは、利用客の利便性を高めることによって、収益拡大の源泉となりうる。
 ただし、国内あるいは同地域のライバル航空会社が国際的アライアンスに加盟せず、自らの航空会社のみが独占的に国際的アライアンスに加盟した場合にのみ、このような収益拡大が実現するであろう。しかし、実際には、独占的に国際的アライアンスは構築されずに、国際的アライアンス間の競争が始まってしまう。それが、前述した三つの国際的アライアンスが世界に存在している理由である。一つの拡大しないパイ、あるいは、世界金融危機と世界同時不況で縮小したパイを、これらの三つの国際的アライアンスが食い合っているというのが、世界の航空業界の現状である。

 このような収益拡大をあまり望むことのできない現在の状況で、各航空会社が利益を確保するためには、費用を削減する方法しかない。国際的アライアンスによる費用削減効果は、国際的アライアンスがいわゆるarm's length(つかず離れずの緩やかな)な「空の上の結びつき」のため、限定的とならざるをえない。各航空会社が抱える機材や従業員(パイロットやキャビン・アテンダント)の数を所与として、資本面における結びつきもなければ、費用構造を根本的に改善させることは難しいであろう。むしろ資本提携あるいは救済買収によって根本的に費用構造を改善することが必要となってくる。とりわけ、買収や合併によって、規模の経済が働くことによって、費用削減を可能とすることができる。その意味において、「空の上の結びつき」ではなく、費用構造を根本的に改善させるための各航空会社の本社レベルでの「地上での結びつき」を強めなければならない状況にある。
 複数人数でスカイダイビングをするときに、パラシュートがお互いに絡まないように、arm's lengthな「空の上の結びつき」をせざるをえない。しかし、スカイダイビングでは地上に向けて落ちていくしかない。いかにソフト・ランディングするかが重要である。ソフト・ランディングした後は、「地上での結びつき」を強めて、再び、空に向かって飛び立つことが求められる。

 航空会社の資本提携あるいは救済買収は、欧米ではいくつかの例がある。エールフランスとKLMの合併、デルタ航空によるノースウエスト航空の救済買収など。日本においても、「ナショナル・フラッグ」を背負ってきた日本航空が、経営再建のためにデルタ航空あるいはアメリカン航空から資本提携を受けるかどうかについて、検討が始まった。当然ながら、資本提携を受けるだけで自然に費用構造が改善することはない。資本提携を受けながらも、抜本的な費用構造の改善を図っていくことが求められよう。


 

 
 
PRESIDENT 2009年10.19号
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