ビジネススクール流知的武装講座 [228]
100年商品を育てる
「ブランド・エクイティ」とは
ブランドと消費者との絆である「ブランド・エクイティ」は、
企業にとって重要な財産である。
その維持のためには、消費者市場を細分化して、
各市場に対応するコミュニケーション戦略が必要であると筆者は説く。
化粧品会社では、売上高の
3分の1がマーケティング費用
企業は、市場に向けてさまざまな活動を行う。そのほとんどは、みずからの商品を市場で販売するための活動である。小売り店頭に商品を並べるために、流通チャンネルの小売業者に販売促進費を支払う。また、その商品を広く消費者に認知してもらうために、テレビや新聞などのマスメディアを使って大量の宣伝広告をする。
洗剤等の日用雑貨品メーカーでは売上高の15%分くらいが、そうしたマーケティング費用に回される。化粧品会社ともなると、売上高の3分の1にもなる会社もある。こうした期待を担って支出されるマーケティング費用であっても、もし、その商品がうまく売れなければ、支出した費用と努力はまさに水泡に帰してしまう。買った機械なら再販売できるだろうし、買った技術なら特許を通じてなにがしかの収益を確保することができる。しかし、販促費や広告費は、外に流出してしまい、企業にはそのあと何も残らない……。
しかし、そうではない。商品を販売するために支出された販促費や広告費は、市場に向けた投資でもある。うまくやれば、たとえその商品が市場で受け入れられなかったとしても、企業に重要な財産を残すことができる。それは、流通業者との絆(=信用)であり、消費者との絆(=ブランド・エクイティ)である。ここでは、ブランドについて話を進めよう。
デイビッド・アーカーは、ブランド・エクイティという概念を提起する。そして、その中身となる要素として、
(1)消費者がこのブランドでなければならないというロイヤルティをもっているかどうか
(2)ブランドの名前が知れ渡っているかどうか
(3)そのブランドから高い品質がイメージされるかどうか
(4)ブランドから質のいい連想が生まれているかどうか
といった要素が含まれると言う。
気づかれたことと思うが、いずれの要素も、企業と消費者との継続的な繰り返しの関係から生まれてくるものである。何回か購入せずして、ロイヤルティもないだろう。ブランドの名前も毎日のように宣伝かPRで刷り込まれなければ、すぐ忘れ去られてしまう。高い品質イメージも、ブランドから生まれる豊かで深みのある連想も、毎日のマーケティング諸活動、さらには購入・使用経験を通じて獲得される。
少なくとも企業にとっては、ワンショットの広告や販促でそれらエクイティ要素を獲得するのは難しく、日々のマーケティング諸活動を、時間をかけて継続する中でしか得られないものなのだ。つまり、ブランド・エクイティの構築には時間がかかる。
しかも、日々の活動が相互にバラバラでは、得られるものも得られない。たとえば、キャンペーンを打つごとに、商品の名前が違ったり、提示するイメージが違ったりするのではうまくいかない。あるいは、突然ディスカウントして、これまで使ってくれていた消費者の気持ちを逆なでするのもよくない。そして、当たり前の話だが、不良品を出してはいけない。
毎日のマーケティングにおいて、場当たり的に手を打ってしまうと、一時的に売り上げは上がっても、エクイティは下がってしまう。エクイティ蓄積において、脇の甘さは禁物だ。そうならないよう、日頃から注意深く、かつ体系だったマーケティングを心がけないといけない。こうした注意深い体系だったマーケティング活動を通じて、市場において蓄積されていく資産、それがブランド・エクイティである。
このブランド・エクイティを維持し成長させる役割を担うのが、ブランド・マネジャーと呼ばれるブランド責任者である。ブランド・マネジャーは、ブランド・エクイティの構築と長期的維持に対して、責任と権限をもつ唯一の組織人である。
ブランドから利益を稼ぐことは、もちろん大事。だが、利益や売り上げに過度に意識を集中しすぎると、長期にわたる収益源であるはずのブランド・エクイティを毀損してしまう。そうなっては元も子もない。ブランド・マネジャーを置かずにブランドを管理することが難しいと言われるのは、長期を睨んだブランド・エクイティ維持への関心が薄れるためである。
〈三ツ矢サイダー〉テレビCM、
(品質編)の狙いとは
ブランド・エクイティを継続的に維持成長させていくために、長期的な視野をもった成長プログラムをもっておく必要がある。その方法として、ブランドに関わる消費者市場を細分化して考えるのが、うまいやり方である。具体的に、〈コカ・コーラ〉とか〈ポカリスエット〉とか〈三ツ矢サイダー〉とかをイメージしよう。
まず、そのブランドの消費者市場を細分化して分類する。「ブランドXを嫌いな人」「ブランドXを好きでも嫌いでもない人」「ブランドXを時々飲む人」、そして「ブランドXが大好きな人」といった具合である。
ブランドXにとってみれば、どの細分化された市場も重要だ。ブランドXを大好きな「高いロイヤルティをもった層」は、次の機会において、一番ブランドXを買ってくれる確率が高い層である。しかし、そこにだけ、コミュニケーションを集中してよいわけではない。嫌いな人を好きにさせる努力も、飲まない人に飲んでもらう努力も、そして時々しか飲まない人にもたびたび飲んでもらうための努力も、同じように重要だ。
4つとか5つとかいろいろだが、とにかく、ブランドに対する消費者の関心は異なり、ブランドと消費者との関係は異なる市場を形成する。そうしてつくられた市場なので、それぞれに独特のコミュニケーションが必要となる。関係の違いによって、メッセージの意味がまったく逆になってしまう、これがコミュニケーションの不思議なところ。そういうわけで、せっかく4つの市場に分けたのだから、それに対応する4つのタイプのコミュニケーション戦略をもたないといけない。
図の上は、「ブランドXが嫌いな層」。その層に向けてのコミュニケーションは、ブランドXがこれまで何十年もの間、飲料として高い評価を得てきたことを伝えることだろう。素材の確かさや安全性も訴求ポイントになりそうだ。
最近、流れている〈三ツ矢サイダー〉のテレビCMの一つ(品質編)は、そうしたものだろう。「透明はごまかせない」を謳い文句に、「磨かれた水、果実などから集めた香料のみを使い、非加熱製法の爽やかな味わい、また保存料を一切使わず、安心、安全、自然な透明炭酸飲料です」と訴え、「126年目を迎えた国民的炭酸飲料」としての歴史を伝える。
次の「知っているが、飲まない層」に対しては、飲むためのきっかけとなる機会を提供することが重要だろう。ブランドXを買うと、著名な音楽祭やスポーツ・イベントに参加できるとか、プレミアムグッズが手に入るとかといった手法は、ブランドX購入へと直接に誘導するものである。こうしたキャンペーンは数多くなされるだろうが、ブランド成長の視点で言うと、狙いの焦点はこの市場にある。
第三の「時々しか飲まない(ライトユーザー)層」に対しては、飲用機会についての気づきを与えることが重要だ。時々しか飲まない人にとって、飲用機会はほかにもいろいろあることを教えることが必要だ。たとえば、個人的な気分で飲むだけでなく、仲間が集まる楽しいパーティや、家族の団らん用飲料にふさわしいものだと認識してもらえればよいわけだ。

ブランドにおける
哲学や思想を訴求する理由
最後、最上位の「いつもブランドXを飲んでいる(ヘビーユーザー)層」に対しては、ブランドXがこれまで提唱してきた哲学や思想、あるいは社会的な存在価値の話がそのまま通じるはずなので、それをメッセージとして巧みに訴求する。そうした深い哲学や思想の再確認・再強化を通じて、商品としての鮮度が維持され、消費者にとって年をとっても飲みたい商品として心の中に刻み込まれる。
ブランドには、いくつものキャンペーンが時間を経て続いていく。それらを、手際よく整理し、ブランド・エクイティを育てるプログラムが、ここで言うブランド成長プログラムである。ブランドに関わる消費者市場を細分化して、それぞれの市場にアプローチする手法を、当たり前の組織の方法として、手の内に入れておきたい。
まず、「今回は、どの層に訴求すべきなのか」を決める。顧客の絶対的規模が縮小している時期には、新しい消費者を狙ったコミュニケーションが採用されるだろうし、ブランド自体のアイデンティティが弱ってきていると思えば、ヘビーユーザー向けにあらためて高いロイヤルティを維持・高揚すべくコミュニケーションを図るだろう。
訴求すべき層が決まれば、やるべきコミュニケーションの目的と内容指針は比較的簡単に決まる。大事なことは、自分のブランドの目標を定めること、そしてそれに合ったコミュニケーションのオプションをあらかじめ準備しておくことである。「予期して備える」のは、マネジメントの要諦である。
マネジメントでもう一つ大事なことはPDCのサイクル。「ブランドが嫌いな層に向けて打ったキャンペーン」は、もちろんその他の層の消費者にもいい影響を与えることが予想されるが、それはあくまで副産物。主たる狙いは「嫌いな層」にあって、その層に属している消費者が、そのキャンペーンの後、ブランドXに対する気持ちが変わったかどうかを確認することが一番大事である。キャンペーンの成否はともかく、確認しないことには次に打つ手が見えてこない。
ブランドに対しては長期にわたる慎重な配慮が必要だ。一つひとつのキャンペーンを、何年かのスパンで考えて位置づける。キャンペーンに対する目的を確定する。キャンペーンの成果を目的に沿って把握する。それに応じて次なる手を考える……。こうしたサイクルを動かすのは、ブランド・マネジャーしかいない。その役割は重要だ。










