ハーバード式仕事の道具箱 [164]

激動の時代に組織を率いていくために必要なものとは

乱世に伸びるリーダー、落ちるリーダー

 
 

明日、何が起こるかわからない時代、
組織にも大きな変革が不可欠である。
旧来型の組織を変えるべく、
管理職がリーダーシップをフルに
発揮する助けになる手法を紹介しよう。

 
 

ロナルド・ハイフェツ、
アレクサンダー・グラショー、
マーティ・リンスキー=文
text by Ronald Heifeiz, Alexander Grashow and Marty Linsky

翻訳=ディプロマット

 
 


まずは自分自身の「初期設定」を
知ることからはじめよう


 変化の激しい世界でリーダーシップを発揮したいなら、自分と組織内の人たちに、リスクをとり、より臨機応変に対処することを覚えさせる必要がある。
 リーダーシップの実践は、医療と同じ、二つのプロセス、「診断」と「行動」を伴う。これら二つのプロセスは組織の内部と、自分の内部の二つの領域で進行する。組織と同じく、自分自身もまた、それなりに矛盾した価値観や利害、好みや性向、野心や不安を持つ複雑なシステムの一つなのだ。組織を指揮し、困難な課題をやり遂げようとするとき、自己のさまざまな忠節心の間の対立を経験するだろう。それは自分自身が一つのシステム(自分の組織)の中のシステム(一個人)であるためだ。自分というシステムを理解することは、組織で変革を指揮できるよう自分を調整する助けになる。
 誰でも自分の「初期設定」がある。ここでいう「初期設定」とは、周囲の出来事の解釈法やそれらに対する対処法の癖のことだ。まず、リーダーとして初期設定の内容を知ることが不可欠だ。自分というシステムの中の3種類の初期設定を見ていく。
[1]忠節心 同僚や上司、および自分が関係を持っているすべての人に対する責任の感情。課題に対処しようとするとき、互いに対立することがある。
[2]チューニング 人間は弦楽器のようなもので、他の誰ともいくぶん異なるチューニングがされている。これは、その人の子ども時代の経験、遺伝的素質、文化的背景、社会的性別(ジェンダー)など、さまざまな要素に由来する。
[3]帯域幅 これは変革を指揮するための技のレパートリーをいう。内々での婉曲的な言い方から真っ向対決までと幅広い。
 さらに、これらの初期設定を一つずつ順番に見ていこう。


目標を阻んでいる
「忠節心」の正体とは


 まず、自分自身の「忠節心」の三つの対象・同僚、家族、コミュニティについて検証していく。それぞれへの忠節心が自分をときに複数の方向に引っ張ることに気づくはずだ。もちろん、すべてが同等の重みを持つわけではない。複数の忠節心が対立する場合は、一部の忠節心を他のものより優先させるはずだ。各カテゴリーの最も重要な忠節心を特定するには、次の問いを考えてみるとよい。「自分は誰に対して最も責任を感じているか」「自分が通常と異なることをしたら誰が最も強く反発するか」「自分は誰のサポートを最も必要としているか」。
 一般に、目標を阻んでいる忠節心は自己の意識に上っていない。これらは往々にして、好かれたいという欲求や、権力を持っているとか管理しているとか感じたいなどの欲求や庇護意識や不安から生まれる。それらは人間である以上避けられないものであり、自分自身が世界とどのように付き合うかという点において、強く作用することがあるのだ。


環境や経験による
「チューニング」がもたらす罠


 多くの人は、自分が環境や経験に強く影響されているといわれてもなかなか納得できない。が、自分が人間関係に深く影響を受け、特定の行動の仕方をするよう「チューニング」されているという現実を認めることは大切だ。そうすれば、それらの要因に反射的に反応するのではなく、余裕を持って賢明かつ理性的に行動することができる。
「チューニング」は、リーダーシップを実践する際、リスクとチャンスの両方をもたらすことがある。これを理解しておけば、大きな武器となる。
 たとえば、意見が対立してどうしようもなくなったとする。その場の温度を下げる措置をとる必要があるかもしれないが、自分に対立を楽しむ性向があるとしたら、みなが爆発寸前になっていることに気づきさえしないかもしれない。が、そこにいる他の人にとっては、それは耐えがたいことなので出ていこうとするだろう。もし、自分が「対立」という状況に対してどうチューニングされているかを認識していれば、おそらくサインを見逃さず、休憩を取るなど、冷却に必要な措置をとるだろう。
 逆に、対立に強い嫌悪感を持つようにチューニングされているとする。この傾向は、アルコール依存症によって破壊された家庭や厳格な両親のもとで育った人に多いかもしれない。この場合、議論が生産的な論争につながる温度に達し始めた時点で、動転して反射的に温度を下げようとするかもしれない。その場合、議論による学習プロセスを止めてしまうことになるだろう。
 チューニングには自分を脆弱にする、二つの側面がある。まず、チューニングに対する敏感さが自己の行動を予測しやすくするため、変革の成功を望んでいない人々に簡単に操られてしまう。そして、もう一つは、強みに伴うマイナス面である。
 たとえば、独力で仕事をやり遂げたとき感じる満足感と自負心に強くチューニングされていたとする。このような形で「責任」を引き受けることは確かに長所だが、変革を指揮しているときは、一人で背負い込まず、一緒に責任を引き受けてくれる人に任せることが必要だ。
 仕事を引き受けたくない人は、あなたの責任感を讃えることで、自分に好都合なようにあなたを動かそうとするかもしれない。
 また、他の人があなたのチューニングに気づいているとき、彼らはあなたを煽って彼らの利益を支持させたり、あなた自身の利益から脱線させたりするための力を持つことになる。要するに、操られやすくなるのだ。
 こういった状況が自分に及ぼす力を明確にするため、感情を爆発させる「引き金」について考察してみよう。
 引き金を引かれるのは誰にもよくある経験だ。要するに、誰かが「神経にさわる言動をした」ことである。そんなとき、アドレナリンで煽られる防衛メカニズムが作動するのだ。「知的で戦略的で冷静で上品な」自分が、未熟で防衛的な自分に一時的に覆い隠されてしまう。さらに、そんな自己の言動がおそらく周囲の爆発の引き金になるだろう。不協和音が生じ、生産性が落ちる。自分の権限が大きければ大きいほど、害は大きくなる。
 爆発しそうになっていることに気づくことは、不毛な爆発を制御する第一歩である。


管理職が「帯域幅」を広げると
何が起こるのか


「帯域幅」は、自分というシステムの重要な要素である。関与する状況や人によって、さまざまな技法を組み合わせられることが必要であり、そのためには幅が広くなくてはいけない。
 まず、現在のレパートリーを診断することから始めよう。自己の強みと弱みを知ることだ。これは状況が自分の介入によって好転するか否かや、どのようなときに応援を頼んだほうがよいかを判断する助けになる。
 乱世にリーダーシップを実践するためには、未知の領域に踏み込んで物事をかき回すことをいとわないどころか、その能力にたけているくらいでなければならない。たいていの人は、混乱より安定を、曖昧さより明快さを、対立より礼儀正しさを好む。だが、リーダーは、自分の仕事というものは、混乱や曖昧さや対立を生み出すことであるということを受け入れ、緊張感を変革のばねにする必要がある。
 変革適応を指揮するにあたっては、混乱や曖昧さや緊張に対する耐性を強化することが特に重要なのだ。自分のやり方が正しいか確信が持てないときでも、土俵に留まり続けられるだろうか。
 自分の幅を広げるということは、心地よい領域から出て、自分の無能さが姿を現すかもしれない領域に入っていくということだ。だが、われわれの経験が示唆するところでは、スキルよりも意志の力が働けば、自然と帯域幅は広がっていく。

 
 
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