ビジネススクール流知的武装講座 [226]
「新興国の台頭、G8の限界」
新しい問題解決の道とは
2009年7月8日から10日にかけて
ラクイラ・サミットが開催された。
グローバリゼーションによって、
サミットの拡大化の必要性は高まるが、
筆者はその長短を説く。
家族会議でコンセンサスを
得ることの難しさ
夏休みを前にして、旅行でどこへ出かけようかと家族と相談している読者もいるだろう。あるいは、出かける行き先を家族とすでに決めた読者もいるだろう。今年は、世界金融危機および世界同時不況の影響を受けて、夏休みの家族旅行も海外組が減り、国内組、しかも近場組が多くなっているといわれている。
実際に、今年の夏休み中に成田空港を利用する旅行客の人数は減少することが見込まれている。むしろ高速道路料金上限1000円の影響を受けて、国内旅行のために高速道路は混雑が予想される。
夏休みの旅行で出かける行き先や日程を家族で決めるとき、構成員それぞれの出かけたい行き先が異なるならば、その調整が必要となる。また、日程を決めるにも、構成員の都合のよい日程を調整しなければならない。
子供がまだ幼少のときは、いつどこへ出かけるかは、夫婦二人で決めればよいだろう。この夫婦二人で決めることも、両者の出かけたい行き先の希望が異なれば、その交渉は困難を極めるかもしれないが、夫婦二人であれば、どちらかが折れることで話はより簡単になる。
しかし、子供が成長して、高校生、大学生、そして成人となっていくにつれて、また成長した子供の人数が増えていくにつれて、家族旅行でどこへ出かけるかについて、一種の家族会議を開催しなければならなくなるだろう。これら家族の構成員が日常的に忙しければ、そもそも家族会議を開催することすらおぼつかなくなる。
たとえ家族会議を開催しても、子供たちと夫婦の関心事が異なるならば、家族の構成員それぞれの出かけたい行き先がばらばらとなり、夫婦二人で決めるときと比較して、家族会議においてコンセンサスを得ることの難しさは一層、増すことだろう。そうなると、夫婦は夫婦だけで旅行し、子供は子供だけで旅行したほうがより容易であることに気づき、全員が参加する家族旅行は取りやめようということになりかねない。
類似のことが、グローバル経済における諸問題を解決するために議論する「場」、すなわち、フォーラム(会議)においても起こっている。去る7月8日から10日にかけてイタリアのラクイラで開催された主要国首脳会議(サミット)は、従来の主要先進諸国首脳会議の流れを汲むG8首脳会議、そして、いくつかの新興国が集まって開催された新興国首脳会議、そして、両者を含む拡大首脳会合や主要経済国フォーラムといった、複数のフォーラムが並存する形で開催された。
なぜ先進諸国の間で
国際政策協調を実現できないのか
そもそも主要先進諸国首脳会議は、1975年にフランスのランブイエで先進諸国6カ国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、旧西ドイツ、イタリア)の首脳が集まって、1国だけでは解決することができない、むしろ国際政策協力および国際政策協調によってはじめて解決することができる、これらの国々が共通に直面する諸問題を議論する「場」として始まった。
最初のランブイエ・サミットでは、6カ国のみの参加であったことからG6首脳会議であった。しかし、翌年、プエルトリコのサンファンで開催されたサミットでは、カナダが加わって、G7首脳会議となった。その後、90年代にロシアが非公式、あるいは、公式に部分的にサミットに参加することとなり、98年にイギリスのバーミンガムで開催されたサミットから、G8首脳会議と呼ばれるようになった。
ロシアを先進国と呼ぶことができるかどうかは議論のあるところであるが、少なくともロシアを除く7カ国は主要先進諸国とみなされて、これらの国にとって共通の問題がこの会議の場で議論されてきた。
先進諸国首脳が開催する会議だからといって、必ずしも毎年のG8首脳会議において円滑に合意形成がなされてきたとは限らなかった。例えば、為替相場水準に関する認識に差異があったり、あるいは、為替相場の安定化に関する共通の認識が取れなかったときもあった。
日本が円高を経験したとき、為替相場の安定化を日本政府が主張しても、アメリカ政府などがそのことに関心を示さなかったこともある。このように、先進諸国という同じ特徴を持った国と国との間においても、国際政策協調を実現できなかったときもあった。
そもそも国際政策協調とは、各国政府が他の国の政府の政策を所与として、自国にとって最も望ましい政策を採ろうとしたときに、結果的に望ましくない状態に陥ってしまう状況において、そのような状況から抜け出すために、国際的に政策を協調することによって対処しようというものである。逆に言うと、国際的に政策の協調ができていないとき、すなわち、「協調の失敗」状態にあるときには、各国経済は、より望ましくない状況にある。
各国政府が通貨切り下げを
実施したらどうなるか
その例として典型的に挙げられるものに通貨切り下げ競争がある。世界同時不況のなかで、各国の政府が輸出増大を目的として自国通貨の切り下げを行うと、他国の生産物から自国の生産物へ需要をシフトさせることで、輸出が増大するかもしれない。
しかし、他国の生産物に対する需要が縮小することから、そちらの政府も対抗して、通貨を切り下げる可能性がある。もし他国の政府も通貨を切り下げれば、さきほどの自国の生産物に対する需要は再び縮小してしまう。元の木阿弥となるだけである。
しかも、世界中の国々の政府が通貨切り下げ政策を実施すると、各国の生産物の相対価格は結局、期待されるように低下しないどころか、通貨切り下げ競争に加わった国の通貨の価値が、生産物に対して減少することになる。すなわち、1万円札や100ドル札で購入することができる生産物の数量が減少することになる。このことは、見方を変えると、生産物の価格が全般的に上昇することを意味する。すなわち、インフレーションが発生することになる。
このように、自国だけ輸出を増大させようとして、通貨切り下げ競争を行った結果、結局は輸出を増大させることができず、それに加わった国の通貨の価値が減少するだけということになる。このようにして、通貨切り下げ競争によって通貨価値の不安定性が高まることになる。このように、期待した結果を得ることができず、かつ、副産物としてのインフレーションおよび通貨価値の不安定化を引き起こす通貨切り下げ競争を回避するために、国際政策協調が行われる必要がある。
家族のなかで子供たちが成長していくのと同様に、世界経済において発展途上国が新興国として経済成長を遂げていくにつれて、先進国に対して新興国のプレゼンスが相対的に高まっていく。グローバリゼーションによって、各国の国際貿易取引、国際資本取引、国際金融取引に対する規制緩和が進むなか、新興国の経済成長とともに、それらの取引が拡大していくことになる。
当然のこととして、そのようなグローバリゼーションのなかで、国際経済問題も地球規模(グローバル)の問題となる。かつて80年代においては、日本とアメリカの2国間の経常収支不均衡問題が日米摩擦問題に発展した。
G8だけでは問題解決が
難しい理由とは
しかし、2000年代に入ると、経常収支不均衡問題は、グローバル・インバランスと呼ばれ、アメリカの経常収支赤字に対して、中国、日本を代表とするアジアの経常収支黒字、そして、原油輸出国の経常収支黒字が問題視されるようになった。先進国2国間だけの経常収支不均衡問題にとどまらず、先進諸国と新興諸国をも巻き込んだ経常収支不均衡問題に発展してきたのだ。
さらに、07年にサブプライム・ローン問題として表れたアメリカ発の金融危機は、欧州に飛び火し、世界金融危機に発展するとともに、欧米の金融機関がそれまで積極的に資金運用していた新興国から資金を引き揚げることによって、新興国にまで悪影響を及ぼしている。このような影響を受けて、アイスランドや東欧諸国の通貨、さらには、韓国ウォンが暴落することとなった。
このような状況のなかで、G8首脳会議だけでは問題解決の道を探ることは難しい。むしろ新興国を含めたフォーラムにおいて問題解決の道を探らざるをえなくなっている。G8首脳会議のほかに、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカで構成される新興5カ国首脳会議がラクイラ・サミットにおいて行われた。
G8首脳会議と新興5カ国首脳会議にエジプトを加えた拡大首脳会議が開催される一方、オーストラリア、デンマーク、インドネシア、韓国を加えた主要経済国フォーラムも同時に開催されている。ラクイラ・サミットにおいて、先進諸国と新興諸国から構成される拡大首脳会議では、通貨切り下げ競争を回避することには同意が得られたものの、基軸通貨ドルをサポートする一部の先進諸国と基軸通貨ドルに代わる代替通貨(例えば、SDR)を提案する中国などの新興諸国の意見の対立が明らかとなった。
グローバリゼーションのなか、新興諸国が高い経済成長を遂げるにつれて、これまでの先進諸国だけの首脳会議ではなく、サミットの拡大化の必要性が増している。その一方、拡大サミットでは問題解決のコンセンサスに到達しにくくなっていることも事実である。それは、幼少の子供たちとの家族旅行と比較して、成長した子供たちと旅行するときに、その行き先と日程の調整に難航するのと同様である。











