人に教えたくない店 [417]

妻の怖さは確信犯だった。
もう治る見込みはない。

土屋賢二さん

 
 

お茶の水女子大学教授
土屋賢二
Kenji Tsuchiya
1944年、岡山県生まれ。哲学者。東京大学文学部哲学科卒業。同大学院博士課程退学。現在、お茶の水女子大学人文科学科教授。2002年から2年間、文教育学部長を務める。週刊文春に連載中のエッセー「ツチヤの口車」が大人気。哲学的考察に基づいた詭弁的論理にうっかりはまって、中毒になる読者が多い。「本業は棚直しだが、本業も副業もうまくいっていない。哲学、エッセーおよびピアノの資格も持っていない」。しかし、「人柄は温厚篤実な紳士で、芸術を愛する嘘つき」とは本人の言。


構成・文/樺島弘文
撮影/岡本 凜

 
 

 

 私は外食が好きである。当然、可能な限り外食をしたいと思っている。別に、高級なフランス料理が好きなわけでも、きれいなウエートレスを見に行きたいわけでもない(でも、きれいなウエートレスは好きである)。
 実際、私がよく行く店は、どこにでもあるような定食屋さんが多い。酒も飲まない。著作のプロフィールに、「好きな食べ物はコカ・コーラとフルーツとチャーハン」と書かれているが、これは真実である。あえて言えば、最近はコカ・コーラよりペプシコーラを飲むほうが多いくらいだ。
 なのに、なぜ外食が好きかというと、次のような理由による。
(1)「美味しい」とか、無理に言わなくてもいい。
(2)まずければ、残せる。
(3)新聞を読みながら食べても、文句を言われない。
(4)食事の最中に、用事を言いつけられることがない。
(5)食後のコーヒーをゆっくりと飲んでいられる。
 以上のことが、家庭にいるとできない。私は妻を恐れているのだ(ちなみに『妻と罰』という著書もある)。
 妻の怖さは、これまで数々のエッセーで書いてきた。今回、プレジデントの編集者から「あそこに書かれていることは本当ですか」と聞かれた。もちろん、違う。
 本当の妻は、私が書いてきたものより、もっと恐ろしい。結婚して30年以上になるが、どうも変だなと気がついたのは5、6年前のことだ。「誕生花」というのがあって、365日それぞれに花が決まっている。妻の誕生花を調べてビックリした。なんと妻の誕生花は「虎の尾」という観葉植物だったのだ。
 私だって「鬼百合」くらいは出るんじゃないかと思っていたが、「虎の尾」とは……。さすがの妻もこればかりは嫌がるんじゃないか、という私の甘い期待は見事に裏切られた。
 妻は誕生花が「虎の尾」と聞いて、もの凄く喜んだのである。
 エッセーを書くに当たって、妻に尋ねたことがある。夫を顎で使う横暴な妻と書いてほしいか、それとも夫を支える賢い妻がいいか。妻は即座に答えた。「横暴な妻がいい」。
 つまり、妻は確信犯である。もう治る見込みはない。こういうことは、結婚前に教えてほしかった。
 結婚前に教えてもらえなかった結果、私が得た結論は「家庭にいるときは、気を緩めてはいけない」というものだ。不用意に「虎の尾」を踏んだら大変なことになる。
 家にいるときは、家にいるような気持ちになってはいけない。家から一歩外に出たらホッとするくらいにならないといけない。


 
 
大衆食堂
大沢食堂


カレーライスのあまりの辛さにタイ人が泣いて帰った!

●「店長の大沢昇さんは、かつて『極真空手の鬼』と恐れられた人物である。いつか『最近は犬の散歩くらいです』と笑っていたが、その散歩とは数時間にわたるジョギングらしく、先に犬がバテてへたり込むということを後で知った」
●東京都文京区本駒込2-1-5
TEL.03-3945-1601
営業時間/11:00~14:00(13:30LO)、18:00~23:00(22:30LO) 日曜・祝日休 全15席 カード不可


  • 1.現役K-1選手など格闘家がよく立ち寄る。「秋元康さんとか小山薫堂さんなんかも来るけど、あの先生は有名人なの?」とは店長の弁。スタミナたっぷりの「ホルモン定食」が人気。700円。
  • 2.土屋先生の好物「野菜ラーメン」。野菜、豚骨、鳥ガラなどを20時間煮込んでスープを作る。680円。
  • 3.ビールのつまみには、「チャーシュー・めんま・もやしの3点盛り」を。600円。
  • 4.名物の「激辛カレー」。850円。あまりの辛さにタイ人が泣いて帰ったという逸話がある。店長いわく「これを食べるとピロリ菌が死ぬらしいよ。今度土屋先生が来たら無理やり食べさせてやりたい」。
  • 5.店長は1942年生まれ。1970年にバンタム級キックボクシングの世界チャンピオンに輝いた。

ジャズスポット
FOUR & MORE


「うるさくて眠れない」
土屋ライブはお客が悪態をつく

●「ジャズ好きの仲間たちが練習場所を確保するために開いたお店。演奏場所に恵まれないバンドも出演しています。採算は全く度外視というか、赤字たれ流しのまま、打つ手なし。仕事も家庭も犠牲にして、ジャズに打ち込んでます」
●東京都台東区千束2-25-4
TEL.03-3876-5567
営業時間/20:00~23:00 不定休(月・火・木・金曜は営業していることが多い) 全15席 全席禁煙 カード不可


  • 1.土屋先生はピアノ担当で、毎月の最終金曜日に演奏することが多い。すべて土屋先生が作曲したものを演奏する。「私たちのジャズは普通のよりは、少しうるさいものでして。素人相手に『これが本当のジャズなのだ』と、したり顔するのが楽しい。だから、ジャズ通やプロの方に来られると困る。できれば、耳の悪い人に来てほしい」と最後は土屋流「迷論理」の展開となった。
  • 2.ドリンク代、チャージ料は別途問い合わせを。食べ物は置いていないので、持ち込み可だ。ワインは持ち込み料が取られる。
  • 3.店の壁には、古いジャズのジャケットが貼られていた。
  • 4.土屋先生直筆の譜面。
 
 
PRESIDENT 2009年8.3号
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税込価格 650 円
 

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