ビジネススクール流知的武装講座 [223]
民主党代表交代劇にみる
強いチームづくりの3条件
民主党の小沢一郎・前代表の辞任表明からわずか6日、
鳩山由紀夫氏が新代表に選ばれた。
スピード選挙を打ち出した小沢氏の行動から、
筆者は「組織構築」のための要点を明らかにする。
なぜ小沢氏は後継代表を
早期決着したのか
またまた自分の専門でもない、政治の話題になるが、今回の一連の騒動は、民主党前代表の小沢一郎氏がもつ「組織構築力」をまざまざと見せつけられた気がした。
組織構築とは、言葉は仰々しいが、簡単に言えば、組織のメンバーが納得する形で、人材に役割(仕事)を割り振り、役割間の関係を決め、組織として目標を達成するための体制づくりをする作業である。よく知られた「組織デザイン」が組織内の分業と調整に関する構造設計であることに対して、私の定義では、組織構築は、メンバーの納得という人間的な側面を含んでいる。その意味で、組織構築力はリーダーシップの大きな一部なのである。
そこでまず小沢氏について。騒動の始まりは自らの辞任である。タイミングがどの程度計算されたものかはわかりにくいし、マスコミの主な論調は批判的なようだが、いずれにしても、これより早い辞任は検察の追及に屈したと思われる心配があったのであろう。時を見計らっていたと考えられる。
ポイントはその後の動きだ。5月11日の月曜に小沢氏が代表辞任を表明、土曜の16日には後継代表に鳩山由紀夫氏が選出されたのだから、政治の世界にはめったにない超スピード決着であった。
大方の論調は、スピード決着をすることで、岡田克也氏をつぶしたというトーンのようだが、私はもう少し複雑な計算があったのではないかと思っている。今、民主党が衆議院選挙に勝つためには、鳩山氏だけではダメで、やはり岡田氏の応援がいる。党内のまとまりも必要だ。でも、岡田氏がトップであるという体制も小沢氏としては困ってしまう。そうなると、党内に大きな混乱なく、鳩山氏が代表で、岡田氏がその右腕という体制をつくらなければならない。さらに、自分のもつ特に地方での集票力を無駄にしない体制にしておくことが必要だ。小沢氏はこう考えたのではないだろうか。
そうなると、スピード選挙にしておけば、鳩山氏が勝つ可能性を高めるだけではなく、岡田氏に対して世間の同情が集まる。実際、世論調査などでは、岡田氏が圧倒的な人気を誇っていたし、それを背景に代表選挙でも健闘する可能性が高い。投票結果を見ても、鳩山氏124、岡田氏95の29票差だった。15人が態度を変えればひっくり返っていた状況だ。こうしたことの結果、鳩山氏は岡田氏を幹事長として受け入れざるをえないし、党内でもこの体制がある程度すんなりと受け入れられるだろう。
そして自分は少し時間をおいて、選挙担当の筆頭代表代行として執行部に残る。この人事の発表は選挙から1日以上たっての17日夜である。それまでに主な世論調査は終わっていて、自分が残留することによるマイナス影響はあったとしても、表面化する可能性が低いし、民主党としての西松建設献金事件決着の表明にもなる。
もちろん、本当にここまで緻密な計算が小沢氏の頭の中にあったのかどうかは知る由もないが、実際はほぼこうした動きであった。また、この計算が功を奏するかは、あとしばらく時間がたたないとわからない。唯一わかっているのは、今回の一連の騒動にもかかわらず多くの世論調査が、民主党の人気回復を示したことである。
ただ小沢氏の行動は、組織構築のための動きだと考えると理解しやすい。小沢氏は、上記のプロセスで組織構築の三つの要(図1)のうち、少なくとも初めの二つについて、きちんと押さえていると考えられるからである。仮に民主党が今後の選挙で政権をとることができれば、少なくとも部分的には小沢氏の組織構築力に負うところがあると評価されるかもしれない。
組織が連携して
スムーズに協働する原動力とは
まず第一に自分の周りにいるキーマンが担うべき役割を明確に考え抜いている。鳩山氏の役割は何で、岡田氏は何をすべきで、さらに自分は何をするべきなのか。つまり、誰に何をさせるかの意思決定が明確である。多くの経営者がプロジェクトや企業運営の成否は、各個人が担う役割を明確に描くことができるかでほぼ決まると言う。その意味でよく言われるように鳩山氏も、岡田氏も、小沢氏の手の平にある駒のようだった。
一般的に一人ひとりの役割を明確に考えるためには、人と仕事、両面についての把握が前提となる。人を丁寧に観察し、その人のもつ強みと弱みを理解し、そのうえで強みを引き出し、弱みを最小限に抑えるポストにつけることが必要だ。そのとき、このコラムで以前にも言及した個性把握力が基礎となる。
ここで重要なのは、各人が周りの人からどういう評価を受けているかに関する理解である。自分がその人をどう評価するかだけではなく、その人がその人自身の周りの人からどう評価されているか。自分が影響力を及ぼすことのできる輪の外にいる人を動かすには、自分が影響力をもつ人材がもつ社会的ネットワークまで考える必要がある。
そして次がその人に与える仕事の慎重な設計である。おうおうにして仕事というのは、目標や機能は同じでも、権限や自律性、範囲などにおいて自由度に違いがある。したがって、役割や仕事の内容に関して、リーダーが設計する自由度がある程度存在する。
実際、有能なリーダーはこの設計を自然に行っているが、初めはある程度意図的に行うことも必要だろう。特に日本の企業組織のように、職務が前もって明確に規定されておらず、また人事制度上も職務の内容に幅をもたせる自由度が高い(例えば、少し多めの権限を与えても、給与を上げなくてすむなど)状況では、職務設計活用の可能性は高い。そのためリーダーシップの大きな要素として、人と状況に合わせた職務の設計をするということがある。
だが、こうした設計や構築という、どちらかといえば合理的でクールな判断と同じぐらい重要なのは、メンバーの納得感確保である。組織構築力の第二の要と言ってもよい。特に本人と周りが、各個人に与えられる役割を納得して受け入れるかどうかである。その意味で組織構築には感情面も含まれるのである。
まず本人について。役不足という言葉は、間違って使われる日本語として指摘されることの多い表現だが(役者に対して役が不足であることを指し、力不足の意味ではない)、実際は役割を与えられた人が、心のなかで役不足感を抱くケースは多い。なぜ私がこれをやらなくてはならないのか。そうした感情を抱いたことのある人は多いだろう。その結果、意欲がわかないということも考えられる。本人が自然と役割を受け入れるための状況づくりが大切である。
さらにより重要なのは、周りの納得感である。周りがそのポスト配分をどう受け止めるか。そここそ最も注力すべきことなのかもしれない。なぜならば、仕事は人とのつながりのなかで行われることが多く、周りがその人の配置に納得しないとスムーズに協働できないし、成果が出ない。職務の明確化と、そこへの人の配置が将棋の駒並べだとすれば、納得感の確保は、駒が連携して動くための原動力である。そのため、納得感を確保することはことさらスタート時点で大切である。
人材の成長を考える余裕がない
今の政治の世界
私の解釈が正しいとすれば、今回の小沢氏の動きは、彼が望む新体制が構築されたときの党内納得性を考え抜いた結果だと言えるかもしれない。特に鳩山氏やその支持者が納得して岡田氏を幹事長として受け入れ、また岡田氏本人や支持者が、岡田氏の執行部入りに納得するための配慮である。
詳しくはわからないが、最初は迷っていたように思われる岡田氏も、案外簡単に執行部入りした。もちろん、選挙担当の筆頭代表代行という小沢氏が自分に与えた役割に関して党内が納得しているかどうかは議論のあるところのようで、この点に関しての納得感の確保が次の火種になるかもしれないが、おおかたは成功だったようだ。
ここまでの2点がスタート時点でのポイントである。だが、組織構築というのは、一回構築して終わりというわけではない。人と仕事との関係、さらにはその結果としての周りの納得感は常に変化する。したがって、スタート時点で最適な構築をしたとしても、いつまでも同じ状態が続くわけではない。変化のマネジメントが組織構築の重要な一部である理由である。
では、具体的には何をマネージしていくのか。大きく2種類あるだろう。第一は、組織論の教科書にある内容と同じで、組織内外の環境が変化し、仕事の内容が変わることに対する、一人ひとりに割り振る役割内容の変更である。環境変化に合わせた役割の再設計と人の再配置、これは難しいが、環境変化への合理的対応である。
だが、人を率いるリーダーは、もう一つの変化要素をマネージしなくてはならない。というか正確には、もう一つの要素を変化させることがリーダーシップをとるうえでの組織構築の別の目的であると言ってもよい。具体的には人材の成長である。
確かに、組織構築は今の課題を解決し、目標を達成するために行われる作業であり、ここまで述べてきた役割設計と配置、および納得感の確保は、目的達成のための手段である。その意味で、プロジェクトチームのような、目標が明確で期限つきの職場で最もフィット感がある。
だが、長期的に存在する組織では、短期的に人を配置し、それを周りに納得させるだけではなく、組織構築を通じて人を育てることが重要になる。人が育つにはいい仕事経験がカギであることはよく知られており、この仕事経験を与える作業が組織構築なのである。そして、ここにあげたような意味での組織と人の組み合わせが変わることで、人が育つ。このプロセスをマネージするのがリーダーなのである。
今回こうした配慮は小沢氏にはなかったのかもしれない。鳩山氏や岡田氏は育てる対象ではないからだ。ちなみに、傍から見る限り、今の政治の世界は極めて短期志向であり、人を育てるということを政党や政党の指導者が考える余裕がないようにも思える。やや不安だ。
企業ではそうはいかない。組織を構築するとは人を育てることでもあるのだ。納得のいく形で人と職務をマッチングさせ、目標を達成するだけではなく、この作業を通じて人を育てることまで含めて、リーダーの組織構築力が問われるのである。










