人に教えたくない店 [414]

刑務所を出てから間もなく、
俺は脳を開くことに成功した

角川春樹さん

 
 
俳人・角川春樹事務所特別顧問
角川春樹
Haruki Kadokawa
1942年生まれ。國學院大學文学部卒業。父親が創業した角川書店に入社後、書籍と映画のメディアミックス路線を敷き、「犬神家の一族」「人間の証明」などで一世を風靡する。93年麻薬取締法違反などで逮捕、獄中生活を経験。出所後は、角川春樹事務所を舞台に、雑誌「ポップティーン」「ブレンダ」や「ハルキ文庫」を刊行。句集『信長の首』で芸術選奨文部大臣新人賞・俳人協会新人賞、『流され王』で読売文学賞を受賞。今年11月には、自ら監督した「笑う警官」が公開される。「最初から若者は捨てて、大人が笑える映画を目指した」という。


構成・文/樺島弘文
撮影/岡本 凛
 
 

 

 2年5カ月3日の獄中生活を終えて、真っ先に向かった飯屋が、「大漁」だった。もう5年も前になるが、長い付き合いのご主人と奥さんが、涙ながらに迎えてくれたのを、今でも覚えている。そのとき食べた鯛めしは、旨かった。「大漁」は普段、色飯は出さないのだが、俺の好物とわかっていて、振る舞ってくれたのだ。
 なにせ、刑務所の飯は滅茶苦茶にまずい。3食の予算が200円以下というのだから無理もないが。仕方ないので、刑務所ではテレビの料理番組ばかりを見ていた。美味しい料理や旨い店の番組を、なめるように見ていたものだ。そこでわかったことがある。美味しさは、脳が感じるものということだ。舌より先に脳が感じる。つまり、画像や活字でも、美味しさは感じられる。だから、テレビや本で、渇きを我慢していた。
 その束縛から解放されて向かったのが「大漁」。続けて、旨い酒を飲みたいと、知り合いの作家から推薦された六本木の有名なバーに立ち寄ったが、ここは期待外れ。翌日も、別の名高いバーに行ったが、さほど旨いと思わなかった。
 3日目に訪れたのが「Woody」。まずマンハッタンを注文した。口をつけてすぐ、こいつは本物だと思った。マティニも飲み手に媚びずに、キリっとした切れ味がある。
 マスターに言わせると、旨いカクテルの決め手は気合だそうだ。最後に「美味しく飲んでもらいたい」と祈りを込めるのだろう。

 刑務所を出てから間もなく、俺は脳を開くことに成功した。ヒンズー教の神であるブラフマーは、危険だからといって、人間の脳を数%しか働かないように結束したという。俺は、ある儀式を通じて、ぶっ倒れながらも、その封印を解いたのだ。
 脳が開くと、信じられない能力が備わる。俺は、市谷の亀ヶ岡八幡宮に参拝した際に、武道の神が身体に入ったらしい。このことは、いま日本でヨーガの第一人者と称される人物から言われた。
 自分でも訳がわからないが、寝ているだけで胸囲が10センチも増えたりする。昨年の3月には、神社で木刀を3万3000回振ることに挑んだ。それも、ただの木刀ではない。新撰組が使った天然理心流のもので、通常の4倍の太さと重さのある木刀だ。
 一流の剣士でも1万回は振れまい。それを、事務所の者などに見守られる中、7時間かけて振り切った。
 先ごろにも、1万5000回を振った。終わった後も、筋肉痛にならないし、むしろ爽快な気分である。
 食の好みも変わった。圧倒的に和食を好むようになった。時々、自分でもびっくりするような量を食べることがある。そんなときは、俺が食べているのではなくて、俺の中にいる神が食べているのだと感じる。

 
 
割烹
大漁


地獄の淵から生還
主人・奥野忠の渾身の料理

●「開店して38年になる。夫婦2人でやっている店だが、いい夫婦で、それも魅力の1つ。ご主人の奥野忠さんは、大病を患い、地獄の一歩手前から返ってきた」
●東京都渋谷区渋谷2-4-4 板倉ビル2F
TEL.03-3400-1280
営業時間/17:30~24:00 日曜・祝日休み 全20席(カウンター、テーブル席のほかに、奥に小上がりもある) 喫煙可 カード不可 要予約


  • 1.「岩牡蠣のカルパッチョ」(1800円)。三重産の天然岩牡蠣に、柿、ライチ、イチゴ、トマト、ブドウ、ワケギが添えられている。
  • 2.「野菜の煮物5点盛」(2000円)。すべて味付けの違う品だが、なかでもハチミツで煮た後に塩と醤油で焼いたエビ芋は絶品。
  • 3.「タケノコとアオリイカの天ぷら」(4500円)。京都産のタケノコを炒り塩、青ノリ、ブラックペッパーでいただく。
  • 4.「鯛のかぶと焼き」(7500円)。

バー
Woody ウッディ


なぜ、田中雅博のハイボールは ほかの店より旨いのか


●「グラスの縁に塩を付けない本物のソルティドッグも旨い。ひとつまみの塩をジンと搾ったグレープフルーツジュースに入れてシェイクする。4人以上のグループでは入れない店だが、時々貸しきりでお願いしている」
●東京都武蔵野市吉祥寺本町1-10-8 山崎ビル3F
TEL.0422-22-0860
営業時間/16:30~24:00 不定休 カウンター8席とテーブル席7席 葉巻も吸える カード可


  • 1.マスターの田中雅博さんは元IT技術者。「人が好きだった」ことからバーテンダーの道へ。この5月で、開店10周年を迎えた。ウイスキーを炭酸水で割るだけのハイボールにも「上手い下手がある」という。カクテルは1000円から。
  • 2.ギンナンとシイタケ、ホタテの「燻製の盛合せ」(1200円)は、サクラとヒッコリーでマスター自らが燻煙したもの。
  • 3.葉巻も数多く用意され、角川さんも時々くゆらす。
  • 4.角川さん直筆の俳句。
 
 
PRESIDENT 2009年6.15号
PRESIDENT 2009年6.15号
税込価格 650 円
売り切れ
 
PRESIDENT公式twitterアカウント

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更