ハーバード式仕事の道具箱 [162]
社員は使い捨てのモノではないと示すことができるか
未来が見えるリストラ
絶望のリストラ
世界的にリストラの嵐が吹き荒れる今、改めて人員削減に至るまでの
プロセスの力に注目してほしい。嵐が去った後の会社の未来は、
まさに、そこにかかっているのだ。
辞めても地獄、
残っても地獄という
気持ちにさせるな
リストラというものは、非常に不安をかきたてる出来事である。解雇される社員にとってはもちろん、会社に残る社員にとってもだ。解雇される者たちには、当然、新しい仕事に移るための支援を与える必要がある。だが、削減対象にならなかった社員にも、未来に安心感を持たせ、人員削減の背後にある戦略目標を理解させる必要がある。
次に示すガイドラインは、解雇される社員の尊厳を守り、会社に残る社員に、削減決定は無定見になされたわけではないという安心感を与えるのに役立つはずだ。また、残る社員には、会社の状況がこの先よくなると、未来について楽観させ、事態が好転する日に向けて懸命に働こうという気にさせる。残る社員が解雇される同僚の扱われ方に憤慨し、会社の方向性に不安を持ったら、間違いなく生産性は低下するということを肝に銘じていただきたい。
まず、経営状況が悪いときは社員に知らせるべきではないと、マネジャーは考えがちだ。部下にやる気をなくしてもらいたくないからである。だが、社員は馬鹿ではないから、うまくいっていないことを自然に察知するものだ。経営幹部が状況をよいほうに捻じ曲げて伝えたとしても、目標がはっきりしなくなる、プロジェクトへの資源が減るなどのかすかな手がかりを通じて伝わってしまうものだ。会社の置かれている状況を認め、きちんと説明することが、問題の解決に本気で取り組ませるための第一歩である。
本人には内密に伝え、
考える時間を与える
人員削減が必要になった場合でも、事前に予想できていたら社員はショックを受けずにすむ。市場データや競合関係の情報を社員に知らせよう。必要もないのにリストラをほのめかすことはないが、嘘をついたり、人員削減の直前に非現実的な言葉を並べたりして信頼を損なってはもっと最悪の事態に陥る。幹部が嘘をついたことに社員が気づいてしまったら、もはや信頼を取り戻すのは不可能である。
実際、リストラを発表するときは、状況を察した多くの社員が「この先悪いニュースが待ち受けているのか」と、身構えていることも多い。そんなときは結論を真っ先に伝えよう。競争や市場の力や財務環境の話から始めるようなまだるっこいことをしてはならない。社員にとって最も重要な問いに答えが与えられるまでは、誰も話に関心を払わないからだ。
最も細心の注意を払うべき仕事は、「君は解雇されることになった」と当人に伝えることだ。この辛い仕事を人事部に任せてはいけない。ほとんどの社員はまず自分の上司に対して、次に会社に対して信義を感じている。解雇の知らせは直属の上司が伝えるべきなのだ。マネジャーが解雇される部下と一対一の話し合いの時間を持つことを、会社は認める必要がある。
社員のコンピュータに「本日より使用不可」というメモを貼りつけることで解雇を知らせるというやり方は、誰の得にもならない。解雇の知らせは内密に伝え、それに対して反応する時間を当人に与えよう。反応は人によって異なり、憤懣をぶちまける者もいれば、考える時間をくれという者も、データの提示や説明を求める者もいる。それぞれの社員に当人が求めるものを与える準備をしておこう。できるだけ早く彼らに自分の今後について考えさせよう。マネジャーが伝えるべき最も重要なことは、「どうすれば、君の力になれるだろう」の一言である。
なぜ、金曜午後に
解雇通知しては
いけないのか
解雇を告げられたら誰もが考えるのは「これからどうすればいいんだろう」ということだ。日ごろから、転職エージェントに履歴書を送って仕事を探してもらっている人などほとんどいない。再就職支援は、解雇された社員が新しい仕事を見つけて再出発するのに役立つ。大きなストレスにさらされた不安な時期に支援を提供することは、当人たちにも会社に残る社員にも、会社が元社員を使い捨てのモノとしてではなく、人間として扱っているということを示すことになる。
同時に、解雇された社員に、元気を出して未来に向けて動きはじめるチャンスを与えよう。たとえば金曜の午後に解雇するというのはきわめてひどいやり方だ。月曜の朝までまったく職探しをすることができず、週末中、悶々としなければならない。
退職前面談も役に立つことがあるが、それは第三者機関にやってもらうのが効果的だろう。辞めていく社員は貴重な情報を提供できるだろうが、社内の人間に対してはそれを話そうとはしないかもしれない。面談を受ける社員には、「解雇された社員の扱われ方についてどう思うか」と必ず問いかけるようにしよう。この問いは、彼らが不満を吐き出すのを後押しするのに加え、解雇プロセスをもう少し痛みの少ないものにするためのヒントが得られることもある。
解雇を告げられた日は誰だって仕事のできる心理状態ではない。たった今聞かされたことに対処する時間を与えよう。彼らが自分の感情にすみやかに対処する手助けをしよう。
通知責任を放棄した
トップの末路は……
会社に残る社員は、会社の未来についての懸念と闘うことになる。彼らは自分の仕事がどのように変わるのかを知りたがる。これまでの仕事に加えて、辞めていく同僚の仕事も引き受けなくてはならないのか。それとも、事態の変化に応じて自分の目標が変更されるのか。会社の財務状態は正確にはどうなっているのか。近いうちにさらなる削減が行われるのか。マネジャーはそれぞれの懸念について、できるだけ理にかなった説明で対応しなければならない。
解雇される社員のためだけでなく、それに対応するマネジャーのためにもトップは前面に立たなければならない。ある会社が一つの支社をまるまる閉鎖しようとしていたとき、会社側は厄介なこの知らせをどのように伝えればよいかについて、支社長に何の助言も与えなかった。代わりに、CEOがこの支社に出向いて発表することになっていたのである。支社長とその部下たちはCEOを迎えるためにホールに集まったが、CEOは現れなかった。代わりに彼は、閉鎖関連書類を詰め込んだ箱を貨物便で支社長に送りつけたのだ。指示の言葉は何も添えられていなかった。支社長は集まった部下の前でCEOに電話をかけたがつないでもらうことはできず、結局、箱を開けてこう宣言した。
「私は今日かぎりでこの会社を辞める。私はとても自己中心的なのでみんなを道連れにすることにした」。
誰にとってもみじめな瞬間だった。姿を見せなかったCEOはこの冷淡な行動のためにただちに嫌われ者になった。解雇された社員は市場で非難の言葉をまきちらした。この話がその後何カ月も、何年も広く語りつがれたことは想像にかたくない。
これとは対照的に、自分が作成した文書をマネジャーに配り、それを読み上げるだけでよいようにしたCEOもいる。この文書には、医療保険やその他福利厚生に関する退職後の扱いを含む当を得た資料や、再就職支援のオプションも記されていた。各マネジャーは部下に解雇の知らせを伝えたあと、すぐ再就職支援センターに向かわせた。この会社は解雇された社員に未来に目を向けさせ、職探しを会社が支援してくれていると感じさせることに成功した。
リストラはいつの時代もたやすいことではない。だが、流言もストレスも、すべては「不確実さ」から来ることを肝に銘じておけばうまく対処できる。関係者すべてと率直なコミュニケーションをとることで、最も困難な時期でも社員の士気をしっかり保つことができるのである。
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