人に教えたくない店 [410]

ここのご主人は取材に出たがらない
人だけど、エッ、受けてくれたの?

徳岡邦夫さん

 
 
京都吉兆嵐山本店 総料理長
徳岡邦夫
Kunio Tokuoka
1960年生まれ。「吉兆」の創業者・湯木貞一氏の孫。高校卒業後、僧侶生活を経て、本格的な料理修業を開始。95年から「京都吉兆」嵐山本店の料理長に。産地偽装問題などで廃業した「船場吉兆」の影響は極めて限定的。「湯木貞一が創業以来、80年間のお付き合いの中で培った信頼関係のおかげです」という。経済学者榊原英資氏に自然環境の重要性を説く。「経済が破綻し、お札が紙くずになることよりも、食の世界が破綻するほうが本当は恐ろしい」。


構成・文/小宮千寿子
撮影/川島英嗣
 
 

 

 吉兆にお客様がいらして、感動で涙をボロボロと流してもらうにはどうしたらよいのか考えています。京大に行って「食べたら感動して涙が流れる成分はないか」と聞いてみたことも。当然そんなものはありませんでした。では、どうすればよいのか。
 僕は年に数回、従業員を集めて「食材コンクール」を行っています。目的は「お店で使う食材をみんなで選ぶため」でしたが、今では従業員教育として欠かせないイベントです。米なら新米の時期に、5種類ほどをブラインドで味見します。その中から各人がおいしいと思うお米と選んだ理由を発表しますが、「米が艶やかで香りがよい」「噛んだときの粘りと喉越しがよかった」など、おいしさの観点はまさに百人百様。食べ物のおいしさを決めるのは味覚だけではないと、皆、理解するのです。
 人間は、料理の味を舌だけで判断しているわけではありません。料理の色彩や香り、器を通して手で感じる温もり、噛んだときの音や食感など、五感のすべてで感じながら、過去に食べた物の情報と比較して、総合的に判断しています。五感の中でも一番情報量が多いのは視覚です。過去に食べたことがあれば、見ただけでそれがおいしいかどうか、ほぼ判断できますから。
 次は嗅覚。僕がだしの加減を判断するときも、香りで味の見当をつけます。味見はしません。肺の中の空気を一旦吐き出してからだしの香りを吸い、鼻や口の中いっぱいに充満させ、目を閉じて静かに感じるのです。これは特殊技能ではありません。五感で経験してきた味覚情報を理論的に分析して整理し、記憶し、必要な場面で引き出せる訓練をすれば誰にでもできます。料理上手は、情報処理能力を鍛えている。
 実は昨年ミシュランから掲載のオファーがありました。知らないうちに何度もお店にいらしていただいたようで「ぜひ掲載したい」とおっしゃっていただきました。誠に光栄なことだったのですが「『東京吉兆』が辞退したのに、うちが受けるわけにはいかない」と母に反対され、お断りしました。すると、すでに掲載を決めていた他の京都の料亭も次々辞退されてしまわれたそうです。
 でも、次にそんなお誘いがあったなら、掲載していただこうかとも思っています。海外に行ったときの肩書も「星付きレストラン料理長」のほうが、注目度が高いようですし(笑)。ただ、ミシュランの評価が絶対とは決して考えていません。チーズや肉を食べて生活してきたフランス人が、鰹と昆布の食文化を簡単に理解できるとは思えないからです。
 僕は料理を通してお客様の五感を刺激し、幸せと感動を与えたい。それこそがどんなに権威のある評価よりも価値があると信じます。

 
 
すっぽん料理
きん乃


八坂神社近く。
京の路地裏
するりと抜けて

●「お店にたどりつくまでの雰囲気が、怪しげで秘密めいているのがいいでしょ。友達に“えっ、ここ入るの”って言われるとうれしい」 ●京都府京都市東山区祇園町北側292-2
TEL.075-525-1328
営業時間/17:30~22:00 日曜、祝日休 予算おまかせコース6800円~、すっぽん鍋コース(2人前)1万5000円~ 要予約 席数カウンター9席、座敷15席 カード不可 喫煙可


1年中味わえるすっぽんは浜名湖産。2人分で1匹をその場でおろしてくれる。すっぽん鍋コースには、1のお造りと生き血、4の唐揚げ、3の鍋に雑炊付き。良心的な価格も魅力だ。京都出張の際は是非寄りたい。
  • 1.「すっぽんの肝と卵の造り」。おろしたてならではの珍味。体が芯から温まる。手前は強精剤として珍重される「生き血ドリンク」。
  • 2.おまかせコースに登場する「本もろこの炭火焼き」。もろこは12月から3月にかけて琵琶湖でとれる希少な淡水魚。
  • 3.「すっぽん鍋」。だしはすっぽんだけ。締めの雑炊を食べ終わるころには、元気がみなぎる。
  • 4.「すっぽんの唐揚げ」。すっぽんの頭の形にドッキリする。

串焼
炭火焼 牛宝ぎゅうほう


「牛肉のうまいまずいは 見た目だけではわからない」

●「牛宝さんは、食材をかなり吟味していて、組み合わせに工夫があるところがすごい。僕にとっても参考になるし、料理仲間と行くと話もはずみます。ご主人は、あまり取材に出たがらない人だけど、エッ、受けてくれたの?」
●京都府京都市左京区一乗寺赤ノ宮町22-4
TEL.075-723-2424
営業時間/18:00~23:00 日曜休 予約をおすすめ 席数12席(カウンターのみ)カード不可 喫煙可


平成3年にオープン。ジャズをBGMに食通もうなる料理を堪能。店主曰く「肉のうまいまずいは見た目だけではわからない。まずは信頼できる肉屋探し」。
  • 1.「牛たんのたたき」(3000円)。たんの塊を、炭火であぶってレアに仕上げる。プリプリの歯ごたえとジューシーな肉の甘さが記憶に残る味。
  • 2.「白せんまいうにポン酢」(1000円)。通常はグレーのせんまいを白くむきあげ、その上に海ぶどう、すうな(石垣島産の海藻)、北海道のうにを載せ、食感を工夫。
  • 3.「たんぎょうざ」(800円)。たんをミンチにして餃子風に仕上げた。噛んだときの、“コリプリ”な歯ごたえは新しい食感。
  • 4.「野菜盛り合わせ」はおかわり自由のお通し。
 
 
PRESIDENT 2009年4.13号
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