職場の心理学 [214]

毎朝の出社が楽しい職場はどこが違うのか

 
 

メンバー同士が孤立することなく、活性化し合える
「サラサラの組織」はどうつくればいいのでしょうか。
まずは「サラサラ度アセスメント」で、
自分の組織の現状を知ることから始めましょう。

 
 

KDIシニアマネジャー
野村恭彦
Takahiko Nomura
●のむら・たかひこ 工学博士。富士ゼロックス入社後、同社総合研究所、コーポレート戦略部を経て、KDIの立ち上げに参画。東京工業大学SIMOT特任准教授、国際大学GLOCOM主幹研究員を兼任。共著に『サラサラの組織』がある。

荻野進介=構成
高橋常政=イラストレーション
ライヴ・アート=図版作成

 
 

 

アセスメントで
18点以下の人は
「サラサラ化計画」を


 朝、会社に行くのは楽しいですか。この質問に胸張ってYESと答える人は少数派のはずです。では、なぜ楽しくないのでしょう。いくら忙しくても誰も手伝ってくれないからでしょうか。それとも上司が話を聞いてくれないから? あるいは、折角、新しいことをやろうとしても握りつぶされてしまうから? もしくは仕事の達成感や成長実感が得られないからでしょうか。
 組織内の知の活性化を促進するコンサルティング集団である、我々、富士ゼロックスKDI(Knowledge Dynamics Initiative)に、そういう相談案件が最近増えています。我々は、一人ひとりが孤立し、知が活性化していない組織を、人間の血液の状態に喩えて「ドロドロの組織」と呼びます。その反対が「サラサラの組織」です。あなたの職場はどちらでしょうか。まずは右図の、信頼、空間、時間の三つの側面で構成されるアセスメントに取り組んでみてください。

 結果はどうでしょうか。総合得点が18点以下の方は以下の「組織サラサラ化計画」をぜひ試してみてください。

 まずは職場に「信頼」を取り戻すための方策を考えてみましょう。たまたま今回はあなたが回答して「職場の信頼度が低い」という結果が出たわけですが、他のメンバーがやっても大同小異の結果が出るはずです。こういう場合、改善の鍵を握るのは……そう、「信頼がない」「何かがおかしい」と感じている当事者にほかなりません。
 意外な顔をしないでください。組織の変革なんて特別な人が担当する、特別な仕事だと思っていませんか。違うのです。私が知っている多くの事例では、変革の推進者は「どこかおかしい」と気づいた現場の人たちばかりです。
 たとえば、あなたが属する営業部門と、隣り合わせの開発部門との仲が悪く、喧嘩が絶えないとしましょう。「売れる製品がつくれないのは、両者の間の信頼の欠如が原因だ」とわかったら、開発部門の知り合いに声をかけ、仕事のやり方をじっくり観察させてもらうことをお勧めします。大切なのは、営業の人間という気持ちを一度捨てて、開発の人間になりきることです。そういう意識で仕事を観察すると、営業部門からの情報提供がいかにずさんかに気づくのではないでしょうか。
 いつ、どんなふうに、営業からの情報を伝達すれば、もっと市場性のある製品が開発できるか。そういった課題を今度は営業部門に持ち帰り、話し合ってみるのです。あなたに賛同し、次の仕掛けを一緒に考えてくれる人がきっと現れるはずです。このように、トップ同士が話し合わなくても、物事を進めるやり方があることを覚えておいてください。
 そのときに必須なのが「正当な意思」をもつことです。この場合、「営業と開発の連携を密にし、売れる製品づくりをすること」がそれです。私利私欲から発したものではなく、組織をよりよくする提案だったら、ほとんどの人が賛成してくれるはずです。そうやって、多くの人を巻き込める・錦の御旗・を掲げられたら、改革は半ば成功したようなものです。

 信頼構築に欠かせないものがもうひとつあります。「対話」です。『手ごわい問題は、対話で解決する』(ヒューマンバリュー)という本を書いたアダム・カヘンという人がいます。対話を用いたファシリテーションによって、南アフリカのアパルトヘイト問題を解決した人ですが、そのやり方は肌の違いや貧富の差など、利害関係が対立する集団のトップを残らず集め、背中に背負っている面子やプライドを全部下ろさせ、素のままの人間として心を開いた対話を通じて、同国の未来シナリオを考えさせるというものでした。
 それを続けていくうち、他の民族や階層を排除して自分たちの日頃の主張が実現しても、輝かしい未来がそこにないことにみんなが気づいたそうです。つまり、たとえ不倶戴天の敵であっても、相手の主張を聞き入れ、互いに譲り合うことが結局は未来につながることに気づき、最終的にアパルトヘイトが解消されたのです。
 この手法は企業の中でも十分使えます。たとえば営業と開発がざっくばらんに話し合うオープンな場を設けてみてください。開発部門の人はこう思うかもしれません。「自分たちの主張を通したら、仕事がやりやすくなって、革新的な商品がいくつも生まれるかもしれない。でも、マーケット動向を外した商品ばかり出すと会社の将来はないな。もう少し、営業からの情報にも耳を傾けてみようか」と。対話をすることで、相手に「変われ」というだけではなく、自分自身も変わらないといけないことに気づくわけです。

誰もが組織を
変えられるのに、誰も
そのことに気づかない


 このように、「これがおかしい」「本来はこうあるべきだと思う」という青臭い気持ちを大事にしてください。それはみんなのためにいいことかどうかを何度も検証し、答えがYESなら、「ここがおかしい」と職場で声を上げてみることです。
 賛同者が必ずいるはずですから、まずは行動してみる。対話してみる。職場の信頼を回復させる重要な一歩はそこから始まるのです。
 誰もが組織を変えられるのですが、その可能性に気づいている人は思いのほか少ないというのが私の実感です。繰り返しますが、変革の意思をもち、実行できるかどうかは役職とは無関係です。

 次に「空間」の点数が低かった場合はどうすればいいでしょうか。みんなが集まって気軽に話せるスペースがない場合はそれをつくるのが先決です。すでにある場合、植木でもホワイトボードでも何でもいいのですが、衝立や目隠しになるものがあるかどうかチェックしてください。別に秘密の話を奨励するわけではないのですが、そういう遮蔽物がある場所のほうが人は安心して集まることができます。
 最悪なのは、役職が高い人の席のすぐ横に集まるためのスペースがある場合です。いくら座り心地のいい椅子があっても、気軽に使えないので、いつも閑古鳥が鳴いているはずです。

 わがKDIのオフィスでは空間の多重利用を心がけています。たとえば、会議室という部屋はうちにはありません。お客様を呼んでのワークショップやセッションも、普段仕事をしている場所の机や椅子を動かして即席のスペースをつくり、そこで実施します。折角、来てくださったお客様を別室に閉じ込めないようにしているのです。
 結構な手間もかかるのですが、その仕事とは直接関係がない人との間にも交流が生まれるのを期待しているからです。名刺交換をして一言二言交わしておけば、次に仕事を一緒にしたり、知恵を借りたりする場面になったら、「ああ、あのときの!」で通じるかもしれません。人と人をつなげる。これもサラサラの組織づくりに不可欠なことです。

 最近は喫煙者が激減していますが、タバコ部屋は、雑談と情報交換の貴重な場です。「ネット上のタバコ部屋」をキャッチフレーズに、社員同士が情報交換を行うSNS(Social Networking Service)を立ち上げる会社が増えてきました。
 こうしたSNSの運営で大切なのは、仕事熱心な、デキる人たちにいかに参加してもらうか、ということです。「仕事をやらないヒマ人が集う場」という評判が立たないようにしなければなりません。私がコンサルティングしたシステム会社では、ある役員が書くブログがSNSの最も人気のあるコンテンツにまで成長し、非常に利用が活発です。こうやってトップを巻き込むことができればまさに鬼に金棒です。
 逆に、「顧客からのクレームは確実にアップして開示せよ」といった仕事に直結することを義務化すると、潮が引くように利用者が減ってしまいます。アウトプットは求めない。これが鉄則です。求めるならほかの仕組みをつくるべきです。社内の廊下で偶然出会った懐かしい人とおしゃべりするような、普段まともに聞いたら「勉強不足だ!」と怒られそうなことでも聞けてしまうような、そういう柔らかい雰囲気をつくることが大切です。


実行の生産性ではなく
革新の生産性を
重視する


 さて最後に残った「時間」が少々厄介です。なぜならあなたの意識や行動を変えるだけではどうにもならない要素が含まれるからです。あなたの職場(会社)では、効率が重視され、上から与えられた目標をいかにスピーディに達成するかだけに意識が向かっていませんか。生産性を上げるのは経営の鉄則です。しかし、脇目も振らず、確実に目標をクリアする人こそ優秀だ、となってしまうと、新しい試みが生まれない、困った同僚も助けない、後輩も育てない、冒頭に述べたドロドロの組織そのものになってしまうのです。
 そういう「実行の生産性」ではなく、むしろ「革新の生産性」を重視するように、時間の概念を変えるべきではないか、と考えています。新しいことを提案し、みんなで可否を検討してGOならやってみる。これを「革新のサイクル」と名づけると、このサイクルを早めることを目指すべきだと思います。
 その際に大切なのは各メンバーが高いモチベーションをもっていることです。新しいことを提案する部下のモチベーション、部下から上がってきたものを検討する上司のモチベーション、検討したものを実行する仲間のモチベーション、どれが欠けても、このサイクルをうまく回すことはできません。
 組織の壁を越えてこのサイクルが回るのが理想です。部門単位で解決できない問題は、当然、他の部門への働きかけが必要です。大小問わず、革新のサイクルがあちこちで回っている組織がサラサラの組織です。そう、ここで話は最初に戻ってきました。部門を超えて革新のサイクルを回すには、信頼構築から始めなければならないのです。

 さて、ここまで、あなたの職場をサラサラの組織に変える方策について述べてきましたが、最後に重要なことを付け加えたいと思います。それは「あなたと会社の関係もサラサラにしよう」ということです。つまり、職場を変えよう、働き方を変えよう、もっと創造的な仕事をしよう、といったことを、すべて上司や会社にお伺いを立ててやらなくてもいいのではないか、ということです。気がついたらやっていた。そのくらいのフットワークの軽さが必要なのです。「私は会社に認められたことだけをやる。ただでさえ忙しいのに、組織をよくするボランティアなんてできない」という主張は一見正論のようですが、実は会社にもたれかかったドロドロの関係を象徴した言葉のように思えます。あなたは会社のために働いているのか、それとも自分のためか。そのバランスがほどよく取れた人がサラサラの組織のメンバーになれるのです。

 

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