ハーバード式仕事の道具箱 [160]

生き残りをかけた変革をうまく遂行してもらうには

部下が元気になる改革、心を壊す改革

 
 

今、多くの組織では、これまでの常識をすべて
覆すほどの大変革を迫られている。部下の不安をかきたてずに、
前向きに変えていくプロセスを紹介しよう。

 
 
ローレン・ケラー・ジョンソン=文
text by Lauren Keller Johnson

翻訳=ディプロマット
 
 

不況時の変革ほど、
強い抵抗と不安を
かきたてるもの


 組織の変革構想は、好景気時でさえ社内のあらゆる階層に不安を呼び起こす。だが、リーマン・ブラザーズのような伝説的な企業がほぼ一夜にして倒産したり、株価がめまぐるしく変動したりする時代には、変革構想は恐怖を引き起こし、パニックさえ誘発することがある。
 そんなとき、変革の呼びかけはひときわ強い抵抗を引き出すこともある。今日のように外部環境がきわめて不確実な時代にこそ、人は自分の組織内では不変性や決まりきったやり方を強く望むものだ。しかし、言うまでもなく、企業が生き残りのために迅速な変革を行う必要があるのは、たいてい経済状況がきわめて不安定なときだ。
 その場合、マネジャーはうんざりするような仕事に直面する。組織が景気後退を乗り切れるようにするため、部下が変革構想を完全に支持し、日々の行動を必要に応じて変えるように持っていく必要があるのである。彼らが変化を最も不安に思い、最もいやがっていると思われる、まさにそのときに、である。
 強い抵抗を引き出すのは合併や事業再編などの大規模な変革だけではない。不安定な時代には、新しいITシステムの採用、製品イノベーションの強化といった比較的つつましい変革構想でさえ、部下の不安感を激しくかきたてることがある。

変革を五段階に分け
その都度対処しよう


 部下が変革を支持するように持っていく第一歩は、次に挙げる変革の五段階とそれぞれの段階が概してかきたてる感情を理解することだと、ボストン・コンサルティング・グループの元シニア・パートナーで、『チェンジモンスター──なぜ改革は挫折してしまうのか』 (2002)の著者としても知られるジーニー・ダニエル・ダックは言う。
(1)停滞段階 売り上げの減少、株価の下落、顧客の離反、人材が集まりにくいなど不振の兆候があらわれる。組織の一部の人々が、現状のままではいけないと気づいて変革を唱えはじめる。他の人は現実を否認し、順調だと言い張って、そうではないとする人に激しく噛みつくのである。
(2)準備段階 リーダーが変革の実施を決定し、発表する。マネジャーや一般社員の感情は、恐怖(「私は会社に残れるだろうか」)から安堵(「ああよかった。誰かが何かしてくれるらしい」)や意気込んだ気持ち(「さあ前進しよう」)までと幅広い。
(3)実施段階 リーダーが新しい人事を発表したり、新しい指揮命令系統を定めたり、新しいプロセスを義務づけたりする。社員は、脅威や恐怖や落ち着かない気持ちに加えて、混乱、脱力感、腹立たしさ、適応についての不安、高揚感などを感じるかもしれない。新しい体制を築くために現状と格闘しているので、同時に二つの世界に生きているような感覚を持つものもいる。
(4)確定段階 一部変化したようだが、変革はまだ根づいてはいない。新上司の下で新しいルールや新しいプロセスに従って仕事をするのだから、社員は混乱している。彼らはミスをおかし、そのために変革プロセスのペースが落ちることもある。変革に反対する人々は「言わんこっちゃない。うまくいくはずがないんだ」と得意げに語る。この段階が最も頓挫しやすい。
(5)結実段階 理想的にいけば、これまでの努力が形ある結果を生みはじめる。株価の上昇もしくは売り上げの増大、効率の向上やコストの低下、有望な新製品の誕生、顧客の増加などだ。社員が抱く感情は、自信、楽天的な気持ち、強い意欲などだ。だが、注意する必要がある。結果についての満足感がこのままでよいという安心感に変わる恐れがあり、将来の変革の妨げになることがあるからだ。


今やっていることが
何を意味するのか、
はっきり伝えよう


 部下の不安を和らげ、その抵抗を突き破って彼らの希望と熱烈な支持を引き出す方法として、ダックは次の案を示している。
 マネジャーにできる最も効果的な策は、「現在起きていることを解釈し、それが部下にとって何を意味するかを明確かつ具体的な言葉で説明する」ことだ。
 一例を挙げよう。ダックが昨年コンサルティングしたある保険会社は、市場が縮小するなかで競争力維持のためにコストを抑制しようとしていた。その会社の一進一退の業績や保険業界全体の不振についてメディアが盛んに報じていたため、社員は希望を失いはじめていた。
 不安が高まるなか、ダックはその会社の管理職に、報じられていることが社員にとって何を意味するのかを説明することで張り詰めた空気を和らげるようアドバイスした。管理職たちは社員に次のように説明した。「市場の変化が激しすぎるため未来を予測することはできない。経費削減の必要が出てくるのは確かだが、人員削減は行わない」。
 今後の計画を明確な言葉で説明することに加えて、変革構想の進展に伴い、最新情報をどのような方法で社員に知らせるかということも伝えよう。毎週、特別会議を開くのか、それとも毎週、電子メールを送るのかといったことを説明するわけだ。
 ダックはアドバイスする。「自分たちのリーダーは変革に積極的に参加しており、しかも自分が何をしているのかをちゃんとわかっている。それに、自分たちにどのような行動変化が求められるのかを明確に示してくれるはずだという安心感を、社員に与える必要がある」。
 あらゆる機会を利用して、部下に影響を及ぼすことになる決定の根拠を説明しよう。不確実さを減らし、理解を深めるチャンスに気づいたら、必ず生かしていただきたい。不確実さは不安をかきたて、理解は不安を鎮めるのだから。

部下の混乱を
受け止める寛大さを


 さらに、部下の混乱を受け入れよう。変革プロセスのあいだは、社員はどの段階においてもまったく相反する感情を抱くことがあるという事実を受容するのだ。一人の人間のなかでさえ、長年続けてきたやり方を捨てる淋しさが、おそらく会社にとってより好ましい新たな方向に進む高揚感とせめぎ合うかもしれない。そのような感情の混乱は人間として正常なものであり、能力や価値が他の人たちより劣っているからではないということを社員に理解させようと、ダックはアドバイスする。
 部下とつながりを持ち続けることも大切だ。ダックは言う。「どれほど忙しかろうと、社員食堂で昼食をとり、社員の質問に答えて、彼らが変革にどう対処しているかを把握する時間をひねり出そう」。これは、抵抗がどこで生まれかけているかを、それが危険なレベルに達する前に見つけるのに役立つはずだ。
 部下とのつながりやコミュニケーションを、指揮下のマネジャーの責務にしよう。ダックのクライアントだった会社のある上級マネジャーは、指揮下のマネジャーのボーナスの50%をコミュニケーションの有効性に基づいて決定していた。ここでいうコミュニケーションとは、変革プログラムに関する最新情報をどれくらい迅速かつ頻繁に部下に伝えているか、変革に必要な行動について部下がどれくらい理解しているか等の基準で評価されていた。
 経済の上に垂れ込めた暗雲の向こうに明るい光を見るとしたら、それはわれわれが機会均等の状況にあることだとダックは指摘する。自らをつくり変える機会が、すべての企業に等しく与えられているのだ。
 組織が必要とする変革構想によって引き起こされる感情の混乱を、部下がうまく乗り切れるよう手をさしのべることで、マネジャーは部下が成功実績を築く手助けをするのだ。その実績が将来の変革の際に部下たちを支えることができる。ダックが言うように、「自信とは成功の記憶」なのだから。


 
 
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