ハーバード式 仕事の道具箱 [158]

新任ボスよ、組織に負のスパイラルを巻き起こしていないか

「レッテル貼り上司」が部下を潰し、組織を壊す

 
 

上司が代わった途端、エース部下のパフォーマンスが
極端に低下することがある。
それは、部下への誤ったレッテル貼りから始まるのだ。

 
 
ジャン=フランソワ・マンゾーニ、
ジャン=ルイ・バルスー=文
text by Jean-Francois Manzoni and Jean-Louis Barsoux

翻訳=ディプロマット
 
 

 

活力あふれる社員が
ダメ部下になる瞬間

 新しい職務について、部下との関係が生産的なものになるか面倒なものになるかは、往々にして最初の30日で決まる。万が一、悪いスタートなら、当人だけでなく部下やチーム全体のエネルギーと生産性を急落させるパフォーマンス低下の悪循環が生まれることがある。ビルとマークに起きたことはその好例だ。
 われわれが初めてビルに会ったとき、彼は活力あふれるマネジャーだった。が、わずか6カ月後には、彼は会社を辞めることを考えており、彼の士気の低さは同僚や部下に影響を与えていた。彼の上司が代わったことが原因である。新しい上司、マークは頭の切れる善意の人であったが、ビルに厳しい目を向けるようになっていた。

 マークは、会社の将来を左右するような戦略的事業部門の舵取りを初めて任されたのだ。そのため彼は、自分の新しい上司や同輩から信用を勝ち取りたいと強く願っていた。着任間もないころ、マークはビルに、ビルの工場の欠陥率について短い分析レポートを書いてくれと頼んだ。マークにはそれを頼むだけの理由があったのだが、それは伝えなかった。
 ビルは、自分がしっかり監督している事柄についてのレポート提出が心外だった。ゆえに、ほとんどエネルギーを投じず、遅れて提出することもあった。マークはレポートの遅れや質のばらつきをビルが製造工程をきちんと管理していない印ととらえ、そのためさらに詳しい情報や分析を盛り込むよう求めた。マークが押せば押すほどビルは後退していった。
 ビルの仕事ぶりについての不安が高まるにつれて、マークはビルに対する監督を全般にわたり強化した。どうでもいいことまで細かく管理されていると感じたビルは、マークの要求や指示の一部を無視するようになった。6カ月経たないうちにマークは、ビルがこの仕事に向いていないと確信していた。二人はパフォーマンスを低下させる悪循環にはまり込んでいたのである。

 新しいリーダーが来ると、部下の不安レベルは上昇する。彼らはこの先表れる可能性がある脅威やチャンスを予想できるよう、新しい上司を値踏みし、その優先事項や人となりを読み取ろうとする。ビルがマークについてそうだったように、新しい上司がなぜこのように行動しているのかわからない場合には、部下はそれを状況が要求していることととらえるより、上司の人となりやスタイルのせいにすることが多い。
 同時に、新しいリーダーは、部下の言葉や行動から結論を引き出している。調査の示すところでは、ほとんどの上司、一部の調査によると90%以上が、部下を早々と、あてにできる部下(内集団)とそうでない部下(外集団)という二つのグループに分類する。調査によると、新リーダーは、部下の言動から察知される知性、協調性、自信、自発性に基づいて、就任から5日目という早い時期にこの分類を行っている。だが、観察時間がきわめて短いことを考えると、誤解の可能性は高いのである。
 間違ったレッテルを貼られた部下が上司の認識を変えるのはきわめて難しく、部下の側でも上司についての第一印象は簡単には変わらない。
 レッテルは行動や結果がどのように解釈されるかを決定する。それは行為と結果の複雑な関係がいかようにも解釈できる組織で広く見られる。また、ストレスのある状況や個々人に距離がある状態で活動している場合に強くなる。そのうえ、レッテルはそれと一致する行動を引き出す傾向がある。間違ったレッテルが貼られてから一週間もしないうちに、部下のパフォーマンスに大きな違いが表れることがある。

 たとえば、新しいリーダーが部下の一人について「助けが必要」と判断したとすると、リーダーはその部下に、具体的な指示を与え、結果を念入りに観察し、トラブルの兆しが見えたらすぐに手を差し伸べるという形で対応することが多い。このような措置は、助けのつもりでも、次の二つの理由から往々にして正反対の作用を及ぼす。
 部下は「箱の中に閉じ込められて」いて、頭角を現すことができない。決まりきった仕事と少ない資源しか与えられず、自由がほとんどない場合、内集団の同僚と同等のパフォーマンスがどうして期待できよう。さらに上司の管理的なアプローチが意欲を奪う。外集団の部下は細かく監視され、低く評価されていると感じて自信を失い、何をしてもボスは評価してくれないと判断して、リスクをとったりアイデアを出したりするのをやめてしまう。これこそがビルとマークの間に生まれた破壊的な力学なのだ。
 新しい上司に悪い第一印象を持った部下のほうも、自己実現的な反応を掻き立てるような行動をとる。たとえば、その上司との最初の話し合いのとき、警戒心を示したり自己防衛的にふるまったりして、上司に不安を抱かせ、観察しようという気にさせるのだ。


公正な評価すら
個人攻撃となる

 また、新上司は厳しいのではないか、不公正なのではないかと思っている部下は、修正フィードバックを個人攻撃とみなすおそれがある。フィードバックが無視されたことに気づいたら、上司はさらに厳しい指示を与えようという気になるかもしれない。かくして、上司に対するその部下の否定的な見方が裏づけられることになる。
 要するに、上司が優秀な部下に並以下のパフォーマンスをさせることがあるように、部下が優秀な上司に理不尽な行動をとらせることもあるわけだ。レッテル貼りのプロセスの引き金を引くのがどちらであっても、すぐに双方向に作用し、悪循環を生み出す可能性が高い。

 部下との関係が形づくられる間にきちんと接触を持てば、上司は自分の優先事項や業績評価基準を部下に伝えることができる。上司が部下と人間としての関係を築いたら、部下は安心して問題を報告したり助けを求めたりできる。パフォーマンスが自分自身の期待や上司の期待に及ばなくても、人として敬意をもって遇してもらえるとわかるからだ。
 また、特定の部下について、あるレッテルが繰り返し頭に浮かんでくる場合には、リーダーは自分の当初の観察を裏づけるように情報を処理してしまう性向と戦わなければいけない。とりわけパフォーマンスが劣っているとされる部下の行動や結果を理解しようとする場合には、状況要因を正当に斟酌する必要がある。

 関係を順調にいかせるためには、問題だと感じたことはただちに対処する必要がある。早いうちに伝えられる修正フィードバックは通常の適応プロセスの一環として受け入れられることがある。時間が経ってから問題点を指摘することは、それに伴う不安と困惑を掻き立てるだけで、フィードバックに処罰的な意味合いを与え、部下が建設的に対応する公算を小さくする。
 データと解釈の両方についてその部下と話し合うことだ。事実を確かめる努力をすれば、上司はその部下の行為や動機を誤って理解していたうえに、斟酌すべき事情を見落としていたことに気づくことが多い。部下に上司の思い込みを正す機会を与えることは、信用を築くのに大いに役立つ。それは部下に、公正に評価してもらえるという自信も与えるのだ。

 
 
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