ハーバード式仕事の道具箱 [157]

新リーダーにとって年俸や休暇日数より大切な条件とは

要注意! 新任ボスが陥る
3つの落とし穴

 
 

新たなポジションのリーダーをオファーされたとき、
給与や休暇といった条件以外のことについてきちんと交渉しただろうか。
スタートダッシュ時のチャンスを逃さないための戦略を伝授する。

 
 
デボラ・M・コルブ=文
text by Deborah M.Kolb

翻訳=ディプロマット
 
 

 新しいチームなり、部門なり、会社なりを指揮してくれと頼まれたとき、あなたは、給与や休暇など以外に成功するために必要なものを獲得する交渉は行っただろうか。
 ジュディス・ウィリアムズ、キャロル・フローリンガー、それに私の3人は、われわれの共著、“Her Place at the Table: A Woman's Guide to Negotiating Five Key Challenges to Leadership Success”(2004)の調査で、新任リーダーが往々にして貴重なチャンスを見落とすのは、三つの間違った思い込みのせいであることに気づいた。その思い込みとは、(1)私の選択肢はイエスかノーしかない、(2)私の任命自体が私の適格性を自ずと物語るはずだ、(3)私は資金不足でもやっていける、である。


思い込み1
私の選択肢はイエスかノーしかない


 潜在力のある業績不振部門を引き受けてくれと頼まれたとしよう。そのポジションに関心はあるのだが、私生活を考えるとやっていけるとは思えず、断ることにする。しかしイエスかノーしかないと思い込んでいると、あなたの返事は「はい、お受けします」、もしくは「いいえ、お受けできません」という断定的な表現になる。
 選択肢がいかに限られているように見えても、その職務をあなたの希望やあなたという人間にもっと適合するものにするために交渉できることはたくさんある。だが、それらの可能性を認識するためには、自分自身を十分交渉できる立場にいるとみなす必要がある。


戦略1
自分に適した職務にするために交渉しよう


 ポジションをオファーされるのは、あなたが価値を提供するからだ。交渉する際には、自分がその職務にどのような価値を持ち込めるかを伝えることが、自分の望むものを獲得するための必須要件になる。自分の価値を明確に把握するためには、なぜ自分がそのポジションをオファーされたのかについて情報を集める必要がある。
 セールス・エグゼクティブのヘレン・ジェームズは、昇進をオファーされたとき、滅多にないチャンスだと思った。だが、彼女には幼い子どもがおり、そのポジションに伴う出張は引き受けられなかった。
 ジェームズは自分のネットワークから情報を集め、上司たちが彼女を適任と判断したのは彼女に世界各地の流通業者へのセールスの経験があるからだということを知った。そこで彼女は、その部門の職務分担を変えてほしいと交渉した。その部門にはすでに二人の次長がおり、その二人が新しい責務を引き受けて世界各地の顧客に対応する。ジェームズは本社で戦略を開発し、彼女の専門知識が必要な場合にのみ顧客と会うというわけだ。一見、交渉の余地がなさそうに見えるオファーに対して交渉することで、ジェームズはすべての当事者の利益になる代替策を生み出したのである。


思い込み2
任命自体が適格性を自ずと物語る


 特定のポジションに誰かが100%適任ということはめったにない。新任リーダーがその職務に必要な業務経験を備えていたとしても、背景的な要件は満たしていないかもしれない。部下はあなたの価値と弱点のどちらに注目するだろう。任命を喜ぶ部下もいれば、抵抗を準備している部下もいると予想される。
 最初の反応が否定的だったり、あいまいだったりするのはごく自然なことだ。だが、それをそのまま放置したら、権限を行使し、目的を推進する新リーダーの力は簡単に損なわれてしまうことがある。任命に合理的根拠と支持を与える責任は、当然あなたの採用、または昇進を決めた人たちにあるが、それらの根拠が部下に自ずと伝わると思い込んではならない。主要幹部から目に見える形で支持してもらえるよう交渉する必要があるのだ。


戦略2
説得力のある紹介をしてもらえるよう交渉しよう


 新リーダーは自分の任命の合理的根拠を部下に知らせるために、主要幹部から強力な紹介をしてもらう必要がある。
 急成長中の医療用品供給会社のCEOが管理担当の上級副社長を初めて任命したとき、会社の自由なやり方を気に入っていた業務部門の責任者たちが新しい方針や手順に抵抗する心配があった。
 その上級副社長は、新しい職務に必要な支持を与えてほしいとCEOに交渉した。CEOは業務部門の各リーダーに個別に会って、任命の戦略的根拠を説明することに同意した。彼は、新任副社長を支持しただけでなく、この変革に対する抵抗は会社の成長計画を邪魔することになるというメッセージも明確に伝えたのだ。
 新リーダーは往々にして、任命されたこと自体が自分の適格性を自ずと物語るはずだと思い込んでしまう。そのため、リーダーとしての仕事をやりにくくするおそれのある不信感やひそかな抵抗を予想できない。主要幹部と交渉して公然と支持を与えてもらうことで、新任リーダーは自分の新しい権限を強化できるのである。


思い込み3
私は資金不足でもやっていける


 新たなポジションに就いたら、仕事を遂行するための資源である金銭、人員、時間を早い段階で獲得する必要がある。だがその場合、今後も少ない資源でやっていくことをほかの人々から期待されるだけでなく、資源を獲得することの重要性を見落とすことにもなる。任命の時点から結果という明白な証拠が出るまでの間に、あなたの同輩や上司は、あなたが組織の中で影響力を持っているか否かを観察し、判定を下す。影響力の一つの証しが資源を確保できることなのだ。
 そのうえ、資源の制約を尊重することは意図せぬ結果をもたらすことがある。プロジェクトを支える資金を出してやるという上司のあいまいな約束だけを頼りに、新しい事業ラインを育成するプロジェクトを引き受けたとしよう。そのうち必要な資源が得られると信じて、あなたは突き進む。だが、ラインが大成功してからも追加の資源はもらえそうにない。慢性的な資金不足と人手不足の中で、プロジェクトも人間関係もガタガタになってしまう。


戦略3
資源を得るために交渉しよう


 資源を獲得できれば、新任リーダーは「できる人間」と判定される。一例を挙げると、大規模な政府機関の新任次長が、自分の部署の出張予算は他部署よりはるかに少なく、OA機器も少ないことに気づいた。彼女は部長との交渉で、予算の控えめな増額を要求した。彼女の小さな勝利は、その部署の人びとに、彼女が自分たちの利益のためにがんばってくれる人間だと実証したのである。
 新しいリーダーのポジションに就くのはいつでも大変だが、その移行を容易にするために事前に対策を講じることはできる。イエスと答える前に、とりあえず新しいポジションに就いて間もない時期にあなたを助けてくれる有形・無形の資源を獲得するために交渉しよう。

 
 
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