ハーバード式仕事の道具箱 [155]
堅実に働きたい大多数の社員の力を引き出すには
組織の成長力を7割アップするBクラス社員の扱い方
激務もいとわず、ひたすら上だけを目指す社員は
どんな組織でも一部にすぎない。
強い野心はなくても、堅実に会社に貢献する多数派の社員を
どう活用するかが成功の鍵を握るのだ。
組織の大部分を占めるのは
堅実な一般社員
ほとんどの社員はスター・プレーヤーでもなければ、怠け者でもない。彼らをBクラス社員もしくは堅実な一般社員と呼ぶとして、その割合は一般的な組織で社員の50%以上を占めており、企業は彼らなしには生き延びることができない。
が、これらの堅実なパフォーマーは受けるべき関心を必ずしも受けてはおらず、持てる力を十分には発揮していない。これから示すアドバイスの多くは、どんな社員のマネジメントにも広く適用することができる。だが、重点は堅実な一般社員から最大限の力を引き出すことに置かれている。
まず、忘れてはならないのは、ある組織の堅実なパフォーマーは別の組織ではスターとみなされる可能性があり、また、その逆もありうるということだ。たとえば、急成長中のハイテク企業なら、1年365日、1日24時間ぶっ通しで働くこともいとわない技術の専門家にトップレベルの地位を与えるかもしれない。だが、消費財を扱うグローバル企業は、駆け引きの能力と数年ごとの転勤を喜んで受け入れるか否かを重視するかもしれない。
もう一つ、堅実な一般社員はもっとバリバリ働く同僚と比べて必ずしも頭が悪いわけでも能力が劣っているわけでもないということだ。多くの場合、彼らはただ単に別のことを優先させているのである。
Aクラスだけのチームをつくるのは一見、理想的に見えるかもしれない。だが、一つの部屋に大勢のスターがひしめき合っていて、全員が目立つ仕事や昇進を求めていたら、「酸素」が残らない。スター・プレーヤーは自分のキャリアを第一に考え、組織は二の次にするきらいがあるのは確かなのだ。
それに対しBクラス社員は、脚光を浴びなくても不満を抱かず、概して組織に忠誠を尽くすと、ハーバード・ビジネス・スクールのフィリップ・J・ストムバーグ記念講座教授であるトーマス・J・デロングは言う。Bクラス社員はより長く会社にとどまる傾向があるため、組織に関する深い知識と豊かな人脈を築き上げる。それは変化の時期に、上司にとって計り知れないほど有用になることがある。「彼らは文化を築き、維持してくれる」と、デロングは言う。「彼らは組織を一つにまとめる接着剤なのだ」。
好きな仕事を与えて
やる気を起こさせる
堅実なパフォーマーをうまく操縦するということは、「つまりは彼らの得意なことを見つけて、それぞれの社員に適切な仕事を与えるということだ」と、組織心理学を専門とするグローバル・コンサルティング会社、YSCアメリカズの社長、アンディ・ホートンは言う。
シスコシステムズの人材戦略・幹部養成担当副社長、アンマリー・ニールは、長年勤めている特定分野の専門家で、彼女が「驚異的な社員」と評する人物の例を挙げる。この社員は、頻繁な転勤や、長時間労働はやりたがらない。彼女のやる気を持続させ、力を引き出し続けるために、ニールは、彼女が最もおもしろいと思うタイプの仕事を与えるようにしている。
「大きな昇進を与えることでやる気を起こさせようとしたのでは、彼女は力をフルに発揮できないだろうし、楽しくもないだろう」と、ニールは言う。結果、彼女は上級リーダーへの幹部コーチングの提供から会社の幹部評価手順の設計・実施まで、あらゆることで会社のために役立ってきた。
Bクラス社員は、基本的に、華々しい成果を挙げることはめったになく、Aクラス社員に与えられるような賞賛に近いものすらめったに受けることはない。だが、彼らもやはり賞賛を与えられる必要がある。
デロングはある法律事務所のアソシエイトの例を紹介する。そのアソシエイトは辞表を出す寸前だったのだが、マネジング・パートナーが廊下で彼を呼び止めて、彼のやった仕事を褒めてくれたことで、その事務所に残ることに決めたという。デロングは、こうしたアプローチを実際に採用しているCEOの例も紹介する。このCEOは毎週、これまでないがしろにしてきたと思う社員二人に対して、彼らの仕事ぶりを讃える電子メールを送っている。
Aクラスとの
ギャップを埋めよう
Aクラス社員は、控えめな部下を理解し、操縦するのが苦手なことが多い。ホートンは大手グローバル銀行のマネジャーの例を紹介する。このマネジャーは大口のM&Aで目覚ましい成果を挙げる仕掛け人だった。ゆえに、一部の部下が自分のような挑戦を望まず、長時間働こうとしないのはなぜか、理解できない。彼はBクラス社員の部下を無視したり、彼らにきつく当たったりしがちだった。
やがて、このマネジャーは個人コーチングを受け、認識を改めた。必ずしもすべての人間が強い意欲を持っているわけではないということ、そして、控えめなプレーヤーには別のマネジメントが必要なのだということを理解したのである。さらに、チームをAクラス社員だけで構成しないことが大切で、Bクラス社員の貢献がどれほど必要不可欠であるかということも理解するようになった。
彼は部下に合わせてマネジメントスタイルを変えることにした。たとえばバリバリ働く部下には、さらに大きな課題を与えた。一方で、さほど自信がなく、もっと明確な指導を必要とする社員には、具体的な目標と里程標を示し、ときにはプロジェクトへの取り組み方について細かい指示を与えたりもした。結果、このマネジャーの有能さに対する部下の評価は劇的に向上した。
キャリア開発の
機会を与えよう
目立つポジションに就きたがらないからといって、新しい挑戦を望んでいないということではない。ホートンによると肝心なのは、Bクラス社員にキャリア開発の機会を与えるべきか否かではなく、スター・パフォーマーとの対比で相対的にどれくらいの時間とカネを投じるべきかである。
シスコのニールは、能力開発予算の約15%をBクラス社員に投じ、残りをAクラス社員に使っている。ニールを含めたシスコのトップ・マネジャーたちは、2年前、Bクラス社員の能力開発にもっと力を入れる必要があると判断した。「彼らに関心を払わなければ、わが社の潜在的成長力のおそらくは70%を失うことになるとわかったのだ」。
そのためシスコは、高い潜在能力を持つ社員だけを対象にしていたリーダーシップ養成プログラムを他の社員にも開放することにした。ニールによれば、このプログラムを受講した一般社員は、スキルが向上し、会社への参加意識も高まり、離職率も低下しているという。堅実な一般社員についても彼らの強みを強化し、会社のニーズとうまく合致させるキャリアプランを作成しよう。一人ひとりと相談しながら、社員にとっても組織にとっても重要な課題や目標を盛り込んだプランを開発するのだ。
堅実な一般社員は組織の「健康と幸福」にとって欠かせない存在だ。彼らのスキルを伸ばすことで、彼らを会社にとどまらせ、長期にわたって貢献させることができるのだ。
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