ビジネススクール流知的武装講座 [211]

真のリーダーを育む「フォロワーシップ」とは

 
 

47歳の若さで、黒人初の米国大統領になることが決まったバラク・オバマ氏。
彼を当選に導いたのは、米国国民が発揮する主体的なフォロワーシップであると筆者は説く──。

 
 

一橋大学大学院商学研究科教授
文=守島基博
text by Motohiro Morishima
東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科社会学専攻修士課程修了。イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。組織行動論・労使関係論・人的資源管理論でPh.D.を取得。2001年より一橋大学商学部勤務。著書に『人材マネジメント入門』『21世紀の“戦略型”人事部』などがある。

図版作成=平良 徹

 
 

優れたリーダーの裏に存在する
優れたフォロワー


 バラク・オバマという名前の47歳のアフリカ系アメリカ人が来年1月、第44代アメリカ合衆国大統領になることが決まった。その生い立ちは、ケニアからの移民の子供であるということ、また両親の離婚、母親の再婚などにより子供の時期をインドネシアで過ごし、さらにその後ハワイにおいて白人の母親と母方の祖父母(共に白人)によって育てられるなど、それこそ波瀾万丈である。ケネディ家やブッシュ家、麻生家などのような政治家を多く輩出した家柄などでは全くない。また、連邦レベルでの政治家(上院議員)としての経験もまだ5年程度の、日本流にいえば新人議員である。
 でも、アメリカ合衆国の国民は、そのオバマ氏に今後4年間の自分たちの国と生活を賭けたのである。その背景にはもちろん8年間の共和党政権に対する失望も、ちょうど選挙戦が佳境に入ったときに発生した世界金融危機もあったのだろう。また、よく言われるようにオバマ氏のリーダーシップ能力も大きいのかもしれない。特にコミュニケーションの力は卓越している。今年1月8日のニューハンプシャー州での演説から多くの人々を魅了し続けたYes We Canというフレーズは、英語の不得手な私たちにとっても理解しやすく、繰り返されるにつれて耳に焼きついた。申し訳ないがブッシュ大統領と比較すると、格段に素晴らしい。
 ただ、私が本当に感心するのは、オバマ氏のリーダーシップや、コミュニケーション能力にではない。正直に言えば、オバマ氏ぐらいの人材は、米国には何人もいると考えるからである。私がすごいと思うのは、まだほとんど何も実績を残していない人材を、自分たちの未来を託すリーダーとして選ぶアメリカの国民に対してである。私は、そこにアメリカという国の人々が時に見せる「フォロワーシップ」の神髄を見た気がした。
 私の個人的な経験からしても、アメリカ人というのは、リーダーシップをやたらと強調する半面、自分がフォロワーになるべきだと判断すると、きちんとフォロワーシップを発揮するのである。言われてみれば当然だが、優れたリーダーの裏には必ず、優れたフォロワーがいるはずだ。そして、フォロワーがリーダーについていくとは、ハーメルンの笛吹きのように踊らされてついていくだけではない。リーダーのビジョンを達成するために、自律的に判断し行動する。リーダー候補を本当のリーダーにするためにフォロワーとなり行動する、と言ってもよい。そうした行動がフォロワーシップなのである。こうした意味での健全なフォロワーシップを、必要なときに組織の構成員が発揮できる組織は強い組織だと言わねばならないだろう。
 今回のオバマ氏の当選は、彼のビジョンに共感した多くのアメリカ国民が積極的に主体的なフォロワーシップを発揮した結果だと思う。もちろん、オバマ氏のリーダーシップと、アメリカ国民のフォロワーシップの組み合わせの真価は、今後4年間で問われることになるが、多くのアメリカ国民が健全なフォロワーシップをすでに発揮している意味で、アメリカの変革は好スタートをきったと言えよう。


フォロワーに求められる
三つの能力とは


 実は、経営学でもリーダーシップに対する関心に比較して、フォロワーシップに関する研究は案外少ない。米国でもあまり多くの研究がないのだから、日本ではさらにほとんど関心が集まってこなかった。ほぼ唯一の例外は、リーダーシップ研究の第一人者、金井壽宏氏が『リーダーシップ入門』のなかで言及しているぐらいだろう。金井氏は、リーダーシップを、リーダーとフォロワーの間にある現象だととらえ、リーダーの行動や資質だけに依存する考え方を超越するが、そのなかで効果的なリーダーシップが生起するため、フォロワーが能動的に行動することが重要だと指摘している。
 では、よいフォロワーとはどういう人なのだろうか。ウォレン・ベニス、バーバラ・ケラーマンなどの米国のフォロワーシップ研究者の議論をまとめてみると、大きく分けてフォロワーに求められる要件(つまり、フォロワーシップ)とは三つの能力で成り立っているように思う。
 一つ目は、リーダーが語っているビジョンの正しさと実現可能性を評価する能力である。言い換えれば、自分がついていくべきリーダーを選択する能力である。これを通じてリーダーの言っていることや、やっていることにどれだけ信頼がおけるかを判断し、コミットする対象を決める。そのためには、前回このコラムで書いた人材観察力がフォロワー(例えば、部下)からリーダー(例えば、上司)への関係でも必要だ。ついていくに足るリーダーを見極め、選択することからフォロワーシップは始まる。
 二つ目が、選んだ対象へ意図的に努力を集中する能力である。コミットする力と言ってもよい。コミットとは、積極的な努力によって生まれる結果であり、自然にできあがるわけではない。特にリーダーが語るビジョンへのコミットは、それ自体がまだ実現していないという意味で、疑おうと思えばいつでも疑えるので、迷いを乗り越えて、ビジョンの実現のためにエネルギーを注ぐ能動性が必要だ。組織変革や国造りのような大きなビジョンの実現は、一人ひとりのフォロワーが意図的に努力を注入して初めて可能になる。
『頼れるフォロワー、困ったフォロワー』というタイトルの近著で、ハーバード大学のバーバラ・ケラーマンは組織が大きく複雑になり、リーダーが一人ひとりに語りかけられない状況になればなるほど、組織として、フォロワーのビジョンへのコミットを強化することが重要だと強調する。また、先に述べた金井氏のフォロワーの能動性も同様だろう。
 そして、第三が、常に批判的にリーダーを評価し続ける能力である。これはコミットする能力とやや相反するように思われるが、ある意味ではコミットしつつ、同時にそのコミットの正当性をいつも疑う冷静さだと言ってもよい。フォロワーシップについて多くの観察をしているウォレン・ベニスは、組織が暴走しないために、フォロワーがついていくなかで冷静さを保ち、疑問や不満、リーダーの間違いなどをリーダーに対して伝えていくことがフォロワーシップの根幹だと述べている。能動的なフォロワーと、盲目的なフォロワーを分ける要素かもしれない。
 したがって、この三つの能力を兼ね備えたフォロワーは、組織変革や、難しい戦略目標達成のためには欠かせない人材なのである。日本でもこの状況は同じだろう。少し前にNHKで人気番組だった、「プロジェクトX」のエピソードの多くはリーダーシップ物語としてとらえられるが、見ようによっては、フォロワーシップ物語だ。多くのおじさんが涙するのは、リーダーの素晴らしさもあるが、リーダーのビジョンを実現しようと頑張るフォロワーたちの姿だろう。日本企業がボトムアップで強かった、というのも有能で健全なフォロワーが数多くいたからだと考えられる(ただ、おじさんの一人としてちょっと残念なのは、今、私の学生たちに同じビデオを見せても、あまり感動しないことなのだが……)。
 でも、今フォロワーシップが弱っているように思う。なぜなのだろうか。いくつも原因があるだろうが、四つぐらいあげてみよう。一つ目はある意味ではしようがないことだが、大きな夢やビジョンが希少になったことだ。短期目標、数値目標、四半期ごとの評価などが前面に出て、大きな夢が語りにくくなった。結果として、フォロワーがコミットできるビジョンが枯渇した。
 また、ここ暫く進展した人材の個別管理も夢の大きさに影響を及ぼした。目標設定面接において上司と議論する目標は、部下一人ひとりにブレークダウンされた個別目標であり、またその評価も個別にフィードバックされる。その意味で、組織としての目標や夢を共有しにくくなった。


魅力的なビジョンを語れる
リーダーの必要性


 第二に、働く人の自立や起業が強調されるなかで、誰かのために、誰かのビジョンの実現のため頑張るという行動が評価されにくくなったこともある。また、根本的に「頑張る」行動自体が評価されにくくなったのかもしれない。やや極端な言い方かもしれないが、あくまでも成果が評価され、そこへの努力は報いられないのが、成果主義の基本だ。過去20年、成果主義の導入に伴って、多くの企業で、いわゆる情意効果のウエートが下がり、成果や職務遂行能力のウエートが増してきた。
 第三が、職場が変容し、共同体としての人と人のつながりがなくなることで、メンバー間のコミュニケーションが少なくなったことだ。フォロワーがリーダーに能動的、積極的についていくためには、両者の深いコミュニケーションが必要だが、それが難しくなった。結果として、フォロワーとリーダーの間に心理的な距離ができ、ついていく行動が発生しにくくなった。
 そして第四が、やはりリーダーの魅力低下である。先にも述べたように、リーダーシップがリーダーとフォロワーの間に起きる現象だとすれば、フォロワーシップの低下は、結局は、リーダーシップの弱体化に呼応する。リーダーが夢を語り、フォロワーについてこさせる能力や余力がなくなった。
 背景は、ほかにもあるかもしれないが、理由はどうであれ、今健全なフォロワーシップが減少しており、その結果として、企業や組織が弱体化する危険性があるように思う。
 では、どうすればよいのか。まず、リーダーシップが育成可能であるならば、同様にフォロワーシップも育成可能だと考えられる。コミットすべきリーダーやビジョンを評価する能力、迷わずコミットする能力、そのなかで常に批判をする冷静さを持つ能力などは、ある程度教育によって促進することもできるだろう。フォロワー教育の重要性である。
 また、同時にフォロワーシップ強化のカギは、コインの裏側、つまり、リーダーシップの強化が伴わないとどうしようもない。魅力的なビジョンを語り、コミットする部下を支援し、公正に評価し、さらに部下からの批判にはオープンに対応する。そうしたリーダーが増えていってこそ、フォロワーが育つのだろう。いずれは相乗的な効果に繋がるだろう。
 いずれにしても、健全なフォロワーシップは組織にとって重要な資産だと考え、あらゆる手を使って、フォロワーシップを強化することが必要である。経営者として、リーダー育成だけを考えていればすむ時代ではない。

 
 
PRESIDENT 2008年12.29号
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税込価格 650 円
 

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