人に教えたくない店 [403]

ドリカムの吉田美和さんだってコーの料理と恋に落ちたはず

ジョー・サンプルさん

 
 
ミュージシャン

Joe Sample

1939年、テキサス州ヒューストン生まれ。79年にアルバム「ストリート・ライフ」でクロスオーバー/フュージョン・シーンを席巻したザ・クルセイダーズ(88年に解散)のリーダー的存在。繊細で表情豊か、優美なピアノ・サウンドにファンが多い。2008年にはジョー・サンプル&ランディ・クロフォード名義で「リスペクト・ユアセルフ」をリリース、R&Bからジャズ、ポップスまでを独自の世界に昇華した音楽が人々を魅了する。詳細は、http://www.videoartsmusic.com/info/news/17/


構成・文/播磨秀史
撮影/伊藤千晴(ル・サンプル)、浜村多恵(ル・マンジュ・トゥー)
 
 


 第一次世界大戦が終わったころ、ニューオリンズとロサンゼルス間を結ぶ長距離列車「サンセット・リミテッド」の食堂車で、私の父親は最高級のクレオール料理のコックをしていました。私が味覚に自信があるのは、父のスペシャル料理を幼いころから食べていたからです。
 子供のころを思い出すと、ひどいことばかり。まだクルマが普及していなかったので交通標識も「止まれ」のサインもみんなよくわかっていない。向こう見ずな若い連中が、両サイドから好きなだけスピードを出すものだから、交差点で頻繁にクラッシュする。牡蠣の殻が砕けたとき、もうもうと白い粉みたいな煙が出るでしょう。あんなのが辺り一面を覆いつくすのです。ケガ人どころか死んでしまう人もでてきて……。
 日本でもいろんな経験をしました。1966年に初めて日本に来た私は、レコード会社の人に連れられ、ホテルの最上階の会席料理へ連れていかれました。お店に入った途端に靴を脱げと言われ、部屋ではずっと「正座」をしろっていうんです。「正座」なんて生まれてこのかたしたことがないのに。どの料理も小さい皿に載っていて、箸を持たされる。ある皿には魚の目玉らしきものまで。日本の皆さんに失礼になってはいけないと、覚悟を決めて片っ端から食べました。その経験を乗り越えたお陰で、自分に食べられないものはもうないと思っています(笑)。
 あのころの日本人は、みんな着物を着ていました。バーやレストランに行くと、壁一面に何百枚ものレコードが並んでいて、しかもそのレコードの多くがジャズだったことにとても驚いたのです。聴衆がみな気難しそうな顔をして、うつむき加減にジャズを無言で聴いていることにもびっくり。この国の人たちは音楽に対して非常に強い愛情をもっていることがわかって、うれしかったことを覚えています。以来、何十回と日本に来るようになりました。
 来日の際に必ず訪れるのが、私の名前を冠してくれた「ル・サンプル」。オーナー・シェフのコー(菊池晃一郎氏)とは91年からの知り合いです。あのときコーはロサンゼルスの小さなお店で働いていた。(ドリカムの)吉田美和さんとも一緒にその店へ行ったことがあります。店の雰囲気も出てくる料理もすべてパーフェクト。連れていく人はみんな、彼の料理と恋に落ちてしまいます。コーには今でも自宅で開く特別なパーティへ料理を作りにきてもらっています。「ル・マンジュ・トゥー」のノボル(谷昇氏)も一緒に。彼もスペシャルなシェフです。
 料理も音楽もきっと一緒。理論や勉強だけではなく、リラックスして自分のさまざまな感情を注入できれば、鮮やかに輝き始めるのです。

 
 
フランス料理
ル・サンプル


最高の音楽と最高の料理。
これ以上、人生に必要なものは何もない

●落ち着いた内装と照明の店内には、店名にもなっているジョー・サンプルの音楽が流れ、「ラ・ボエムL.A.」などロサンゼルスで7年経験を積んだ菊池シェフ夫妻の人柄も滲む。
●東京都渋谷区東4-9-10 TS広尾ビルB1
TEL.03-5774-5760
営業時間/18:00~22:00(LO) 火曜、第1第3水曜休 6300円、1万500円(税込、サービス料7%別途)のおまかせコースのみ。


  • 1.「松阪牛のグリル ブランデー・ブルゴーニュ・ワインのソース」。サシの入った肉の旨さを引き立てるソースが美味。付け合わせのアスパラ、舞茸も素材を厳選。
  • 2.「クエのポワレ伊勢エビのソース」は適度な歯応えと香りが嬉しい。徳島産ムラサキ縞ナスのイチジクのようなねっとりした食感が、存在感を放ちつつクエを引き立てる。
  • 3.「フロマージュテットとラムのリエット」。豚を使ったフロマージュテットはこってりしつつもしつこくなく、適度な塩味が白ワインに合う。リエットはフワッと香るラムと上品な口溶けが楽しい。
  • 4.「貝類のニューオリンズ風」はトマトソースにオリジナルのスパイスを使用。火の通りが絶妙。

フランス料理
ル・マンジュ・トゥー


神楽坂近く、
空間をも料理する
王道フレンチ


●住宅街にある店に入ると目の前に厨房が広がり、一気に店の世界に引き込まれる(カウンター数席あり)。2階に引き締まったトーンの客席が。新宿で生まれ育った谷シェフはフランスの三つ星レストランで修業、94年に当店をオープン(06年にリニューアル・オープン)。
●東京都新宿区納戸町22
TEL.03-3268-5911
営業時間/18:30~21:00(LO) 日曜休
1万2600円(税込、サービス料10%別途)のおまかせコースのみ(応相談)。


  • 1.「フォアグラのムース ペルノー風味のかぼちゃピューレ」は見た目も美しく、ムースの上にフォアグラがどっしりと。濃厚な味の後に軽やかな香りが広がる。
  • 2.酸味が利いたソースも食欲をそそる「マネッシュ豚の煮込み」。煮る、脂抜きする、ローストするなど、7段階のプロセスを経て仕上げられた豚肉は、しっかりした歯応えがありつつ旨味が溢れ出す。
  • 3.「モンブランとカシス・シャーベット」。山のようにそびえるモンブランとは違い、フランスの山脈をイメージ。甘さ控えめの味わいが上品。
  • 4.「平目のポワレ プーレット」は淡泊ながら味わい深い天然平目を使用、濃厚なソースと相性がいい。ムール貝は小振りだが癖がなく、香り高くて美味。
 
 

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