ハーバード式仕事の道具箱 [154]
あなたの会社のやり方ではBRICs市場で勝ち残れない
「新興国ビジネス」5つの勘違い
新興国市場へ進出するには、常にリスクがつきまとう。
しかし、多くの企業で信じられている誤った常識が、
さらなる損失を生んでいるケースも多いのだ。
新興市場は巨大な成長の可能性を示しているが、残念なことに多くの欧米企業が戦略的に不利なかたちで新興市場に参入する。新興市場に関する間違った考えに基づいて事業を展開するため、消費者や企業顧客のニーズを概して満たせない製品やサービスを提供し、大きな機会をつかみそこなっている。
その機会がどれほど大きいのかを、技術・通信・メディア部門で考えてみよう。
オリバー・ワイマンが行った調査によると、成熟市場に本社を置く企業の時価総額の伸び率は15%だったのに対し、新興市場諸国に本社を置く企業は、過去5年間に年率38%のペースで時価を増大させた。急成長企業トップ10のうち七社は、新興市場に本社を置いている企業、もしくは新興市場に積極的に投資している企業だった。本稿では、新興市場に関して広く流布している五つの勘違い──誤った通説を分析する。この分析は、われわれのコンサルティング活動と途上国市場の2万人以上の消費者や企業幹部に対する調査に基づいている。特に、技術・通信・メディア部門に焦点を当てて論じるが、この教訓は新興市場への進出を検討するどの企業にもあてはまる。
勘違い(1)
新興市場はテクノロジーの
後進地帯である
企業はおもに、基本機能だけを備えた低価格製品で新興市場に乗り込もうとしてきた。だが、調査によると、途上国の消費者や企業は、テクノロジー製品・サービスを他の商品よりはるかに優先している。たとえば電気通信に対する消費者支出は、ほとんどの新興市場で10%から15%の複合年間成長率を示しているが、先進国市場の成長率は5%足らずである。携帯電話はまたたく間に世界で最も広く使用される電子機器になり、2007年末の使用台数は30億台を超えた。
01年のアメリカのネット利用者は、人口1000人当たり500人で、浸透率は50%だったが、同じ年の中国では2.6%にすぎなかった。ところが07年には、12.3%にはね上がっていた。
小規模事業のレベルでは、テクノロジーは新興市場できわめて重要なツールになっている。たとえばアフリカの小規模農家は、携帯電話で気象情報や作物の市場価格を簡単に知ることができる。中国では、われわれが調査した小規模事業経営者の57%が、「テクノロジーは事業の競争優位を生み出すためにきわめて重要だ」という見解に強く同意すると答えた。途上国企業の電気通信支出、とりわけ無線通信支出は、この先5年、大幅な増加を示し、一方で成熟したヨーロッパ市場の支出額は途上国市場より大きくとも増加ペースは遅いと、業界アナリストは予測する。
飛躍的前進は広く見られる現象になっている。多くの消費者が、デスクトップ・パソコンではなく、はじめからノートパソコンを購入している。また、多くの新興市場の通信事業者が、携帯電話による支払いや送金などのサービスを提供するようになっている。ケニアのサファリコム(ケニア政府とボーダフォンの合弁会社)のM・PESAは、顧客が携帯電話を使って送金などの基本的な取引を行えるサービスを提供している。
勘違い(2)
テクノロジーを購入する
金銭的余裕がない
これは断じて真実ではない。主要新興市場の消費者の80%以上が、テクノロジー製品・サービスを購入できるだけの可処分所得を手にしている。これらの市場には豊かな消費層があり、中所得層の消費者でさえかなりの額をテクノロジーに使うことができるのだ。
しかも、テクノロジーならなんでもよいというわけではない。われわれの調査では、途上国の消費者や小規模事業はより高品質の製品や革新的な機能を求めており、それらにカネを払う用意があることが判明している。BRICs市場でのある調査では、小規模事業はより小型か高速のプリンターであれば、20~30%の割増価格を喜んで払うことが明らかになった。別の調査では、中所得顧客層と高所得顧客層の購入パターンには、ごく小さな違いしかないことが判明した。
新興市場のなかには中所得層が総人口の70%を占めている国もあることを考えると、これらの消費者は企業にとって魅力的な存在なのだ。
勘違い(3)
消費者はブランド料を
払わない
ほとんどのテクノロジー企業の幹部は、グローバル企業が新興市場で健全なブランド料を得るのは難しいと思い込んできた。現地のノーブランド企業がマーケット・シェアの大部分を獲得するはずだと思っているのだ。
彼らは考え直す必要がある。たとえばブラジルでは、調査の回答者の59%が、次に家庭用パソコンを買うときは国際的ブランドの製品を買う可能性が「きわめて高い」と答えた。プリンターに関する別の調査では、BRICs四カ国のすべてで、顧客の意思決定においてブランドが欧米諸国より重要な役割を果たすことが明らかになった。
新興市場の小規模事業主も、ブランドに強い関心を持っている。たとえばBRICs諸国の小規模事業対象の調査では、次にコンピュータを買うときは国際ブランドの製品を買う可能性が「きわめて高い」との答えが出た。理由の一つはリスクを避けるためだ。国際的ブランドのほうが、ローカル・ブランドより安全とみなされているのである。
勘違い(4)
成熟市場の製品が
そのまま通用する
成熟市場で通用するものは、新興市場でも売れるはずだと企業幹部は思い込んでいる。しかし、消費者の特定のニーズに合わせた機能と価格の製品をつくる必要があるのだ。
電気通信業界の巨人、ノキアは、インドの総人口の70%が農村に住んでいることから、農村部が巨大市場になりうると考えた。そこで、懐中電灯機能、ダストプルーフ・キーパッド、複数アドレス帳および個人別通話時間記録機能(電話を共同使用する場合のため)を備えた携帯電話を設計した。この携帯電話はサイズが大きく、成熟市場ではあまり訴求力はないが、農村の人びとにとっては便利で魅力的な製品になっている。ノキアはさらに、インドの農村部に合わせたマーケティング戦略を採用した。携帯電話の利点を宣伝するとともに、顧客のニーズについてさらに情報を集めるために、辺鄙な村に宣伝カーを送り込んだ。
勘違い(5)
サービスより
製品を重視する
多くの企業がサービスを怠って、顧客をつかみそこなってきた。われわれは、電話によるトラブル解決や出張セットアップなどのサポートが、途上国でのテクノロジー製品の販売促進に果たす役割を調べるために、いくつかの調査を行った。その結果、これらのサービスは売り上げに大きな影響を及ぼすことが明らかになった。たとえば、パソコンの場合、サポートサービスによって売り上げが10%も伸びることがある。
ビジネス客の場合はさらに大きい。BRICs諸国の中小企業対象の調査では、回答者の3分の2が、テクノロジー機器とともに、サプライ用品の自動補充サービスはもちろん、出張メンテナンスサービスも申し込む可能性が「高い」もしくは「きわめて高い」と答えている。
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