ハーバード式仕事の道具箱 [153]
サービス業における「複雑さ」を排除すれば利益は上がる
なぜ7割の企業は
無用な商品を捨てられないのか
新商品やサービスを開発する中で、
企業の成長を妨げる複雑なプロセスやシステムが生まれることがある。
特にサービス業において害をなすこの「複雑さ」を追い出す方法とは。
製造業のほうが
対処しやすい
「複雑さ」が企業に害を及ぼすということは、ほとんどの企業幹部が認識している。先ごろ、ベイン・アンド・カンパニーが世界の960社の幹部を対象に調査したところ、70%近くが、複雑なサービスやシステムはコストを押し上げ、成長を妨げていると答えた。サービス業の場合、製品構成の複雑さが目に見えにくいため、特に致命的なのだ。
製造業なら、倉庫にある在庫の山、多様な製品のための生産ライン切り替えの際の不稼働期間、売り場やショールームの売れ残り商品など、いたるところに証拠が見て取れる。対して、サービス業では、複雑さはほとんど目に見えず、際限なく増大することがある。新「製品」は往々にして、既存のサービスやキャンペーンのために、コールセンターの人員や応答マニュアルを少し追加するだけで発売できる。が、実はそれに伴う害も大きい。ほとんどの企業は、基本プロセスの部分で増大する隠れたコストを計算に入れていないからだ。
サービス業の製品構成の複雑さは、いったん生じたら避けられないほどの不利益をもたらす。問題が起こってから製品の種類を減らしても、問題は解決しない。これは、廃止された製品を購入、今も保有している顧客にサービスを提供し続けなくてはならないからで、資源を浪費し、組織の関心をもっと重要な課題からそらせる恐れがある。最善の防御措置は、顧客のニーズや製品や市場が変化する中で、複雑さを制度的に排除し続けることだ。
では、どうすれば際限なく増大する複雑さを制御できるのか。まず、賢明な製造業のやり方を取り入れることだ。製造業は、徹底的に簡素化した環境で商品製造プロセスを理解するため、製品をゼロから検討するところからスタートする。もちろん製品を一種類にするのは現実的ではないが、この実験によって、思考が解き放たれ、限界を広げる可能性が高まる。
製品構成を白紙状態から検討することで、企業幹部は以下の三つの重要なステップに集中することができる。
──どこに複雑さが蓄積しているか、また複雑さの真のコストはいくらになるか査定する。
──最優良顧客のニーズを確実に満たすのに必要な製品だけを取り入れる。
──変化する顧客の嗜好を満たす新商品開発を行いつつ、そこに複雑さが忍び込まないよう注意深く目を光らせる。
関連した
コスト計算をする
複雑さに関連したコストがどう増大するかを理解するには、まず一種類の製品にかかるコストを計算することだ。そこに新機能を追加しつつ、派生製品のコストを計算するのである。この作業によって、コストは通常、徐々に直線的に増大するのではなく、追加された複雑さが組織に無理をかけはじめる分岐点で急激に上昇することに気づく。この分岐点がどこで生じるか、それにぶつからないようにするにはどうすればよいかを知ることが、健全な黒字成長につながることがある。
コスト増大を避けるためには、コストを押し上げるプロセスを再検討することだ。とある北米の大手生命保険会社を例に挙げよう。同社は最初のセールス、契約申し込みの承認から契約更新や給付申請の処理まで、契約に関連するあらゆる事項を処理する個別のケース・マネジャーを任命し、加入者への個別化したサービスを売りにしていた。
ところが、保険商品の種類と複雑さが増えるにつれてコストが急増し、顧客サービスがおろそかになりはじめた。同社のアナリストたちが、一対一の管理方式についてベンチマーク評価を行ったところ、個々のケース・マネジャーは1日当たり4件の契約申し込みしか処理できないことを発見した。これは同社の主な競合2社の半分から3分の1のペースだった。そこで、同社は手順を全面的に改め、契約に関連するサービスを、数人のケース・コーディネーターから成る専門チームに担当させ、各チームに一人ずつ事務スタッフをつけた。
これによって1年足らずのうちに生産性は25%向上し、事案処理時間は半分になり、同社の成長は再び加速した。
顧客が本当に
価値を置くものとは
製品構成の複雑さは、その企業が顧客のことをよく知らないことを物語っていることがある。たとえば、顧客調査で顧客が「より多くの選択肢」を求めているという結果が出たとき、これを額面どおりに受け取る企業がある。だが、ある大手スーパーマーケット・チェーンはもっと賢明だった。この会社は、売り場の商品を増やすという高くつく措置の代わりに、もっと詳しい調査を行った。そして、顧客が本当に求めているのはより多種類の商品ではなく、欲しいものを欲しいときに見つけられることだと気づいた。多くの珍しい商品が売り場に並ぶことに価値を置く顧客はほとんどいなかった。それより、人気商品が往々にして品切れになっていることに不満を抱いていたのである。
この結果を受け、同社は、商品の種類を減らして、個々の商品により大きな陳列スペースを設けた。結果、売り場はすっきりし、買い物客が探しているものを見つけやすくなって、売り上げは増大した。商品の種類を減らすことが売り上げ増につながることを、さまざまな企業が認識している。一部企業では、5%の商品の売り上げが総売り上げの95%を占めることもある。
新市場開拓の中で
警戒を怠らない
企業が市場トレンドの先を行くために邁進する中、複雑さが再び忍び込んでくる危険性は高い。それを防ぐためには次の三つの防御措置を実行することだ。
──ビジネスモデルをシンプルに保つ。絶えず組織を見直して、「もう一度ゼロからスタートして一種類だけの製品またはサービスを軸に会社を築くとしたら、その製品またはサービスは何か」と考える。
──新製品またはサービスがクリアしなければならないハードルを引き上げる。そうすれば、製品の種類を増やすことに伴う隠れた複雑さのコストを認めざるをえなくなる。
──新製品やサービスを一つ加えるたびに、既存製品・サービスから一つを削除もしくは簡素化する。
1997年にカナダで創業されたネット銀行・INGディレクトは、顧客がオンラインだけで貯蓄口座を開設・管理することを可能にした。支店を設ける必要も、それに関連する間接費を負担する必要もないため、高い利子で、新しい預金者を引き寄せている。
2000年に米国部門を立ち上げて以降、同社の預金額は年率50%以上のペースで増大し、07年の終わりには約540億ドルに達した。顧客のニーズに応えつつ、利益を高める機会を模索してきた同社。商品構成が拡大して、住宅ローンや当座預金や証券仲介サービスが含まれるようになっても、それぞれの商品カテゴリーの中では複雑さを排したビジネスモデルを守り続けている。
すばらしいサービスは、複雑さという代償を払わなくても提供できる。ここに挙げた例をはじめとする多くの革新的企業が気づいているように、複雑さを抑えることで、最優良顧客によりよい価値を提供することに全力で取り組むことができるのだ。
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