ハーバード式仕事の道具箱 [152]

自然に他人の支持を勝ち取る方法とは

難しい人に「イエス」と言わせる説得術

 
 

素晴らしいアイデアも、周囲の支持や許可を
得られなければ世に出すことはできない。
上手に相手の懐に飛び込み、ゴーサインを勝ち取ろう。

 
 
文=クリスティーナ・ビエラスツカ=デュヴェルネー
text by Christina Bielaszka-Duvernay

翻訳=ディプロマット
 
 

自分でなく
他人に価値ある提案を心がける


 アイデアは最初の一歩にすぎない。マーケティング・チームと協働するための新しい構想であれ、サプライヤーと協力するよりよい方法であれ、アイデアの価値は、他人にそれを支持させ、実行させることができるか否かで決まる。
 最大の障害は、自分が価値とみなしているものに焦点を当てすぎることだ。ウォートン・スクールの戦略的説得ワークショップの共同ディレクターで、G・リチャード・シェルとの共著、『The Art of Woo:Using Strategic Persuasion to Sell Your Ideas』(2007)でも知られるマリオ・ムーサは、「自分にとって納得のゆくことが、必ずしも他人にとって納得のゆくとはかぎらない」と語る。
 企業における交渉や、変革への支持を勝ち取る手助けをしてきた経験から、ムーサとシェルは説得の戦略的手法を築き上げている。その四つのステップは次のとおりである。
(1)適切な人に狙いを定める
(2)耳を傾けてもらう妨げとなる障害を取り除く
(3)アイデアのよさを訴える
(4)協力の約束を取り付ける
 本稿では、(1)と(2)に焦点を当てる。

障害をもメリットに変える


 効果的な説得は、相手にデータや主張や証拠を次から次へと浴びせかけることではない。押せば押すほど、相手は後ずさりする可能性が高くなる。あなたが相手に対して権力を持っているなら、仮に反対でもはっきり言うことはまずない。だが、暗黙の不賛成が、アイデア実行にどんな影響を及ぼすかは、火を見るよりも明らかである。大切なのは、そのアイデアに同意することが容易かつ納得できると感じてもらうことだ。
 説得する側とされる側の間には、「信用」「関係」「信条・価値観」「利益」「コミュニケーション」という五つの障害が入り込む可能性がある。しかし、これらをすべて橋渡し役に変えることもできる。

信用 説得しようとしている相手があなたを信用していなければ、成功の可能性はほとんどない。あなた自身やあなたの資格がどうであるかという問題ではない。他人があなたをどう思っているかという問題なのだ。信用が必要になる日に備えて、あなたのあらゆる言動が信用を築くものでなければならないのだ。

関係 人々があなたに好感を持っており、他人の厚意に必ず報いる人間だと信頼している場合には、耳を傾け、賛同してくれる可能性は高くなる。逆に、あなたを知らない場合、彼らにはあなたやあなたのアイデアを信頼する根拠がないことになる。
 説得の前に信頼関係を築くよう努めよう。会って話すのが最も効果的だが、不可能な場合、親しみのこもった電子メールも有効なことがある。多くの人と信頼を築けば築くほど、将来、支持を得ようとするとき、有利な立場にいることになる。

信条・価値観 相手の基本的な信条や価値観を支持し、促進するものとしてアイデアを位置づける必要がある。
 相手の信条を変えることはできない。だが、「相手がそのアイデアを、信条よりさらに深いところにある基本的な価値観と合致するとみなしてくれるよう、アイデアの位置づけを変える」ことはできると、シェルとムーサは述べる。
 彼らは、小売り大手ベストバイの人材部門担当幹部、ジョディ・トンプソンとカーリー・レスラーが、自分たちのROWE(Results-Oriented Work Environment――結果志向の労働環境)構想に対する支持をどのようにして勝ち取ったかを紹介している。
 ベストバイには、会社にいることイコール仕事をしていることとみなす文化が根強かった。トンプソンとレスラーは、在社時間ではなく結果に注目することで、社員の疲労を緩和し、生産性を高められると確信していた。が、その構想をCEOのブラッド・アンダーソンに直接話すより、まず二人の事業部長を味方につけることにした。この事業部長たちは、それぞれの事業部でひそかにROWEプログラムを開始、他の部門にも広まっていったので、トンプソンとレスラーはその有効性についてデータを集めた。
 2年後、このアイデアをアンダーソンに提案したとき、彼らはROWEが生産性を高めることを、データで証明することができた。アンダーソンはそのアイデアを受け入れ、全社で始めることに同意した。

利益 相手にとっての利益は強力な動機要因である。シェルとムーサは、スティーブ・ジョブズがコンピュータ・マニアに販売するため100枚のプリント基板を製作しようとしたとき、スティーブ・ウォズニアックをどのように説得して1000ドルを出資させたかを例に挙げる。ジョブズは出資してくれればそのカネを2倍にできると訴えた。だが、ウォズニアックは基板が売れるとは思わなかったので出資を断った。そこでジョブズは、別の利益──会社設立をもちかけた。ウォズニアックはそれに食いつき、アップルが設立されたのである。

コミュニケーション コミュニケーションのズレによる障害は、きわめて広く見受けられる。誰かを説得しようとするときは、その人が好むコミュニケーション・チャネルに合わせることが大切なのだ。
 ジョアン・ブラッドフォードは、マイクロソフトのオンライン・ネットワーク、MSNのオンライン広告部長として採用されたとき、それを思い知らされた。最初の数カ月、彼女はCEOのスティーブ・バルマーと自分の直属上司を説得し、広告売り上げ拡大のために営業チームの人員倍増を認めさせようとした。だが、訴えれば訴えるほど抵抗が大きくなる。当初、ビジョン型のチャネルで訴えていた彼女だが、周囲を見回し、マイクロソフトで好まれるコミュニケーションは、数字主体の合理型であることに気づいた。そこで図などのデータを使ったところ説得力が高まり、彼女はOKを勝ち取った。


言葉はシンプルで
印象的なものに


 シェルとムーサの調査によると、パワーポイントを使ったプレゼンテーションが世界で毎日約3000万件行われており、調査対象の経営者の78%が、プレゼン時に眠ったことがあると答えた。これらの調査結果は互いに関連していると彼らは考える。聞き手を眠らせないため、「PCAN」のプレゼンを始めよう。
・Problem(問題):問題を簡潔に、聞き手視点で定義する
・Cause(原因):問題の原因を明らかにする
・Answer(回答):自分のアイデアが問題にどのように答えを提供するかを説明する
・Net benefits(実利):他の選択肢がある中で、なぜ自分のアイデアが最大の実利をもたらすのかを説明する
 PCAN方式は合理的思考に訴えかけるが、意思決定には合理性以外の要素も絡んでくる。「説得相手は二人いると考えたほうがよい。聞き手の合理的な部分と直感的に決定を下す部分である」と、著者は記している。準備の最終ステップとして、プレゼンを印象に残り、感情に訴えかけるものにする方法を考え出そう。何らかの方法で親近感を感じさせるプレゼンにできないか。図や類比を使うことで、より明確で具体的にできるだろうか。さらに、聞き手の想像力を燃え上がらせ、アイデアに命を吹き込む物語の力を忘れないでいただきたい。

 
 

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