人に教えたくない店 [397]

大阪の味付けは甘くていけない。
寿司はやっぱり江戸前に限る

中村芝翫さん

 
 

中村芝翫

Shikan Nakamura
日本芸術院会員・人間国宝(重要無形文化財保持者)。1928年、五代目中村福助の長男として東京に生まれる。祖父は五代目中村歌右衛門。5歳で、四代目中村児太郎を名乗り初舞台。同年、父が他界し、12歳のときには祖父も逝去。その後は六代目尾上菊五郎に師事する。67年に七代目中村芝翫を襲名。歌舞伎界をリードする女形として、品格ある本物の芸を披露し現在に至る。89年に紫綬褒章を受章。海外公演での楽しみは競馬。67年カナダ・モントリオールで大穴を当て、ミンクのコートを奥様にプレゼント。

構成・文/小宮千寿子
撮影/浜村多恵(鮨 きよ本)、奥谷 仁(駒形どぜう)
 
 

 歌舞伎役者の女形ですから、一通りの家事はできますよ。お茶をいれたり、縫い物をしたりね。ご飯を炊くならガスじゃなくて、薪に火をつけるところからやります。
 でも、役のうえではただ家事ができるだけではだめなんです。お茶を注ぐにしても、長屋のおかみさんや芸者など、役柄の違いで表現を変えなければなりません。
 しかも、舞台では相手役がいますから、相手の癖を察知してそれに合わせる必要もあります。夫婦を演じるときは、旦那様役も人間ですからそれぞれ癖があり、羽織を着るにしても右から着る人と左から着る人がいます。奥さんであれば当然その癖を知っているはず。女役は旦那様役の癖も覚えておいて、左右間違えないよう羽織を着せる芝居をしなければなりません。そういう濃やかな心遣いは、夫婦間の愛情を表現するうえではとても大切です。
 最近は、歌舞伎のビデオやDVDが出ていますから、セリフや型がある程度までは簡単に学べます。でも、花道に置いてある置物をひっかけないための袴のはき方やお面の継ぎ目がお客様に見えないように踊ることなど、映像だけではわからない企業秘密がたくさんあるんです。
 映像を模写するだけでは、模写した人以上にはなれません。細かなテクニックも含めて伝統をしっかり継承すること。そのうえで少しずつ自分なりの工夫を加えていくことが大切です。
 こちらの「きよ本」にうかがうようになったのも、僕が30年以上ひいきにしていた「なか田」の先代から継承されたものを、しっかり会得されているのを感じたからです。シャリの硬さやお酢の加減など、寿司屋でいうところの企業秘密を引き継いでいるわけです。しかも、僕の好みも心得ていて、気の利いたものをササッと出してくださる。寿司はやっぱり江戸前がいい。大阪に行っても、お寿司は口に合わないので食べません。そういっちゃ悪いけど、味付けが甘すぎる。
 どじょうが食べたくなると出かけるのが、江戸時代からの伝統を引き継ぐ「駒形どぜう」さんです。僕は特別扱いされるのが心底嫌いなので、昔はお店の人にわからないようにできるだけ背中を向けて座っていたんですが、あるとき見つかっちゃって(笑)。今ではすっかり仲良くさせていただき、家族で食べに行くこともあります。
 親子で同じ商売をやるのは難しいものです。息子たち(福助、橋之助)、とくに同じ女形の福助には教えにくい。まだ、一代置いた孫(勘太郎、七之助)のほうが教えやすい。稽古をつけるときにだけ、「お祖父様……」なんて具合に突然言葉遣いが変わります。可愛いもんです(笑)。

 

寿司
鮨 きよ本

新鮮なネタはもちろん、シャリの硬さや酢加減など、 江戸前寿司の神髄を探求

●銀座の名店「なか田」の店長だった清本勝次さんが独立し、今年4月21日にオープン。
●東京都中央区銀座5-5-9 オージオ銀座ビル5F
TEL.03-6273-1590
営業時間/12:00~14:30、17:00~21:30(20:30LO)祝日は夜の営業のみ 日曜休 予算昼は4000円~、夜は1万円~ 予約可能(夜は要予約) 席数19(カウンター11、テーブル8) カード可 全席禁煙(喫煙ルームあり)


  • 1.旬のネタを贅沢に敷き詰めた「吹き寄せ」(4830円~)。新潟のコシヒカリを、暑い時期は少し硬めに炊いて仕上げる。カレイの昆布締め、エビ、あおりいか、脂の乗ったトロが食欲をそそる。
  • 2.「おまかせ」(1万5750円~)。生の魚介類のほか、手間をかけた酢締めの魚やあわび、穴子、たこを煮物に仕上げたネタで握った伝統の江戸前寿司。
  • 3.「バラチラシ」(3990円)。火を通したネタばかりで、時間を少しおくとなじむため、お土産用にも最適。
  • 4.芝翫さんのお好みでもある「貝の盛り合わせ」(時価)。新鮮で歯ごたえが小気味よい赤貝、かむごとに甘さが広がるみる貝、たいら貝、あわびの旨味がたっぷりの蒸しあわびは、ぜひスッキリとした日本酒と一緒に味わいたい。盛り合わせの内容は季節ごとに異なる。

どじょう
駒形どぜう

浅草で江戸時代の味を今に伝えて208年目の、どじょう料理の名店


●店名が「どぜう」となったのは江戸時代から。文化3年(1806年)の大火で被災し、「どぢやう」は4文字で縁起が悪いということで、奇数の「どぜう」に。1階の入れ込み座敷は、江戸時代の雰囲気が味わえる。
●東京都台東区駒形1-7-12
TEL.03-3842-4001
営業時間/11:00~21:00(LO) 年中無休(原則) 予約は4名から可 席数220~230(大広間、小部屋、椅子席あり) カード不可


  • 1.通称"丸"と呼ばれる「どぜうなべ」(1650円)。どじょうは、湯布院に近い院内町の温泉水で養殖し、お酒を飲ませてから調理するため臭みが感じられない。創業時より伝わる秘伝の割り下で軽く煮込み、ねぎをたっぷりかけて食べるのがツウ。宮城県産の柔らかいねぎは、お代わり自由。
  • 2.「柳川なべ」(1450円)。土鍋にささがきごぼうを敷き、どじょうを並べてだしをかけて卵で閉じる。上品に仕立てた一品だ。
  • 3.「どぜう汁」(350円)。"安価な庶民の味として残したい"と先代から値上げを禁じられたというサービスメニュー。深川と京都のあわせ味噌は、まろやかで深みがあり、五臓六腑に染み渡るおいしさ。食べなきゃ損。
  • 4.「さらしくじら」(1150円)。今や調査捕鯨用しか食べられない、希少価値の高い鯨料理。コリコリとした歯ごたえと、やや癖のある脂身に酒が進む珍味。
 
 
PRESIDENT 2008年9.29号
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