人に教えたくない店 [396]
粋に蕎麦を啜ろうとすると
蕎麦が肺に入りそうになります
フィリップ・トルシエさん
私の趣味は骨董品の収集で、青山の街の散策が好きです。そんな街の静かな一角にこの「アディング・ブルー」はあります。料理も美味しくて、もてなしも温かいのですが、木をふんだんに使った店内の感じが気に入っています。こういう店で食事をすると、いいインスピレーションが得られそうでしょう。次の試合での選手の起用法とか、コーナーキックのパターンとか。クラブの会議室にはない効用です。アイデアが湧けば、フォークをペンに持ちかえて、遠慮なしにメニューやテーブルクロスに図を描いてしまいます(笑)。
昼食はそばが多いですね。ヘルシーで、午後の仕事がはかどります。「室町砂場」は店の雰囲気がいい。木の香り、出汁の匂い。そばを味わう客の様子も素敵です。だから、パリやロンドンではそば屋を探さないし、自宅でも食べません。日本のそば屋でそばを啜ることに価値があります。箸で、器用に啜りますよ。そばを上手に食べることは優れた文化だと思います。
ただし、音を立てて啜り込む技術は相当に難しい(笑)。そばが肺に入る感じになったりね。うまく啜れず、雰囲気を壊すようで周りの方々に申し訳なく思っています。鋭意、特訓中です。
サッカーチームには「ともに生きる」という統一感が必要です。ピッチ上のことも重要ですが、人間関係はピッチを離れたところにこそある。
10回の練習よりも一回の食事会が有効なこともあります。私は選手のことを・子どもたち・と呼ぶくらいで、親が子どもの食事を心配するのは当然です。彼らの力が最大限に発揮できる食事をいつも考えています。
そういう意味では、日本食はサッカーチームにとって素晴らしい。栄養的にバランスがよくてヘルシーで、メニューに統一感がある。ご飯、味噌汁、漬物にメーンディッシュ。ご飯は肉、魚、炒め物、煮物、なんでも合います。優秀なガソリン源である炭水化物(ご飯)が自然と、しかも豊富に摂れるメニューです。
ゲン担ぎは好きです。勝ち試合に着たスーツを着続けたり、フカヒレスープを夕食に食べ続けたり。でも、ゲン担ぎは準備や練習をすべてやり切って、プラスアルファーでやるべきものでしょう。全力を出し切るためのリラックスの方策になればいいのです。
自分を顧みれば、肉屋だった父は栄養価の高いローストビーフの肉汁を飲ませてくれたし、母はいつでも美味しい朝食を作ってくれました。それをリラックスしながらしっかりと食べる。安心して全力で課題に向かうことができます。自分はそうやって成功してきた。食事には、人間が持っている力を最大に発揮させる、なにかがあるのです。
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