人に教えたくない店 [396]

粋に蕎麦を啜ろうとすると
蕎麦が肺に入りそうになります

フィリップ・トルシエさん

 
 

フィリップ・トルシエ

Philippe Troussier
1955年、フランス・パリ生まれ。6人兄弟の長男。実家は精肉店を営んでいた。母国でのプロ生活の後に指導者に転向。フランスやコートジボワール、ナイジェリアなどで実績を上げ、98年から2002年までサッカー日本代表監督を務める。ワールドユース準優勝、シドニー五輪ベスト8、アジアカップ優勝、コンフェデレーションズカップ準優勝、そして02年のワールドカップで初の決勝トーナメント進出と、数々の実績を誇る。現在はJFL・FC琉球の総監督。自身のサッカー観、日本のサッカー事情を語った著書も多数ある。

構成・文/須藤靖貴
撮影/古市和義(アディング・ブルー)、馬場敬子(室町砂場)
 
 

 私の趣味は骨董品の収集で、青山の街の散策が好きです。そんな街の静かな一角にこの「アディング・ブルー」はあります。料理も美味しくて、もてなしも温かいのですが、木をふんだんに使った店内の感じが気に入っています。こういう店で食事をすると、いいインスピレーションが得られそうでしょう。次の試合での選手の起用法とか、コーナーキックのパターンとか。クラブの会議室にはない効用です。アイデアが湧けば、フォークをペンに持ちかえて、遠慮なしにメニューやテーブルクロスに図を描いてしまいます(笑)。
 昼食はそばが多いですね。ヘルシーで、午後の仕事がはかどります。「室町砂場」は店の雰囲気がいい。木の香り、出汁の匂い。そばを味わう客の様子も素敵です。だから、パリやロンドンではそば屋を探さないし、自宅でも食べません。日本のそば屋でそばを啜ることに価値があります。箸で、器用に啜りますよ。そばを上手に食べることは優れた文化だと思います。
 ただし、音を立てて啜り込む技術は相当に難しい(笑)。そばが肺に入る感じになったりね。うまく啜れず、雰囲気を壊すようで周りの方々に申し訳なく思っています。鋭意、特訓中です。
 サッカーチームには「ともに生きる」という統一感が必要です。ピッチ上のことも重要ですが、人間関係はピッチを離れたところにこそある。
 10回の練習よりも一回の食事会が有効なこともあります。私は選手のことを・子どもたち・と呼ぶくらいで、親が子どもの食事を心配するのは当然です。彼らの力が最大限に発揮できる食事をいつも考えています。
 そういう意味では、日本食はサッカーチームにとって素晴らしい。栄養的にバランスがよくてヘルシーで、メニューに統一感がある。ご飯、味噌汁、漬物にメーンディッシュ。ご飯は肉、魚、炒め物、煮物、なんでも合います。優秀なガソリン源である炭水化物(ご飯)が自然と、しかも豊富に摂れるメニューです。
 ゲン担ぎは好きです。勝ち試合に着たスーツを着続けたり、フカヒレスープを夕食に食べ続けたり。でも、ゲン担ぎは準備や練習をすべてやり切って、プラスアルファーでやるべきものでしょう。全力を出し切るためのリラックスの方策になればいいのです。
 自分を顧みれば、肉屋だった父は栄養価の高いローストビーフの肉汁を飲ませてくれたし、母はいつでも美味しい朝食を作ってくれました。それをリラックスしながらしっかりと食べる。安心して全力で課題に向かうことができます。自分はそうやって成功してきた。食事には、人間が持っている力を最大に発揮させる、なにかがあるのです。

フレンチ
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アディング・ブルー


ジャズの流れる店内
普段使いのできる
カジュアルフレンチ

●ゆったりとくつろげる空間。ワインもリーズナブルな価格で充実。大きなオーブンで焼く自家製パンの美味しさも評判だ。
●東京都港区南青山6-3-16 ライカビル1F
TEL.03-5485-2266
営業時間/17:30~23:00(LO)土祝17:00~22:00(LO) 日曜休 コース(アミューズ、前菜、メーン、デザート、コーヒー 5250円)もある。


  • 1.「骨付きもち豚ロース肉のココット焼き」(6615円)はポークの旨さがじっくりと味わえる逸品。ココット(器)で30分近くじっくりと焼きあげて美味しさを凝縮させる。脂に滋味があり、塩だけかマスタードを付けて。付け合わせの野菜がまた美味。
  • 2.トルシエ氏を郷愁に誘う「ハム・パテ類の取り合わせ」(2940円)。写真下から時計回りに、イベリコ豚の生ハム、サラミ、田舎風パテ、豚の血のソーセージ、コッパ(豚の耳、タンなどの薫製)。パテのしっかりとした歯ごたえが印象的。ワインとパンが進むボリューム満点の前菜だ。
  • 3.「セップ茸のヴルーテ」(2520円)のコクの深さよ。セップ茸、玉ねぎ、ポロねぎを鴨の脂で炒めて煮て、漉す。仕上げに少量の生クリームを。「ヴルーテ」は「ビロードのような」の意味。生クリームを多くするとポタージュになる。力が湧いてくる芳醇な風味だ。

そば
室町砂場 赤坂店


玉子やきでまず一杯。
仕上げに啜るのは
「ざる」か「もり」か

●創業明治2年。「室町砂場」は赤坂店、日本橋本店のみ。場所柄か、国会議員がよく暖簾を潜るものの、至って庶民的な店内。天ざる、天もりの発祥の店でもある。
●東京都港区赤坂6-3-5
TEL.03-3583-7670
営業時間/11:00~20:00(19:30LO) 土曜11:00~19:30(19:00LO) 日祝・第三土曜休 カード不可


  • 1.一番の人気メニュー「天ざる」(1550円)。「ざる」に芝えび、小柱のかき揚げが付く。これを温かい汁で。「ざる」は精製度が高い更科粉に玉子、小麦粉を加えて打つ。「もり」は精製度の低いそば粉と小麦粉。「ざる」は口当たりがよく、「もり」はそば自体の味を楽しめる。
  • 2.「おかめそば」(1400円)は目に楽しい。「もり」のそばに、玉子やき、しいたけ、かまぼこ、えび、ゆばが載る。
  • 3.酒の肴なら「玉子やき」(写真手前 650円)と「焼鳥」(750円)だ。コクのある関東風の玉子やきに、フライパンでソテーした焼鳥。そば汁の「返し」が鶏肉に染み込んでいて酒(菊正宗・特選)が進む。
  • 4.「しるこ」(600円)で仕上げる粋。白玉のしっかりとした歯ごたえ、あっさりとした甘さがいい。
 
 

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PRESIDENT 2008年9.15号
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