ビジネススクール流知的武装講座 [201]
マネジメントの必須条件「ミッション、ドメイン、成果測定」
今日の経験を明日に繋げるためにはどうすればよいか。
筆者は、マネジメントのサイクルを回す三つの要素を解説する。
マネジメントの方法論を学ぶ
二つの事例
組織には、非連続な事態を招く意思決定が必要とされるときがある。それは決断と呼ばれたりする。実際に、一人の経営者の決断が会社を救うということはないではない。だが、その前に、非連続な事態を招くに至るのはどうしてか、ということを考えたほうがいい。決断などなく、自然にあるべき途が選ばれて物事が成就していくというのが組織にとっても人にとっても一番幸せなことだ。それが可能になるためには、「問題が起こることをあらかじめ予期して、事前に備えておく」体制づくりが不可欠だ。マネジメントとは、そのために存在し、組織が編み出した知恵なのである。二つの事例を参照しながらマネジメントの価値を考えてみよう。
先日、広島カープからMLBドジャースに移籍した黒田博樹投手が、9回4安打無四球11奪三振でカブスを完封し勝利した。8回まで0点に抑えてきたが、ニュースでは、監督は9回に一人でもランナーが出たら即座に代える予定だったらしい。日本なら「せっかくここまできたんだから、何とか完投をさせてやりたい」となりそうだが、野球の性格がちょっと違うようだ。
その采配の振り方に、日本人選手は戸惑う。球数を投げれば投げるほど調子が出てくる投手には野茂英雄や松坂大輔がいるが、彼らも、MLBに来た当初、100球になったからという理由で5回や6回で交代させられた。肩の消耗を防ぎたいという善意の判断であっても、私にはいささか迷惑がっていたように見えた。しかしそれに不満を言うと、MLBでは投手のわがままと見なされる。同じMLBで数年前、投手交代を渋ってボールを手離さなかった投手が、数日を経ずして他球団にトレードに出されたこともある。
厳しいルールと措置に見えるかもしれない。ファンの気持ちを代弁すれば、監督ももう少し情を持って選手に接することはできないものかと思ってしまう。ファンでなくても、評論家的立場で言うと、もう少し現場の選手の気持ちを生かしたほうがいいように見える。
決めたルールに従ってゲームを進行させるのか、それとも選手の気持ちをその場その場で汲み取ってやっていくのか。どちらの道を選ぶのか、答えに迷いそうだ。だが、マネジメントを経営のベースに置くと決めれば、当然のごとく答えは決まっている。
あるスーパーマーケットの話である。そのスーパーは、レジ前の売り場をひとつの事業と考えた。スーパーに行って、いろいろな買い物をして最後にレジに行ってお金を払う。その列に並ぶと、通路の両側に小物商品が陳列されている。電池やガムや子供のお菓子などがよく置いてある。そのスーパーは、その小さい売り場をひとつの事業と考えた。
スーパーに買い物に来たお客さんは、いつも店内を同じ心理状態で歩いているわけではない。買いたいものがはっきりしていてそれを探しているときと、「あっ、そうそう、これ買っておこう」というときは、心理は違っていて購入の仕方も異なる。目的買いと衝動買い、そこに注目して売り場を細分化しようとしたわけだ。
そういうふうにして決まった事業を任された責任者は、いろいろ工夫する。目的買いで購入される商品や、店が売りたいと考えるPB商品などは、残念ながらレジ前の売り場の陳列からは外される。店が売りたい商品でその売り場を構成するのではなく、目的買いにはなりにくい商品、買い忘れしそうな商品が陳列のメーンになる。また、何気なしに見回したときに見えやすく、そして手を伸ばしてとりやすい陳列に変える。こうして売り場の改良を重ねていくと、レジ前で商品を買う人が増え、その売り場の生産性が上がってくる。そして、レジ前売り場事業の業績も上がる。
さまざまのそうした工夫の中に、レジ前売り場に置いた商品は、他の売り場には置かないという工夫があった。その理由は、同じ商品を他の売り場にも置いてしまうと、今の商品管理技術では、その商品がどの売り場で売れたのかを識別するのは難しいからだ。レジ前がひとつの事業となれば、その打つ手の効果をきちんと見定めないと次の打つ手がはっきりしないという考えが、その施策の背景にある。
だが、それによって商機は失われそうだ。昔から、いわゆる「エンド」という売り場で、父の日ならビールとかおつまみとかをいっぱい積み上げて販売するやり方がある。特売と呼ばれるやり方だ。最近では、クロスマーチャンダイジングということで、野菜売り場にドレッシングやポテトチップスや野菜ジュースを置いたりすることもある。そうした一種、売り場を交差して商品を置くといった機転のきいた試みはやりにくくなる。
はてさて、どうしたものだろうか。一方のレジ前売り場担当者の気持ちもわかるし、他方の機転のきいた対応が必要だという論理もわかる。う~んと、考えてしまう。
野球の試合とスーパーの店頭、ずいぶんと世界は違うので、このエピソード、一見関係ないように見える。だが、マネジメントという点で見ると、不可欠な三要素を示唆している。マネジメントに不可欠なミッション、成果、そして仕事の広がり(ドメイン)を、明確にすること、これである。
正確な成果の測定に
不可欠な「ミッション」
MLBの監督は、ゲームをプランする。そのプランに沿って各選手の「ミッション」を決める。先発投手なら、5回まで100球以内で最少得点に抑えること、そして中4日で登板を繰り返してシーズンを通してローテーションを崩さないこと。セットアッパーなら、中盤の1回か2回投げる。その代わり毎試合登板する準備をすること。抑えの切り札なら、リードしておれば最終回は必ず登板する。相手代われど、試合のこのパターンは変わらない。1試合に起こることを想定して備えておくわけだ。予期して備えるのである。
だから、先発投手が、100球を超えてなお、「この試合は俺に任せてくれ」と言っても、おそらく監督は、彼が何を言っているのか意味がわからないだろう。「今日のおまえの仕事は終わった。次の仕事は5日後だ」と言うしかない。
プランに沿って仕事のミッションが決まると同時に、各ミッションの成果がきちんと評価される。先発投手として、中4日間隔のローテーションを1年通して守れたら、彼の成果は高い。たとえ彼の勝敗が、5勝15敗でも給料を下げる理由にはならない。先発投手が先発投手としてのミッションを果たしてなお、それが勝利に結びつくことが少ないとすれば、それは監督の責任だ。監督のミッションは1年通して、あるいは数年にわたっての勝利だ。
ミッションが決まれば、そのミッションが果たされたかどうか、きちんとその成果を把握する必要がある。MLBの場合は、選手の成果についてはいろいろな記録をとっている。知っておられる方も多いと思う。
スーパーでも、ミッションに見合った成果をきちんと把握することが必要だ。そのために、先のスーパーは、同一商品を別の売り場に同時に置かないことを決めた。それによって、確かに今そこにある商機は逃すかもしれないが、その分、レジ前事業のミッションは果たしやすくなる。レジ前商品の入れ替えや新陳列棚への変更の施策の効果を見極めたい。だが、同じ商品がレジ前以外の売り場に置かれていれば、正確な結果は?めない。事業責任者として、成果を正確に把握できなければ、次の正確な施策を打つことができない。

「売れれば勝ち」では
明日の経営改善に繋がらない
この考え方は、「今日の経験を明日に繋げる」という考え方であり、「今日の売り上げより、明日のためのマネジメントを優先する」考え方とも言える。「どういう理由かわからないけれども、とにかく売れれば勝ちだ」という考え方の対極にある。
だがもし、条件が整えば、商機を手にすることができる。たとえば、同じ商品でもどこの売り場に置いたかわかるような新商品管理技術が導入されれば、多彩なクロスマーチャンダイジング施策が打てるようになる。マネジメント自体は何も変えることなく、新技術を有効かつスムーズに吸収する。他方、「とにかく売れれば勝ち」のやり方の経営では、「その新しい技術は何のために必要か」という議論をまた最初から始めなければならない。不連続な決断が必要とされるのだ?
昨日より今日、今日より明日と着実に経営成果を改善するためには、マネジメントが必要だ。そうしたマネジメントが可能となるためには、マネジメントの範囲、ドメインを確定しておかないといけない。
スーパーの話はわかりやすい。このスーパーは、レジ前をひとつの事業ドメインと考えた。同じ売り場であっても、レジ前は他の売り場にいるときと比べて「お客さんの心理が違う」点に注目した。普通のスーパーでは、野菜とか鮮魚とか洗剤とか、そもそものチャネルや商品タイプの違いによって売り場が分けられているが、お客さんの心理に注目して売り場を細分化し、ひとつの事業として責任を持った経営をしようというわけだ。常識的な商品カテゴリーで売り場を細分化するのとは違い、戦略的なドメイン定義と言える。
戦略的に考える、そのこともなかなか大事なことだが、それ以前に、その事業の範囲を確定し、そこに責任者を置き、彼の裁量で施策を打たせていること、そしてその施策の成果をきちんと把握しようとしたことが重要だ。それは、事業とその責任者の「ドメイン」をハッキリと確定したということである。そこには、責任があやふやなせいで生まれる「脇の甘さ」はない。
MLBのケースもそうだ。監督には与えられたドメインとミッションがある。セットアッパーの力よりも、5回を投げ終えて少々肩を消耗させていたとしても松坂投手のほうが相手を抑える確率は高そうだ。だが、それを承知で交代させる。今この試合での勝利も大事だが、年間優勝のほうが、監督にとってはもっと重要だ。投手の交代の場面も、こうしたより長い時間のドメインの中で判断される。
大組織の運営にはマネジメントが必要だ。そして、マネジメントにはドメインの明確な定義が必要だ。マネジメントのドメインはミッションに分割され、それぞれの努力の成果が測定されないといけない。図はそれらの関係を示している。この関係が組織に定着すれば、不要で過剰な非連続な変化を避けることができる。
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