ハーバード式仕事の道具箱 [148]
リスクや不安を超え、利益を生む技術を世に出すには
イノベーションを育てる上司、潰す上司
新しい技術を世に出すには、さまざまな障壁が待ち構えている。
それらを乗り越え、イノベーションにつながるアイデアが
どんどん湧いてくる組織の評価体制とは。
吊るし上げ会議が
新しいアイデアの芽を潰す
イノベーションは不確実性に満ちている。タイミングは適切か、消費者はリピーターになってくれるか、技術が手ごろな価格で商品化できるか、ビジネスモデルは成功するだろうかなど、不確実な要素を挙げればきりがない。すべてを適切に行っても失敗する場合があり、イノベーションを評価する場合、そんな現実を考慮しなければならない。
ほとんどの企業は、販売・売り上げ目標、利幅、マーケットシェア、キャッシュフローなどの評価基準に照らしてパフォーマンスを評価し、前に進み続けるためにはどのような行動をとる必要があるかを決定する業務評価会議を定期的に行っている。多くの場合、それは管理的なもので、ののしり言葉と激しい屈辱感に満ちた「恐怖の会議」になることがある。
イノベーションを育み、着実な内部成長を生み出すようにするためには、そうではない雰囲気が必要だ。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の評価会議は選択肢を探す場、前提を掘り下げる場、明確さを追求する場である。同時にどれだけ資源を投入するか、どのような場合にプロジェクトを縮小したり、続けさせたりするかを決定するにあたって、一貫した手法を持っている。
イノベーションのコーチは上司
イノベーション評価には、業務計画や予算見通しの評価より大きな不確実性が伴うため、まったく異なる考え方が必要だ。リーダーの役目は、巧みな質問によってチームメンバーの思考を広げ、どのような手段を検討し、誰にアドバイスを求めるべきかを示唆し、スケジュールを定めてそれが達成されるようにすることだ。ある意味で、リーダーはイノベーションのコーチになるのであり、特定の行動を奨励し、チームメンバーの視野を広げ、士気を高めるのである。
簡単にまとめると、リーダーの仕事は次の三つである。
(1)率直な評価を与える
リーダーはイノベーション・チームの活動について、率直な評価を与える必要がある。見通しのなかに楽観的すぎるものはないか。消費者または顧客について明確なイメージを持っているか。競合他社を何らかの理由で過小評価してはいないか。必要な人的資源と金銭的資源の両方を手にしているか。このプロジェクトの活動は停止するべきか、それとも加速するべきか等、さまざまな角度から検討・評価する必要がある。
評価会議の時間内に問題を解決しようとするのではなく、チームでどのような行動が必要かについて合意すればよいのだ。
(2)力を貸す
リーダーは大きなアイデアをより大きくすることを目指すべきだ。「このアプローチを検討してみたかね」というような質問をしたり、「これと似通ったことをX社やY産業が経験していたと思うのだが」というようなコメントをすることで、チームメンバーの思考を広げ、イノベーションの新しい可能性に気づかせることができる。
リーダーは、チームにとっての重要課題を突き止め、それに対処する手助けもする必要がある。そのためには、似通った課題を克服した別のグループに接触するよう指示することが必要な場合もあるだろうし、チームが必要な資源を入手できるよう手助けすることが必要な場合もあるだろう。
(3)自由な会話を促進する
会議は対話の場であり、チームのミスを暴くことではなく、アイデアを掘り下げ、説明し、前進させることが大切なのだ。チームを奮い立たせ、積極的にリスクをとる姿勢を高めるものでなければならない。会議が勝ち負けを決める場のように感じられたら、チームの姿勢は保守的になる。
「障害は何か」「もっと資源があったら何ができるか」「ほかにどんなやり方を検討したか」「社内外からのどのような支援が必要か」といった質問をぶつけよう。
たとえば、ゼネラル・エレクトリック(GE)では、ジェフ・イメルト会長が、イノベーション評価の際のプレゼンテーションに求めるのは売り込み口上ではなく、チームがアイデアをどのように形にしているかを示す優れたビジュアルだということを明確にしている。彼は実際のプロトタイプ、場合によってはバーチャルのプロトタイプを見せるよう要求する。それから世界各地の業務や、さまざまな顧客との対話から得た広い視野で、その限界を探り、押し広げるのである。
イエスかノーか、探求を続けるべきかを決定するのはリーダーの仕事だ。おそらくリーダーの最も重要な役目は、メンバーに「消費者がボス」であることを認識させ、いわゆる顧客目線が意思決定の中心に据えられ続けるようにすることだろう。
P&Gのポスターを使ったアプローチ
P&Gのイノベーション評価会議は、事業部全体での評価、ブランド・製品ラインでの評価、特定のイノベーション・プロジェクトについての評価といったようにいくつかの段階で行われる。出席者は主要メンバーを中心に、生産的で率直な会話ができる程度の範囲で決められる。
会議に誰が出席するかは、評価の範囲によっても異なる。P&Gの事業部のイノベーション評価の出席者は、CEO、最高技術責任者、最高財務責任者、最高サプライチェーン責任者で、その事業部の主要リーダーとイノベーション・チームの多機能メンバーが出席する。
チームの課題を一枚にまとめる
同社は評価方法の一つとしてポスターを使う。それぞれのチームが、イノベーションのアイデアと技術、該当する消費者調査データ、事業としての可能性、タイミングとおおまかなスケジュール、チームが直面している課題を1枚のポスターにシンプルにまとめるのだ。
なぜポスターなのか。会議の出席者には科学者が多いのだが、ポスターを使うことで、科学者は経営幹部が理解できる言葉で話さざるをえなくなるからだ。経営幹部が理解できれば、事業部も理解でき、最終的には消費者も理解できる。ポスターは焦点を絞ったり、単純化したりする助けにもなる。イノベーションから余分なものをそぎ落として、いくつかのアイデアに簡素化するのだ。
ポスターは会議室に置かれたスタンドに一枚ずつ貼り出され、出席者全員がその周りに集まってあれこれ話し合う。メンバーがデータを説明し、自分たちの考えを述べ、出席者が製品や主な技術要素に直接触れたり、動かしてみたりといった実地検証も伴うことが多い。
その後、リーダーがチームとの対話を開始し、出席者はその内容も踏まえて、それぞれのプランが十分か否かを評価し、どの分野で最大の価値を加えられるかを見きわめる。加えて、経営幹部チームは、会議室を歩き回ってすべてのポスターを眺めるだけで、具体的な一つ一つのプロジェクトを超えた関連性を見出せる。技術Aのなかに事業Bに応用できる可能性を見つけたり、特定の地域で成功しているプロセスで、本当はグローバルに実行すべきものを見つけたりすることができるのだ。
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