ビジネススクール流知的武装講座 [200]
CO2削減の切り札「バイオ燃料」の新本命
CO2排出量削減、新エネルギー源等の観点から
バイオ燃料への期待が高まっている。
普及へ向けて「慎重に」取り組むべきポイントとは。
次世代自動車より
「バイオ燃料」が
期待される理由
バイオエタノール等のバイオ燃料に対する関心と期待が、世界的に高まっている。バイオ燃料とは、植物等に由来する有機物のうちエネルギー源として利用できるものであって、原油・石油ガス・可燃性天然ガス・石炭ならびにそれらから製造される製品でないもののことである。
バイオ燃料が注目される事情としては、以下の三つの点をあげることができる。
第一は、原油価格が上昇するなかで、エネルギーセキュリティを確保する観点から、新しいエネルギー供給源として期待が高まっていることである。この傾向は、原油輸入国でなおかつ農業大国である場合に、とくに著しい。例えば、アメリカは、2005年の包括エネルギー法で原子力回帰とともにバイオ燃料重視を打ち出し、07年の新エネルギー法でも高いバイオ燃料の導入目標を設定した。
第二は、地球温暖化問題が深刻化するなかで、二酸化炭素(CO2)排出量を削減する一方策として期待が高まっていることである。この点では、京都議定書において、バイオ燃料について、カーボンニュートラルという考え方が導入されたことが重要である。これは、バイオ燃料は、生育過程においてCO2を吸収する植物を原料としているため、バイオ燃料使用過程において排出されるCO2量は、生育過程で吸収したCO2量と相殺されるという考え方である。
第三は、地方経済の疲弊が深まるなかで、いわゆる「地産地消」を体現するものとして期待が高まっていることである。地元の農産物から生産したバイオ燃料を地元で自動車用燃料として使用するという方式によって、農業振興と結びつける形で地域経済の活性化が実現されるとの考え方が、徐々に広がっている。
バイオ燃料への期待の高まりを受けて、日本政府は、05年の閣議決定で、京都議定書目標達成計画の一環として、10年度までに輸送用燃料部門において、原油換算50万キロリットルのバイオ燃料を導入することを決めた。これは、上記のカーボンニュートラルの考え方にもとづく措置であった。
日本政府は、CO2排出量削減の観点からだけでなく、エネルギーセキュリティ確保の観点からも、バイオ燃料導入に積極的な姿勢を示した。06年に策定した「新・国家エネルギー戦略」では、運輸部門における石油依存度を30年までに約80%程度に低減することを打ち出したが、その際、約20%を占める石油以外の運輸用燃料のうち約半分(つまり10%程度)はバイオ燃料で充当することを想定したと言われている。また、07年に発表した「次世代自動車・燃料イニシアティブ」では、次世代バッテリーや水素・燃料電池等による次世代自動車の開発などと並んで、バイオ燃料の導入の必要性を強調したが、開発途上で本格的な普及まで時間がかかる次世代自動車に比べて、バイオ燃料は、一定程度以内であれば現在でもすべての自動車に導入することができ、即効性が高いとみなされている。
エタノール増産が
なぜブラジルの
自然を破壊するか
このような状況を踏まえて、今年1月にとりまとめられた「総合資源エネルギー調査会石油分科会次世代燃料・石油政策に関する小委員会報告書」は、ガソリン(揮発油)へのエタノールないしETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)の混和、あるいは軽油へのBDF(バイオディーゼル燃料)の混和という形で、バイオ燃料の導入に対して、「しっかりかつ慎重に」取り組んでゆくことを確認した。これにともない、安全・安心の確保のため、エタノール等を揮発油等に混和する事業者を対象にして、登録制と品質確認義務制度を創設することになり、その線に沿って、今年5月に「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(品確法)の改正が、通常国会で成立した。
ただし、ここで見落とすことができないのは、次世代燃料・石油政策に関する小委員会での論議を通じて、バイオ燃料の導入が、現状のままでは、輸送用燃料に関する二酸化炭素排出量削減の「切り札」とはなりえないことも、明らかになった点である。上記の「小委員会報告書」は、「バイオ燃料は、燃料多様化や地球温暖化対策として将来性を期待できる手段の一つであるが、その持続的活用のためには、(1)二酸化炭素削減効果の向上、(2)供給安定性確保、(3)経済性確保、等の克服すべき課題がある」、と述べている。
つまり、バイオ燃料の本格的な普及にとっては、中長期的に見て、クリアしなければならない問題が少なくとも三つあることになる。
第一は、CO2排出量削減の効果そのものにかかわる問題である。バイオ燃料のカーボンニュートラル特性については、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から、疑問の声があがっている。LCAとは、ある製品が製造、使用、廃棄、再使用されるすべての段階を通じて、環境にどのような影響を与えるかを評価する方法である。バイオ燃料のなかには、LCAの観点から見ると、二酸化炭素排出量削減効果が大きくないものも含まれているのである。
別図は、バイオ燃料のCO2排出量の削減効果を原料別に見たものである。この図からわかるように、エタノール製造に用いる原料によって、CO2排出量の削減効果に大きな違いが生じる。穀物を原料とするエタノールは、穀物を育成する過程で熱やエネルギーを使用することから、CO2排出量の削減効果は相対的に小さい。一方、サトウキビを原料とするエタノールは、サトウキビの生産が粗放的であることなどから、高い削減効果を持つ。また、木材等のセルロースを原料とするエタノールも、生産過程で生じる残渣をボイラー用燃料として使用できることなどにより、相対的に大きな削減効果を発揮する。サトウキビ由来やセルロース由来のバイオ燃料製造は、穀物由来等のバイオ燃料製造に比べて、CO2排出量の削減に対する貢献度が高いと言うことができる。
第二は、供給安定性にかかわる問題である。日本の場合、ガソリンへ混和するエタノールを大量に確保するためには、どうしても輸入に頼らざるをえないが、世界を見渡しても、エタノールの輸出余力を持つ国はブラジルしか見当たらない。
06年における世界のエタノールの生産量は約5100万キロリットルであるが、その大半は、アメリカとブラジルで生産されている。このうちアメリカは、エタノールの輸入国であり、当面、おもな輸出国として想定できるのはブラジルのみなのである。
エタノールのブラジル依存は、原油の中東依存と同様に、エネルギー安全保障上のアキレス腱になりかねない。また、輸送用燃料のエタノールへのシフトが一要因となって国際的に食糧価格の上昇が生じていることも、食料自給率が40%にとどまる日本にとって、大きな脅威であることを忘れてはならない。
エタノールの供給安定性に関連して、大きな問題となりつつあるのは、ブラジルにおける自然破壊、つまり熱帯雨林の伐採である。ブラジル産エタノールの主原料であるサトウキビは、生育に適した気候が異なるため、直接的には、増産のための熱帯雨林の伐採をもたらすものではない。しかし、アメリカにおけるトウモロコシ由来エタノールの増産→トウモロコシ価格の上昇→アメリカにおける大豆からトウモロコシへの作付け転換→大豆価格の上昇→ブラジルにおける大豆の増産→大豆増産のためのブラジルにおける熱帯雨林の伐採、という間接的な経路をたどって、エタノールの増産はブラジルの自然破壊をもたらしているという。これが、真実であるとすれば、CO2排出量削減効果の面からも、供給安定性の面からも、ゆゆしき問題だと言わざるをえない。

輸送用燃料として
ガソリンより
割高なエタノール
第三は、経済性にかかわる問題である。今のところ、エタノールの輸入価格は、リットル当たりでみれば、ガソリンの輸入価格とあまり変わりがない。しかし、エタノールはカロリーが低いため、発熱量当たり価格で見ると、エタノールはガソリンの約1.5倍となる。輸送用燃料として、エタノールは割高なのである。
また、エタノールの価格は、気候変動等の影響を受けやすく、ボラティリティ(価格変動率)が高い点も見落とすことができない。バイオ燃料の本格的な導入のためには、経済性の問題をクリアする必要があるのである。
これらの三つの問題をクリアしない限り、日本におけるバイオ燃料の本格的な普及は進展しない。次世代燃料・石油政策に関する小委員会の「報告書」が、バイオ燃料の導入推進に「しっかり」だけでなく「慎重に」取り組むとしたのは、このためである。
バイオ燃料の普及拡大のうえで鍵を握るのは、セルロース由来エタノールについての技術革新を進めることである。なぜなら、
(1)セルロース由来エタノールは、CO2排出量削減効果が大きい(別図参照)、
(2)セルロース源となる木材等は、日本国内にも比較的豊富に存在する、
(3)セルロース由来エタノールは、他の原料由来のエタノールとは異なり、食糧価格の上昇をもたらさない、
などの事情が存在するからである。技術革新を通じて、セルロースからエタノールを経済的に生産する方法を確立することは、わが国におけるバイオ燃料の本格的普及にとって、きわめて重要な意味を持っているのである。
おすすめコンテンツ
-
- プレジデント
- 日本は経済大国でいられるか、「世界の田舎」に転落か
- 特別インタビュー○経済展望2008
-
- プレジデント
- 近藤正晃ジェームスさん(特定非営利活動法人 日本医療政策機構)
- 「日本が名実ともに貢献できるグローバルヘルス分野に注目を」










