職場の心理学 [196]
9割の会社は間違っている「ウェブ担当の育て方」
ウェブサイトのリニューアルで問い合わせ数が前年比4倍に伸びた企業がある。
一方で、ウェブ担当者をうまく活かせていない企業も多い。
どうすれば彼らを育て、活かすことができるのだろうか。
ウェブのリニューアルで
問い合わせが
前年比400%に
2007年の国内広告費で、インターネット広告がテレビ、新聞につぐ規模に浮上した(電通調べ)。四大マスメディアへの出稿が下降しつつあるなか、インターネット広告の出稿量は増加している。これはインターネットがコミュニケーションツールとして認知が進んでいるひとつの証しである。
マスメディアと呼ばれるテレビ、新聞、雑誌、ラジオは、多くの消費者に向けて同一内容を一斉に届ける。それに対して、ウェブサイトはターゲティングメディアといわれ、性別や世代を特定して個別に情報を発信したり、双方向のコミュニケーション機能を用いて顧客の意向を尋ねることが可能だ。
顧客への情報の提供手段は、その狙いに合わせて適宜使い分ける必要があるが、顧客満足の向上を狙うなら、顧客とのより密なコミュニケーション展開が可能なウェブサイトが、最も効果的なツールといえる。
ウェブサイトには、広くサービスや商品を売るというより、一人ひとりの顧客とのつき合いを深めていく役割がある。その最初の一歩は、積極的に情報を提供していくこと。自社のことをよりよく知ってもらい、ブランド力をアップさせることができる。
ウェブサイトは戦略実践ツールとしての活用も可能だ。キャンペーンの告知、会員サイト設置などでファンづくりや顧客の固定化につなげたり、顧客の意向を尋ねて顧客ニーズを探ることもできる。最近では、Eコマースでの販売強化も進んできている。
これらの手法を複合的に用いることで、顧客との接点を拡大させている2社の例をあげる。
日本公文教育研究会は、事業内容をさらに広く浸透させるためにウェブサイトをリニューアルした。その際に、メーンターゲットである保護者層の方と、きめ細かなコミュニケーションを図ろうと新たな接点としてモバイルサイトも同時にリニューアルした。PCサイトのトップページにQRコードを掲載し、このQRコードをモバイルに記憶させることで、モバイルサイトからも簡単に教室検索や問い合わせができるようにした。
ウェブサイトリニューアル後のPCサイトの問い合わせは、前年比400%と飛躍的な伸びを示した。それだけでなく、資料請求件数も前年比130%、教室検索数は前年比150%と増加。狙いどおりの成果が表れた。
「AMO'S STYLE(アモスタイル)」は、女性インナーウエアメーカー、トリンプ・インターナショナル・ジャパンが展開しているSPA(衣料品の製造小売業)型の下着ショップブランドだ。
「AMO'S STYLE」では、現在、携帯電話を利用して「『究極のランジェリー』下着開発プロジェクト」に取り組んでいる。
このプロジェクトは「AMO'S STYLE」のターゲットである十代後半から20代の女性が幅広い用途で携帯電話を利用していることに着目して企画された。顧客同士および、顧客とトリンプとのコミュニケーションの場である、モバイルSNS内に開設された「特設コミュニティ」で「あなたが欲しい下着ってどんな下着?」と投げかけ、戻ってきた声を商品開発に反映させている。
「特設コミュニティ」でのやり取りを見ていると、顧客が自分たちの意見が商品開発に反映されていく過程を楽しんでいる様子が伝わってくる。こういったプロセスは、確実に固定客づくりにもつながっているはずだ。今年11月にはEコマースをからませ、「究極のランジェリー」を「AMO'S STYLE」のウェブサイトで限定販売することになっている。これは、携帯電話を利用したユーザー参加型商品開発であり、新しいマーケティングのひとつの手法として、位置づけられる。
2社の例が示すようにウェブサイトは、顧客満足を推進させる大きな可能性を包含している。
では、ウェブサイトを使って顧客満足を最大限向上させるために、企業のウェブ担当者に求められることは何か。
特に重要なのは、(1)社内業務の一連の流れと、各部署の実情を把握できる現場感覚、(2)ウェブサイトを利用して何をしたいのかを明確にするビジョン構築力、(3)現場の状況を勘案し、どうすればウェブサイト上に効果的に情報提示をできるかを考えるマーケティング力の3点だ。これに加えてウェブに関する知識や技術も必要となる。
2000人以上の社員規模でも
ウェブ担当者は3人
企業のすべての業務が、大なり小なり顧客満足に結びついている。改めて言うまでもないが、顧客を満足させなければ、売り上げは確保できない。営業部に商品企画部やマーケティング部、カスタマーサービス部もそれぞれの役割の中で顧客ニーズに応える。製造現場などは直接顧客と接することはないが、品質向上に取り組むことで、顧客満足向上の一翼を担っている。
このように各部が独自に手掛ける活動と顧客との間を、ウェブサイトという企業の窓口で結ぶのが、ウェブ担当者だ。その際、各部の業務がわかっていないと必要な情報をわかりやすく発信することができない。部門をまたいだ現場感覚が必要なのである。
優秀なCIO(情報戦略統括役員)はIT知識をもっているというよりも、むしろ社内の現状を熟知したうえで経営戦略につながるIT戦略を立てられ、戦略を実行するためには、どの部署に何を依頼すればうまくいくかを理解している。これがビジョン構築力である。
ウェブサイトの利用者は、顧客だけではない。IR情報を求める株主、就職希望者なども含まれる。ウェブサイト利用者それぞれの目的に応じて、必要な情報を十分に提供しようとすると、そのコンテンツは企業や商品の紹介、新商品のプロモーション告知のみならず、IRや求人情報など非常に多彩になってくる。いかに効果的な情報の出し方を考えられるかが重要になる。
技術面では、ウェブサイトは何千、何万ものページから成り立ち、構造が複雑だ。使い勝手のよさが求められるので、掲載すべき情報量が多くなればなるほど、情報を整理する高い能力が必要になる。建築業界でいうと、超高層ビルを建てるようなもの。二階建てを建てるのとは違った知識が必要になる。人の動線をどうつくるか、非常口をどこにおくか、エレベーターをどこにつくるか……。さまざまな要素がからむなかで、論理的に情報を整理できる能力が必要なのである。
しかも、昨今は、PCだけでなく、モバイルサイトを展開する企業も増えている。Eコマースを付随させたなら、決済・配送のためのシステム構築なども必要だ。
ウェブ担当者はこのように多岐にわたる業務に従事し、顧客と企業の距離を縮め、顧客満足を強化する非常に重要な任務を背負っている。
が、現実には、そのことが理解されず、厳しい状況におかれていることが少なくない。ウェブ担当者と話すと、膨大な業務量に頭を抱えていることに気づく。社員数2000~3000人規模の企業でもウェブ担当者は3人程度ということもある。
しかも、単独での決裁権限や予算をもたされることはなく、広報部や、宣伝部、システム部の中の一グループとして配置されていることが多い。決裁権限がなく、ウェブサイトの運営の方針が不明確であることは、間違いなく仕事が滞るひとつの要因となる。
企業は1990年代から2000年代の初めにかけて、一斉にウェブサイトを立ち上げた。当時は、ウェブサイトへのアクセス権限があいまいで、営業部、営業企画部、マーケティング部などがそれぞれ自由に手を入れていた。そして、そうであっても大きな問題も生じなかったのだ。
しかし、現在ウェブサイトを使って顧客満足を上げるためには、企業がもつ情報を一元化し、発信することが不可欠になる。
さもないとウェブサイトという顧客にとってもっとも身近なツールから出るちぐはぐな情報によって顧客は混乱してしまうことになる。
この問題の解決法の一つは、ウェブ担当者を核とした組織横断型チームを結成することである。ウェブ担当者がイニシアチブをとって、方針を決定し、実行していく。チームは固定化されたものではなく案件ごとに関係する全部署が代表を送り込む。
仮に企業の経営方針に関する内容なら各部門が関係してくるが、そのなかでも特に関係が深い経営企画部、営業企画部、営業部、マーケティング部、広報部が出席して、互いの意見を出し合って、ウェブサイトに反映させていく。
商品関連コンテンツでキャンペーンを展開するのであれば、チームのメンバーは、商品開発部、営業企画部、営業部、宣伝部、マーケティング部、広報部、カスタマーサポート部などになるだろう。
その際のポイントはウェブ担当者に、ウェブサイト運営上のガイドライン構築を含めてウェブサイト統括の全権限を委譲し、ここで情報の一元化を図るシステムをつくることである。
こういった組織横断型のチームを束ねていくウェブ担当者は高度なマネジメント能力を必要とされる。有能な人材をこのポジションに置くことが必要となる。いまはまだ、ウェブ担当者はどちらかといえば縁の下の力持ちであることが多いが、今後は、組織内で重要なキーを握るポジションになっていくべきである。
最初は小さなリニューアルから
始めてみる

顧客との接点強化のため、組織再編やチーム編成といった抜本的な改革ができる企業はウェブ担当者の活用がうまくできているし、彼らの働く環境も快適である。
なかには、人事評価の制度を改革した企業もある。顧客満足向上のための活動を評価の項目に加えるのだ。顧客と直接接することのない部署でも、顧客に関する情報を関係部署にフィードバックするなどで評価が上がる。そうすれば、顧客との窓口であるウェブサイト担当者には情報が集まり、ウェブサイトの充実につながってくる。
今はもうないと願いたいが、経営者が自社サイトに触ったというだけで、ウェブ担当者が喜んだという笑えない話がある。残念ながら、経営者には、ウェブサイトが顧客満足を上げる大きな可能性を秘めた武器であるという認識が低い。ウェブサイトの重要性や利便性は、むしろ、現場で多くの顧客と接する社員のほうが熟知している。
それではウェブサイトの強化の必要性を経営者に理解させるにはどうすればよいか。幸い、ターゲットメディアであるウェブサイトはターゲットに働きかけた結果、どんな成果が得られたかを高い精度で検証することができる。端的なのは、リニューアル前後の訪問者数や滞在時間の増減などだが、これ以外にも様々なデータで変化を調べることができ、成果を測定できる。
最初はスモールステップから始めてみることとし、ウェブサイトの小規模なリニューアルなどがよいだろう。
たとえば、ウェブサイトの気になる部分を刷新したら、その後、顧客にアンケートをとり、その結果をアクセス件数増減とともに提示して、リニューアル効果を訴える。こうして徐々にウェブサイトを充実させていく。実績が伴えば、経営者も理解を示しやすくなるだろう。
ウェブサイトは顧客に近いツールだけに、戦略が正しければ、それに見合った成果が必ず出る。逆もしかりで、利用者が企業のウェブサイトに期待を抱いてアクセスしているのにもかかわらず、戦略がないままに漫然と情報を羅列していると、ブランドイメージを損ねかねない。
顧客満足を上げるためにウェブサイト担当者を活かすことができるかどうかは経営者の考え方次第だ。ウェブサイトの可能性を知り、ウェブサイト担当者の活躍の場が広がっていくことを期待したい。
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