ハーバード式 仕事の道具箱 [146]
優秀な人が見限る上司の態度
転職が当たり前となった現代、部下のキャリアパスに貢献しない
上司の下からは、優秀な人ほどさっさと去っていくものだ。
それを未然に防ぎ、エースをつなぎとめる3つの方法を伝授しよう。
社員の市場価値を高めない会社は
離職率が高まる
最も高い業績をあげていた部下の一人が辞職した。転職先に自らのキャリアを伸ばす機会があるからだという。この会社の社員は過去3年間研修やキャリア開発の機会を十分与えられておらず、ほかの部下にも引き抜きの手が迫る。これはあなたの会社のことではないだろうか?
終身雇用が過去のものとなった今、社員は自らの市場価値を高めるスキルを身につけたいと願っている。人材市場が逼迫するなか、能力開発の機会を提供できない企業は未来のリーダーを失うリスクが高い。
優秀な社員を引き留めるには、上司が彼らの能力開発に積極的に取り組む必要がある。その方法の一つとして、『Head, Heart & Guts: How the World's Best Companies Develop Complete Leaders』 (2006)の著者であるデイビッド・L・ドットリッチとピーター・C・カイロ、スティーブン・H・ラインスミスが編み出した、3方向からのリーダー育成法を紹介しよう。
このモデルを実践している上司は、部下、会社、そして自分自身にも大きな利益をもたらしている。離職率が低下し、業績も向上しているのだ。このモデルでは、次の三つの方向から部下の能力開発に取り組む。
(1)「頭を使う」
戦略的な能力開発を
リーダー育成に対する投資は、会社の優先課題とかみ合っていなければならない。課題を見極めて、部下に必要なスキルを身につけさせるのだ。
ある通信企業は、個別製品の販売からカスタマー・ソリューションに重点を移しつつあった。同社の販売ディレクターは、新戦略に対応するには、複数のグループから製品を集めてこられる営業マンが必要と判断。彼は、「一匹狼」タイプの営業マンで構成された自分のチームに、協働する能力を身につけさせる必要があると考えた。
彼は、市場シェアと利幅を拡大するために、なぜソリューションが重要なのかをチームに説明した。さらに、主要顧客にソリューションを提供するためには、他のメンバーやさまざまな製品グループとどう協力すべきかを理解させた。1年後には、彼のチームは複数の製品ソリューションの販売件数を大幅に増やしていた。
多くの上司は、ずば抜けた社員以外の部下も切り捨てることなく、能力開発を行おうとする。しかし、「人材管理を投資と考えるなら、ほとんどの時間と資源を優秀な部下に投資してしかるべきだ」と、シスコ・システムズで、グローバルのリーダーシップ育成を担当している上級マネジャー、リサ・カバラロは言う。「ほとんどの場合、最優秀社員こそが、最も高いリターンを生み出せるのだ」。
組織にとって、必ずしもすべての職務が重要というわけではないのだから、最も重要な職務を担う潜在能力のある人々に重点を置くべきなのだ。ただ、今、潜在能力が見えていなくとも、将来的に成長を見せる者がいるかもしれないことは念頭においておこう。
あるグローバルな化学薬品会社は、短期間でゼネラル・マネジャー(GM)を育てる能力で、業界で有名になった。
同社の欧州・中東事業部社長が、会社の成長にGMの果たす役割が不可欠なのに人材が育っていないことに気づき、改革に取り組んだのがきっかけだった。彼は潜在能力を持つ人材を特定し、直属の部下一人ひとりに、これらのGM候補者のために能力開発計画を立てて指導し、四半期ごとに進捗状況の報告を命じた。1年足らずで、社内に「いつでもいける」GM候補者の数が6割も増加していた。
(2)「心を使う」
部下と信頼を築こう
社員が会社を去る大きな理由は、上司が自らのキャリア開発に本気で取り組んでくれていると感じられないからだ。
急成長を遂げているある金融会社のCFOが、社員の能力開発を手助けすることが社員の辞職防止にどれほど効果があるか実感した事例がある。
同社の会計監査官が、クライアントのGMから信頼を勝ち取る手助けをしたときだ。GMのほとんどは我が強く、仲間ではないと感じた人間には、感情を踏みにじるような扱いをする傾向があった。
監査官との定期的なミーティングの際に、CFOは、「GMたちはあなたをパートナーとして扱っていないと思う」と、共感する発言をした。その言葉で監査官はCFOを信頼し、自分はのけ者にされていると感じると打ち明けた。さらに自分の目標は、GMたちに真のパートナーと認められ、財務に関するアドバイスを求められるようになることだと語ったのだ。
そこで、CFOは彼女が信用を得るためのプラン作成の手助けをし、定期的に彼女と会って進捗状況を確認した。その後、最も扱いにくいGMが彼女の意見を求めてくるようになった。後に、彼女はCFOに、実は辞職しようと思っていたが、CFOが積極的に手助けする姿勢を見せてくれたことで、頑張ろうという気になったと打ち明けたのだ。
社員はリーダーとの関わりを強く求めている。そのために上司がすべきことの一つは、毎週、社員がうまくやったことや改善の余地がある点について簡単に言葉を交わす時間をつくることだ。ざっくばらんな会話を続ければ、信頼関係が生まれ、社員は自分の強みや弱み、情熱や目標について率直に語ってくれるようになる。そうなれば、上司と部下が協力して、プランを立てることができる。
社員と能力開発について話し合う定期的な機会を設けることも必要だ。「上司はいつでも話を聴いてくれ、自分の能力開発を真剣に考えてくれていると信じていれば、部下がキャリアについての考えや研修のニーズを打ち明ける可能性が高くなる」とカバラロは言う。
(3)「腹を据える」
リスクをとる勇気を
最も優秀な部下を、人目を引くポジションやプロジェクトにストレッチアサインして、彼らが注目を浴びたり経験を積んだりする手助けをすることも大切だ。時期尚早かもしれないポジションにつけるというリスクをとらねばならないこともある。
ある大手テクノロジー企業の修理サービス担当副社長は、直属の部下が別の部署について不満を言うのを聞いて、その部下をプロセスと協働の問題に取り組む部署横断チームのリーダーに任命することにした。高業績をあげていたものの、チームプレーヤーとしては芳しい実績を残していなかった彼にとってはまさにストレッチアサインメントだった。幸いプロジェクトは大成功し、この経験によって彼は部署横断的なパートナーシップを築く能力を高め、キャリアに大いに役立っている。
万が一失敗した場合でも、部下を非難してはいけない。上司のなすべきことは、あくまで部下に手を差し伸べ、失敗の分析の手助けをして、失敗をも能力開発の機会に変えることだ。
上司自身のパフォーマンスにも注意しなくてはいけない。前述の副社長は、部下をリーダーに任命しようとしていたときには、彼女自身も全社的なプロジェクトのリーダーに名乗りを上げたばかりだった。上司がリスクをとっていたからこそ、部下も比較的楽にリスクをとれたのだ。
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