ハーバード式仕事の道具箱 [141]
組織をまとめ、社員をやる気にする重要なファクター
なぜ優秀な会社は企業文化を大切にするのか
多くの優良企業で、会社全体に強く浸透している独自の文化。
戦略と同等か、場合によってはそれ以上に大切な要素を、
組織に根づかせ、業績につながるようにする手法とは。
文化なき企業は、
並の業績しかあげられない!
組織を一つにまとめ、社員が正しい方向にいく動機を与えるものは何だろう。多くの優良企業は、それは「企業文化」であると答える。ここでいう「文化」とは、成功につながる環境をつくる、価値観や考え方や行動方式のことだ。
市場で勝ち抜くための企業文化の重要性は、ベイン・アンド・カンパニーによる「経営管理の手法と傾向に関する世界調査」の最新版で浮き彫りにされた。調査対象となったグローバル企業の上級幹部1200人のうち91%が「企業文化は戦略と同じくらい重要である」という意見に賛成だと答えたのである。
ベイン社による別の調査によると、企業幹部の81%が、「文化なき企業は並の業績しかあげられない」という意見に同意した。しかし、勝ち抜くための企業文化とは、具体的にどんなことをいうのだろうか。
まず一つは、既存の価値観や伝統に基づく企業独自の性質や精神である。例えば、トヨタの品質やコスト効率に対する姿勢と、同じようにそれらを重視するエンタープライズ・レンタカー。しかし具体的にはまったく異なる種類の姿勢である。だが、どちらの会社でもすべての社員が自社の価値観や優先課題を見分けられるような、強い環境づくりがすでにできているはずだ。
また、そういった体質や精神を、顧客目線のアクションや収益におとしていく規範や動きも大切な文化である。そうした企業の社員は、社内政治より、顧客や競合他社を視野に入れるという健全な姿勢を保つ。会社全体の業績に対して当事者意識を持つ社員が育つのだ。
また、官僚的な議論より、実際に動くことを重視する社員が増える。例えば9.11の直後、エンタープライズ・レンタカーの社員たちは、当時の社内ルールに反する行動を取った。ニューヨークから自宅に戻る、あるいは単にそこから離れるために片道だけレンタカーを借りたいという顧客に対し、先を争うように応じようとしたのである。
企業に正しい文化を浸透させることは容易ではない。社員の考え方や行動習慣を根本から変える必要があるからだ。では、強い文化を築き、維持している企業は、どんな方法でそれを可能にしているのか。
既存の伝統を
把握することから
まず、会社独特の伝統や、現在の文化の強みと弱みを理解することが大きな一歩となる。さまざまな部門の社員と一対一の議論をしてみる、もしくは、組織全体を調査しよう。そこにあるビジョンや価値観、創業者の知見などの「文化的アイコン」が、文化の一部をはっきり示していることが多い。
オーストラリアに本店を持つセント・ジョージ銀行の元頭取、ゲイル・ケリーは、2002年の着任時に、同社には顧客を大切にする強い伝統があることに気づいた。が、同時に、管理職が責任を負う体制ができておらず、部門間の協力体制も弱く、決定が遅いという弱点も見えてきた。支店の行員たちは、長年の顧客に新商品を勧めることはもちろん、新規顧客の紹介を頼むことさえ気まずいと感じていたのだ。
この銀行が財務実績を高めるためには、全社員が新規取引を増やし、多くの顧客獲得に責任を負う文化が必要だった。そこで、ケリーはまず、社内に新しい目標を設定した。
「当行は、お客様の金銭的な幸福度を高める製品やサービスを提供することにより、お客様の生活に価値を加える」というものである。
チームで目標を
一致させよう
経営チームの目標を一致させることは、最も重要なステップの一つである。この過程はまず、管理職の率直な評価から始まる。新しい文化をどれくらい体現しているか、新しい習慣を採用できる可能性はどれくらいあるかといった点を経営側が評価するのだ。そのうち、管理職の一部を入れ替えなくてはならないと気づくこともあるだろう。さらに、各管理職に正しい価値観や行動の手本になる言動をとらせるべく、評価のフィードバックを行うのだ。
前述のケリーは、経営チームのメンバーが自分の部署に閉じこもり、互いに協力して収益を生み出すようなインセンティブはほとんどないことに気づいた。そこで、社内のリーダーが互いに協力するという目標を設定し、その文化を壊す幹部を組織から追い出した。
新しいチームは、自分たちがこの銀行に根づかせたい文化を全員で定義した。「お客様の金銭的なニーズ全般を理解し、それを満たすことに全力を傾け、互いに協力し、率先して動く組織」。この目標は、管理職によって組織に叩き込まれた。
変革の評価を
査定にとりこめ
文化は一つの手段であって、目的ではない。事業の戦略課題という目的をサポートできる文化を築くことが大切なのだ。まず事業目標を設定し、それを管理職に示して達成に対する責任を負わせる。そしてその成果を丁寧に評価するのだ。
セント・ジョージ銀行では、サービスの追跡調査をはじめ、あらゆるレベルでの変革推進活動を行った。各行員の査定でも、これらの事項による評価が少なくとも15%を占めるようにしたのだ。
さらに、組織構造、決定権、人材管理制度、評価基準、インセンティブなどの制度によっても文化は形づくられる。制度が新しい文化に一致していなければ何も変わらない。たとえば、スピード重視の文化を理想とするなら、いちいち情報をフィルターにかけるような管理職を減らさなくてはならない。職務責任を明確にすることが重要なのだ。
変革には長い時間がかかることがある。組織が正しい道を歩むようにするためには、顧客の声に常に耳を傾ける必要がある。ケリーは、毎週十数社の顧客を訪問し、昼食をともにすること、各支店を訪問することを習慣にした。
幹部たちもそれにならった。年に2回、トップクラスの管理職100人が顧客サービスセンターに出向いて、サービス担当者のクレーム対処の電話に耳を傾けるのだ。その結果を分析し、よりよいやり方を浸透させる努力をした。
変革の結果に対する適切なインセンティブも重要である。たとえばケリーは顧客重視の行動に報いるため、「スター賞」と呼ばれる同僚の評価に基づく社員の表彰制度を採用した。
これらのプロセスはどれも、すぐに変革につながるわけではない。が、セント・ジョージ銀行は明らかに新しい方向に向かっていた。4年連続で収益の二桁成長を達成したのである。この実績は、戦略のたまものであると同時に、文化によるものでもある。戦略の実行を可能にしたのは新しい文化だからだ。
最初の調査では、経営幹部の9割が文化を戦略と同じくらい重要としていたが、メルクのCEO、リチャード・クラークのように、もう一歩先をいっている経営者もいる。「実は、文化は戦略を食ってしまう」と、彼は『ビジネスウィーク』誌に語っている。「優れた戦略があっても、それをうまく実行するための文化や制度がなければ、既存の悪しき文化が、戦略を頓挫させてしまうだろう」。










