人に教えたくない店 [384]

輸入トリュフやポルチーニよりも
旬のきのこのほうが絶対安くて美味しい

榊原英資さん

 
 

榊原英資
Eisuke Sakakibara
1941年、東京生まれ。鎌倉で育つ。東京大学経済学部卒。同大学院修士課程を経て大蔵省へ。その後ミシガン大学で経済学博士号を取得、国際金融局長に就任した。猛烈なディべート能力で知られ、97~99年には財務官を務め、「ミスター円」と称される。現在は早稲田大学インド経済研究所所長。
『進歩主義からの訣別』(読売新聞社)、『食がわかれば世界経済がわかる』(文藝春秋)など著書多数。

構成・文/須藤靖貴
撮影/古市和義
地図作成/いずみ工房

 
 

 美味いものは美味い。だからあえて今、「吉兆」にしました(笑)。
 日本料理は、案外パターン化されていることも多いでしょう。ここはメニューに工夫がある。いろいろな形で和漢洋のクロスオーバーを楽しませてくれる。「ふかひれの姿煮ごはん」は日中の融合です。こういう傑作定番もあるし、季節ごとに新作も出てくるし。目新しいだけでなく、クロスオーバーがしっかりと調和していてとても美味いんです。
 10年ほど前、G7の代理会合を東京でやったとき、アメリカのローレンス・サマーズをこの店でもてなしました。「ふかひれの姿煮ごはん」に感激していました。日本経済にとって重大な局面だったので、彼の柔らかい表情は印象に残っています。
 若い頃は海外へ行くことが多かったのですが、激務で観光する暇などなかった。楽しみは食事だけ。食いしん坊なので、他国の料理にも大いに興味があったわけだけど、食は文化ですから、その国を理解するのに有益なんですね。素材や調理法など、どこにこだわっているのか。豪華なメニューでも質素な料理でも、その国独特の傾向があるものです。すると彼らの考え方の根本が見えてくる。
 ではわが日本は? と顧みれば、これは最高の文化と胸を張れる。素材の扱いが繊細で、作法も優雅です。フレンチなどに畏敬を感じる人も多いんだろうけれど、ルイ14世なんて素手で食事をしてた(笑)。文化レベルの差は歴然でしょう。
 そして、なんといっても四季折々の季節感が素晴らしい。これほどまでに季節感を感じさせる料理は、世界にはありません。その美点を世界中に発信しなければもったいない。
 ただし、文化を熟成させることのできた半面、島国の日本には他国との接触が少なく、多様性に欠けるところがあります。「刺し身は山葵と醤油で」という文化を押しつけがちなんですね。それでは不十分で、相手の文脈の中に入って伝える工夫が必要です。吉兆では白身の刺し身をバルサミコ酢で食べさせる。ワインにも合うから、西洋人にも刺し身の美味さをスムーズに受け入れてもらえる。これがクロスオーバーの優れたところではないでしょうか。
「コート・ドール」も素晴らしい。シェフの斉須さんが立派な方で、伝統的なフレンチに季節感を盛り込み、さまざまな工夫を加えている。厨房で常にチャレンジしている感じが料理から伝わってきます。
 食にこだわる、という姿勢は、人間としてとても大事なことです。変なグルメではなく、季節感を大事にするこだわりです。トリュフやポルチーニを輸入するくらいだったら、旬のきのこを食べるほうが絶対に安くて美味しい。そういう感覚が日本中に広まってほしいですね。

懐石料理 吉兆 ホテル西洋店 懐石料理
吉兆 ホテル西洋店

和食最高峰を
都心で気楽に味わえる

●ホテル西洋銀座地下の「吉兆」はすべて椅子席。吉兆の懐石料理を気軽に味わうことができる。「特選ミニ懐石」1万2600円、「おまかせ料理 松」1万5750円、「やさい懐石」8400円(昼のみ)。夜は2万6250円から。サービス料10%。
●東京都中央区銀座1-11-2 ホテル西洋銀座B1
TEL.03-3535-1177
営業時間/昼食11:00~14:30、夕食17:00~22:00 無休 個室以外のホールのテーブル席は禁煙。


  • 傑作「ふかひれの姿煮ごはん(コース外)」。もち米のお焦げにすっぽんのスープで煮たふかひれのアンがかかる。食材と見た目は中華だが、テイストは「和」の上品さが横溢。四季を通じて食べられる。
  • 「季節のお造り」。春は貝の美味しい季節。器に「貝あわせ」をあしらう。左が鮪、伊勢海老、右が細魚と鯛。白身はバルサミコソース(バルサミコ酢に土佐醤油とオリーブオイルを合わせる)で食べても美味しい。
  • 季節感あふれる「ひな八寸」。蒸し鮑、白魚など、旬の素材を珍味に。ワインでもビールでも、もちろん日本酒でも、さまざまなお酒にマッチする工夫。彩りがまた素晴らしい。
  • 「はまぐりの潮仕立て」は滋味が体中に広がる。出し汁に使うはまぐりと椀のはまぐりは別々という工夫。丁寧な隠し包丁の入ったはまぐりの軟らかさといったら。(以上、2万6250円~のコース)

フランス料理
コート・ドール


料理人の強い思いを
お皿を通して味わう

●オーナーシェフ・斉須政雄さんが12年のフランス修業の後にたどりついたフレンチの名店。92年から現職に。バブル経済下でも決して手を広げず、メニューを頑なに守ってきた。料理への思いを綴った著書も多数ある。予算は1万5000円~。
●東京都港区三田5-2-18 三田 ハウス1F
TEL.03-3455-5145
営業時間/ランチ12:00~14:00、ディナー18:00~20:30 月曜、第2火曜休


コート・ドール
  • 「渡り青首鴨のローストミラノ・カブ添え」(7350円)。鴨の豊潤さももちろん素晴らしいが、鴨の脂で炒めて煮たカブの深みのある美味しさ! 思わず頬が弛む。
  • 「野菜の蒸し煮・コリアンダー風味」(3780円)。生のようでいて丁寧な仕事がされているサラダ。野菜をレモン汁、オリーブオイル、コリアンダーなどで蒸し煮にする。絶妙の火加減で蒸しては休ませ、野菜の甘味、旨味を十分に引き出す。それぞれの野菜の美味しさのピークが味わえる。爽やかなドレッシングでいただく。
  • 絶品の「ガンギエイのクールブイヨン煮キャベツ添え・シェリー酢バター」(4725円)。バターの深いコクが効いていながら、シェリー酢の酸味が強調されたソース。こってりと重そうに見えて、ふわりとした白身とキャベツの食感で爽やかに食べられる。これぞ食感のクロスオーバーだ。
 
 

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