職場の心理学 [189]
半年で受注8倍! 営業マネジャー代行サービス
顧客離れで存亡の危機に立たされていた企業が、
たった半年でなぜ8倍もの営業成績を残せるようになったのか。
秘密は外部から期間限定でやってきた一人の敏腕営業マネジャーだった。
年末になると確実に
諦めムードが漂うんです
顧客離れに苦しむ一つの民間シンクタンク(以下A社)があった。社員400人規模の中堅企業である同社は、セミナーやコンサルティングを通じた企業の経営支援を主な事業としている。登録制で運営され、顧客からの月額フィーによって事業が成り立っている。最盛期は、約1万社以上の顧客数を誇っていたが、10年ほど前から年間数百社ずつ登録社数が減少。新規顧客獲得が追いつかず顧客が減る一方で、会社存亡の危機に陥っていた。
オフィスに入ると、壁には横断幕が掲げてある。「新規顧客獲得数、年間2000件」とある。
「この目標はある種のお飾りみたいになっています。ここ数年は一度も達成したことがないのです。年末になると確実に諦めムードが漂うんですよ」
こう語るのは経営企画室で営業推進を担当している木下氏(仮名)だ。
「弊社は創立が古く歴史ある会社で、もともと一定数の顧客がいたので、それに甘んじていた部分があったと思います。新規の顧客を増やすことをあまり真剣に考えてこなかったのです」
このような状況に危機感を感じていた木下氏をはじめ経営陣は、一度は自社で解決しようと試みる。
「数年前に新規顧客獲得を専門とする営業チームを設けました。企業をリタイアされた営業経験豊富な50~60代の方に業務委託したのです。しかしなかなか結果が出ず、それどころか皆さんすぐに辞めてしまいました」
木下氏は営業マネジャーをおかず、業務を個々の営業マンの裁量に任せていたことが敗因だと言う。
「個人タクシー5台で営業しているようなもので、個々人が自分のスタイルでやっていました。お客さんを取ってくる人もいれば、そうじゃない人もいて、ばらつきが大きかったんです」
事態を打開するべくコンサルティング会社にも相談した。
「でも結局うまくいきませんでした。いくら人や新しいシステムを導入しても、個々の営業マンのスキルは上がらないし、結果も出てこない。一体何がダメなのかわかりませんでした」
しかし、A社はその半年後、それまで月間平均14件だった受注を同じ人数で110件に増やし、約8倍の営業成果を挙げることになる。営業マンの行動量も5.9倍に増加した。その秘密は、外部から敏腕営業マネジャーを一定期間招く「営業マネジメント代行サービス」である。
これは営業専門のコンサルティング会社、セレブリックス・ホールディングスが提供するもので、企業の営業部が抱える問題点の抽出と解決策の提示のみならず、現場に敏腕マネジャーを送り込み、営業ノウハウを移築、成果が出るまで改革するサービスである。
実際にA社へプロジェクトマネジャーとして派遣され、現場に入り込んだのが長瀬勝俊氏である。長瀬氏はプレーイングマネジャーとして自身も営業活動をしながら、営業マン任せで業績にばらつきのあったチームをまとめるため「組織的な営業力強化」に動いた。問題解決を図るために最初はあらゆる営業手法を試したと話す。
「最終的には、テレアポ営業、飛び込み営業というアウトバウンドと資料請求などの問い合わせがあった企業に対して営業活動を行うインバウンド営業の生産性を上げていくことにしました。以前からテレアポも飛び込み営業もしていたのですが、無作為に行っていたのを、正しい方法論・プロセスで営業をかけるように したのです」
一括りに営業といっても、その手法は様々だ。自社に合った最適なものを選ぶ必要がある。効果的な営業手法を組み、マーケティングに基づいてターゲットを絞ることは、営業マネジャーの役割であるが、A社ではそれができていなかった。
長瀬氏はA社において、採用も担当し、新入社員で構成される新たな営業チームを結成、一から育て上げるという荒技も成し遂げた。その営業チームのつくり方は科学的で緻密である。
「まず各プロセスごとの行動量と成果の相関関係を数値で定量的に分析したうえで、仕事の中身を定性的にチェックしていきました」
行動量の定量分析をするために、長瀬氏は電話営業でアポイントをとる「電話の日」と実際に訪問し面談で売り込む「訪問の日」に分けている。
「電話の日」は、昼休み以外の定時は1日中延々と電話をする。長瀬氏は、1時間単位で一人ひとりのコール数とコンタクト数(電話がつながった数)、アポイント獲得率をたたきだした。
例えば1時間の中でAさんが30件、Bさんが20件、Cさんが15件のコンタクト数があったとする。このような差が出るのは、話している長さや内容が違うからだと考えられる。そこで内容にどのような違いがあるのかを詳しく見ていき、それがアポイント数にどう結びついていくのかを分析した。
コンタクト数が多いAさんがBさんよりアポイント数が少ないのであれば、Aさんは、メリットを訴求できていないことになる。また、コンタクト数の少ないCさんが最も多くのアポイントをとっている場合には、効率よくアポイントに結びつけているといえる。
人が代わっても
数字が変わらない仕組みをつくる
![]() |
さらに決定権を持つポジションの人間に電話がつながっているのかも細かくチェックした。電話をたらい回しにされた結果、「社長は留守です」では、時間ばかりとられてしまうからだ。
「アポイントをとった人が代表者なのか部長なのか平社員なのか、立場は必ず確認しています。立場によっては上司への確認が必要となり、その後のやりとりが多くなる場合もありますし、たとえアポイントをとれても受注率が下がる可能性がありますから」
一定のターゲットエリアに絞ってアポイントをとり、営業ルートを地図上に引くことで、「訪問の日」に効率よく営業ができる仕組みもつくった。
「訪問の日は、朝からずっと外回りです。例えば火曜日は品川区、水曜日は港区など、1日、効率よく回れるように、営業マン自身が電話でアポイントをとる段階で、できるだけ地域を固めるようにしたのです」
インバウンド営業では地域がばらける傾向にあるため、A社ではインバウンド専門の営業マンと、アウトバウンド専門の営業マンとで業務分けをしている。インバウンドのスタッフには、あいた時間にタイムテーブルをつくるなど事務的な作業もさせた。タイムテーブルの組み方にも工夫がある。
「アポイントをとった企業と企業を訪問する間には当然、時間の隙間ができます。そこで合間に飛び込み営業ができるようにタイムテーブルを組むのです。例えば1時間あいていたら、その間10件は飛び込み営業をするよう指導しています」
一分の無駄もないとは、こういうことをいうのだろう。さらに長瀬氏は帰社した営業マンに、その日の成約数を踏まえ、有効面談率を高めるためのレビューを行っている。
「レビューでは、1日の行動量、訪問内容の報告を受けます。断られたところに対しては、どんな課題に対して、どんな提案をして、どう断られたのかをヒアリングします。そして、行動の阻害要因、失注要因を排除して、個人の営業力の標準化を図っていきました。また、このレビュー時のコミュニケーションを通じて、モチベーションマネジメントも行いました」
ほかにも、営業同行や、顧客が前にいると仮定したロールプレーイングで、営業マンのスキルチェックを行うなど様々な手法を用いている。
これと並行してインバウンド営業でも大きな成果を挙げた。経営企画室の木下氏は、その変化に驚きを隠せない。
「以前から月に数十件『サービスを利用したい』『資料を欲しい』という問い合わせがあったんです。それに対してパンフレットと申込書を送付していましたが、申込書を書いて送り返してくれる企業は2割程度でした。それが8~9割に上がったのです」
これは長瀬氏の提案で、問い合わせのあった企業に対して電話をしてアポイントをとり、訪問し説明するというアクションを加えたためである。木下氏は「当たり前のことをできていなかった」と反省の色を見せる。
だが、実はこういう企業は多いのだとセレブリックスの取締役、伊藤勝成本部長は語る。
「資料を置いてくるのが営業の仕事、商品を説明するのが営業の仕事と、単純に考えている企業がたくさんある。目標を達成するには、数量化した行動目標やアプローチを考えなければいけないということを理解していない」
おそらく優秀な営業マネジャーがいればこのようなことにはならないだろう。セレブリックスが企業の経営者を対象に営業組織の課題についてアンケート調査を行うと、マーケティング戦略や人材育成に関わることなど、そのほとんどは営業マネジャーが本来行うべき業務ばかりだったという。
「商品が売れない理由の4分の3は営業行動によるところが大きい。商品が悪いのではなく、例えば営業マンが商品の説明を一方的にするといったことが原因なのです」
だからこそ営業マンを教育・指導するマネジャーの役割が重要なのだ。
最後に木下氏は入り口に掲げてある新規顧客獲得の目標が書かれた横断幕を見つめて嬉しそうに言った。
「お飾りになっていたこの目標が、今期、数年ぶりに達成できそうなんです! 社員はみんな驚くでしょうね」
1年間という契約期間が終了し、長瀬氏は現在、このシンクタンクに常駐してはいない。しかし、一定の数字を得られる仕組みという大きな足跡を残していった。それによって営業組織全体の能力が向上するのであれば、伝授されたノウハウは、企業にとって一つの財産となるに違いない。
![]() |












