職場の心理学 [188]
「本物の改革リーダー」6つの条件
改革をやり遂げるリーダーには、通常業務のリーダーとは違う資質が必要である。
「本物の改革リーダー」はどのようにして選定すればよいのだろうか。
また、資質が備わっているか否かを判断するメルクマールは何だろうか。
変革に必要な能力と 日常業務の能力とは全く異なる 企業の現場は、日々、経営課題を解決すべく奮闘しているのだが、そのプロセスでさまざまな壁が立ちはだかり、壁を乗り越えることができないままに終わっ てしまうのは残念である。解決完了の日まで関係者をコミットさせ、最後までやり抜くにはどんな条件がそろえばよいのだろうか。 経営課題の解決を成功させる第一のポイントは、課題解決のために責任を明確化した体制・組織を編成することである。特に、いままで経験したことのないス ピードで組織の方向性を変えなければならないような場合、既存の人事の枠組みによる体制で解決することはむずかしい。また、変革を最後までやり遂げられる リーダーの資質を見抜くことも、従来の評価の枠組みではむずかしい。そこで、課題解決という明確な目標を持った組織編成の仕方と、それを率いるリーダーの 資質の見極め方について、ケースをもとにしながら考えてみよう。 ある輸送機器関連の部品メーカーでは、「製品開発の業務効率を30%引き上げる」という目標を掲げ、それを達成するために開発と初期生産の各プロセスで 解決すべき課題を特定した後、課題解決のためのプロジェクトチームを既存の組織とは別に、最大3年の時限性を伴って置いた。 プロジェクトチームの編成は、個別課題を最終的に解決する結果責任を負っている「オーナー」(多くの場合、部門長、部長クラス)、オーナーに対して問題 やその原因の詳細を分析し、解決策の選択肢に関する提言を行う「問題解決提言チーム」、およびそのチームをリードする役割の「プロジェクトリーダー」、プ ロジェクトリーダーの下でデータ収集や個々の分析を担当する「メンバー」で構成される。 チームづくりでは、まず特定の人間をその課題を解決させる最終責任者(オーナー)と決める。オーナーの資質は重要だ。経営的視点を持ち合わせていること はもちろん、何を自分で決めて何を経営判断にかけるべきなのかを瞬時かつ正確に判断する力、他の組織や役員を巻き込む思考力や行動力が求められる。さら に、チームをより広い視点や思考面からリードする見識の深さや、前例のない検討を強いられるチームを鼓舞し続けられる人間的リーダーシップが必要になる。 オーナーとしてのこうしたすべての資質を備えるには長い年月をかけて計画的に育成しなければならないにもかかわらず、多くの企業ではそうした考えが一般 的ではない。特定の業務領域に秀でているという能力と、変革を起こす素養とは全く別である。変革を起こす際に必要とされる資質が具体的にどれほど異なるの かに気付かず、担当業務の延長線上にあるチャレンジにすぎないと軽く考える結果、多くの企業がこのギャップに苦しむことになる。 次にこのオーナーに対して解決策を上申する「問題解決提言チーム」を構成するスタッフの人選を行う。このチームは、具体的な複数の解決策をロジカルに、 もれなくだぶりなく練ったうえでオーナーに提示し、決断を迫るという役割を負う。たとえば、先の輸送機器関連部品メーカーの例では、「解決策その一」とし て、「A型とB型の統合費用はいくら必要。それによるコスト削減はいくらで、それによって効率は何%向上する」と算定した。また「解決策その二」として、 「A型、B型、C型3種の統合費用はいくら必要。それによるコスト削減はいくらで、効率向上は何%」と算定。そのうえでオーナーに対して、「以上の解決案 のうちどれをとりますか」と問題解決提言チームが決断を迫るのである。 こうした「問題解決提言チーム」のリーダーをどんな視点で選定するかも問題解決の成功のカギを握る。当該チームのリーダーには大きく分けて2種類のスキ ルが求められる。一つは、問題点や原因を把握して解決策を組み立てる際に必要な思考スキル、分析スキル、統合スキル。もう一つはチームをマネージするスキ ルである。 前者を推測するメルクマールとして、例えば、論理性、データ志向性、既存の枠組みにとらわれない発想の広さ、マネジメントの視点。また性格的には、過去 にとらわれず、組織の権力に物怖じしない、などが挙げられる。後者を推測するメルクマールとしては、メンバーの能力や性格を勘案した采配の巧みさ、アウト プットを創出するためにメンバーには厳しく筋を通しつつも、人間的な魅力に基づくナチュラル・リーダーシップの強さ等である。 問題解決提言チームのリーダーは現場業務から離れ、勤務時間のすべてをこの問題に費やす立場にあることが望ましい。このためラインから引き抜いて期間限 定の専属スタッフとして任命すべきである。その最大の理由は、組織のしがらみから独立させることにある。業務を兼任していれば、その業務を当面回さなくて はいけない、という当たり前の「しがらみ」にとらわれ、大胆な発想には結びつきにくい。その立場に独立性を与えることで提案の客観性は飛躍的に高まる。 問題解決提言チームのリーダーは現業から独立させてほしいが、経験的にはこうした人材は社内で引く手あまたで、重要な現業を担当しているケースが多い。 だからといって、社内の重要変革プロジェクトに閑職の社員をアサインしてはいけない。問題解決提言チームのリーダーの人選は、社内の経営問題の優先順位付 けから考えるべきなのである。 加えて人材育成の観点からもこれは意義のあることである。問題解決提言チームのリーダーは、「経営課題の解決策を考える」「プロジェクトのためにチーム を組織する」「上の人間に意思決定を迫る」といった修羅場経験を積むことになるため、当人の大きな成長を促すものとなる。
解決の仕方がわかっているのに、解決の努力が続かないという例は珍しくない。これは社員が、経営上の課題を自分の課題と認識していないために起こる。人 は、自分のオーナーシップの届く範囲内にないことだと感じると、頭では理解できていても行動を起こさなくなってしまうのである。 「問題なのはわかっていたけど、自分たち内部の人間の口からそこまではっきり言えなかった」とか、あるいは「問題があるのはわかっていたけれど、そこまで明確に理解していなかった」というのが典型的な反応である。 これを正すためには、問題解決プロジェクトメンバーが、経営陣および関係部署の担当者たちを交えて議論を繰り返すことが必要となる。とりわけ課題と関わ りの深い人たちとはできるだけ頻繁に意味のあるミーティングを行うようにする。意味のあるミーティングとは、データ収集、根本原因の特定、解決策選択肢の 特定、解決策の決定、解決策の試行、修正等、実際の問題解決ステップに沿った形で目的に応じてミーティングを行うということである。これによって、解決す べき課題についての理解を深めてもらうのと同時に、それがどういう根拠や対策で解決に向かってゆくのかというカラクリを関係当事者間で共有すれば、実行プ ロセスにおける推進力を高めることにつながるからである。 このように関係者を巻き込み議論を繰り返してゆくうえでのさらなるコツは、(1)推進してゆくステップ、当事者、それらの役割分担を事前に明確にしてそ れらを公にすること、(2)推進ステップの具体的な活動を明確なアウトプット志向で行うこと、の2点である。 |
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自分がやらなくても何とかなるという 「慢心」を消すには 前者は、プロジェクトの目的である最終ゴールに到達するためには、何を、どの順番で、いつまでに、どのように、誰がやるのが適切か、そのためにはどの (量と質の)リソースが必要か、という視点で綿密な事前計画をつくって合意することにほかならない。なるべく具体的に作成するのがポイントであるが、当初 からすべてを細かく計画に落とし込むのに無理があるケースでは、少なくとも全体の大まかなステップ、ステップごとの期限、ステップごとのアウトプットのほ か、最初のアウトプットを創出するために当面必要な1~2カ月の細かいアクションをまず決め、その先は進捗状況に合わせて順次決めていくということでも構 わない。 また、「公にする」とは、関係者全員に周知徹底することはもちろん、経営陣によるレビューの対象になるようにして、経営のコミットがとれた計画にすること、および当事者同士のみの「密室」のアクション計画にならないようにするという意味である。 (2)の「明確なアウトプット志向で行うこと」とは、例えば、ミーティングの都度目的を明確にし、アウトプットを創出するために誰が何を何時までに行う のか、そのためにはどの程度の時間とリソースが必要か、ということを明確にすると同時に、ミーティングの結果どうなったのか、および次の具体的なアクショ ンと期限と担当者は誰か、というプロセス・マネジメントを繰り返してゆくことにほかならない。これによって、やり忘れや他業務に忙殺されてできなかったと いった言いわけを回避することができる。本当に努力してもできなかったのであれば、何が原因で今度はどうすればできるのかという問題解決型の議論になりや すい。 計画自体はしっかりしていたのにプロジェクトが進まない原因の多くは、出すべきアウトプットが期限内に出ないことであり、さらにその原因の大半は自分が やらなくても何とかなるであろう、という慢心(人間の心の弱さ)に起因しているのを多くのクライアントで観察してきた。したがってこのようなプロセス・マ ネジメントの成果が大きいと考えている。
抵抗勢力という壁にぶつかったときは、ファクトで迫るのがよい。ファクトとは、同業他社とのベンチマーク比較や、「他業種のA社がこの問題を解決して、 このくらい業績がアップした」といった実績を示して目を開いてもらうことである。「解決前・解決後」の違いに驚いて、「じゃ、われわれの場合はどうやった らそれを採り入れられるのか?」などと考えが進むようになると展開が早くなる。 企業が抱えている課題は、経営陣、管理職、従業員にいたるまで、その企業を構成する構成員すべてを動かせなければ解決できない。 本稿では社内を少しでも動かしやすくする技術のいくつかを紹介した。しかし、言うまでもないことだが、こうした技術は経営者の改革に対する意思や姿勢を 代替するものではない。すべての改革のドライバーはトップであり、トップが強い意志を見せ、トップから権限を委譲されることで、問題解決に関わる責任者や スタッフは最大限の力を発揮する。 いかなる場合であれ、経営課題を解決するのは、課題を抱えている企業自身であり、トップのコミットメントと構成員全員の強い意志にかかっているのである。 |
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