職場の心理学 [187]

あなたは「七人の侍」を統率できますか

 
 
『七人の侍』は、農民を救うために7人の侍が40余人の野武士を相手に戦うという
ワクワクするストーリーと迫力ある戦闘シーンでファンの心を捉えて放さない映画である。
しかし、野武士撃滅をプロジェクトとして見ると、マネジメントに応用できるヒントが
ちりばめられていることがわかる。
 
 
能力開発総合研究所代表
原口一郎 = 文
Ichirou Haraguchi
はらぐち・いちろう●
1965年、東京大学卒業。博報堂のクリエーターを経て、80年に大手ビジネスコンサルティング会社に転職、組織開発コンサルタントとして活躍。98年に独立。階層別研修を数多く実施している。
伊藤博之 = 構成高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi
 
 

プロジェクトの使命と
戦略の根拠を再考してみよう

 黒澤明監督の『七人の侍』が封切られたのは50年以上も前のこと。しかし、その面白さは少しも色褪せていない。さらに、競争社会という“戦乱の世”を生きるビジネスマンとして、そこから何を学ぶかという視点で改めて見ていくと、生きた「マネジメントの教科書」であることがわかってくる。

 まず、映画の内容を思い出しながら下のワークシートに挑戦してほしい。ここにある設問は、実際に『七人の侍』を題材にしたマネジメント研修のカリキュラムに基づいてつくったものだ。この順で“野武士撃滅プロジェクト”を再検証すると、ミッションの策定から戦略立案に至るまでのプロセスや、組織運営のためのリーダーシップなどが理解できるようになる。

 ここの設問[1]を通して学びたいことは、「成果・結果の分析」の重要性だ。一つのプロジェクトを再検証していく際には、最初に成果・結果を正確に捉えておく。すると、なぜそうなったのか、要因・原因として押さえるべきポイントが定まり、ビジネスにも応用することができるようになる。

 では、『七人の侍』のラストシーンを思い浮かべてみよう。農民たちは、笛や太鼓の音色に調子を合わせて歌を唄いながら、楽しそうに田植えをしている。野武士がいなくなり、丹精込めてつくった米や作物を略奪される心配がなくなった喜びが伝わってくる。彼らは満足できる成果を得たのだ。

 でも、今回のプロジェクトには、農民のほかにもう一つのグループが大きくかかわっている。そう、七人の侍たちである。「発注者=農民」と「受注者=七人の侍」に分けて、おのおのの立場から成果を測定しなくてはならない。

 農民とは対照的に、侍のリーダー格である勘兵衛(志村喬)の表情は一向にさえず、「今度もまた負け戦だったな」とつぶやく。かたわらの七郎次(加東大介)が驚きの表情を浮かべると、勘兵衛は「勝ったのは、あの百姓たちだ。俺たちではない」と話す。

 このときの勘兵衛は、「勝ち目が少ない戦によく参加してくれた。そんな前途有為の侍を4人も亡くした。かけがえのない損失だった」という後悔の念を抱いていたのではないか。戦略策定や組織運営のどこに手抜かりがあったのか、自問していたようにも思える。

 その要因・原因を探るためにも、ワークシートに立ち戻って、野武士撃滅プロジェクトのスタート時点から順を追って考えていくことにしよう。

『七人の侍』からマネジメントを
学ぶためのワークシート
設問 1. 野武士撃滅プロジェクトの成果・結果について論述する。
設問 2. リーダーである勘兵衛がとった戦略の根拠として、次の点について具体的に指摘する。
  (1)侍に委託しようとした農民の基本的な考え方。
(2)このときの侍や農民をとりまく環境。
(3)農民たちの住む村の経営資源。
設問 3. 勘兵衛は自分たちのミッション(目的)をどう捉えたのか。
設問 4. ミッション達成のために勘兵衛はどのような戦略を立てたのか。
設問 5. 勘兵衛はどのような判断基準で仲間の侍を選んだのか。
設問 6. 戦略を運用する際の展開について、次の点について答える。
  (1)一般的に組織はどのような分野の特性に分けて考えることができるか。
(2)その分野ごとに侍は何を行ったのか。手抜かりはなかったか。
設問 7. リーダーシップは次のパワーが源になっているが、勘兵衛が得意としたもの、弱かったものはどれか。
  (1)強制的パワー    (5)地位的パワー
(2)関係的パワー    (6)好感的パワー
(3)専門的パワー    (7)報酬的パワー
(4)情報的パワー    (8)実績的パワー

「勘兵衛がとった戦略の根拠」を考えるのが設問[2]である。通常、戦略の前提となるいろいろな要素を、「理念・方向性」「外部環境」「経営資源・能力」という3つの分野に分けて整理する。それらが小問(1)〜(3)に当たる。

 真っ先に考えるべきものは「理念・方向性」だ。今回のケースは、発注者である農民たちの意向がそれに当たり、「飯を食わせるから、野武士を撃滅して村を守ってほしい。ただし、長居は御免被りたい。できるだけ短期間で済ませてほしい」ということになろう。

「外部環境」としては、戦国時代の度重なる合戦で主を失った侍が巷に溢れていることや、鉄砲が普及し始めて村を襲う野武士たちも持っている可能性が高いこと、しかも騎馬集団で機動力に優れていることなどをあげたい。また、「経営資源・能力」としては、農民も戦おうと思えば戦えること、村の周囲には山や川、そして田んぼがあることなどが含まれるだろう。

 その整理ができたら、プロジェクトの大目的ともいうべき“ミッション”を立てる。それを設問[3]で行った。ポイントは、自分たちの顧客が誰で、何を期待されているかを把握すること。これはビジネスでも同じだ。

 このプロジェクトでは農民の願いを直接反映した「野武士の脅威を取り除き、安全な生活を取り戻すこと」となる。ただし、無期限でよいわけではなく、「短期間に野武士集団を撃滅する」という“目標”を定める。さらに、目標達成に向け、どのような戦略をとるかの判断基準として「侍と農民の連合体で野武士を撃滅する」「村での籠城作戦をとる」といった“方針”を決める。

リーダー勘兵衛の強み、弱み、
戦略の手抜かりはないか

 次に設問[4]でチャレンジした戦略の策定プロセスへと移る。実は戦略策定には基本となる型が存在する。設問[2]で検証した要素について、自軍(侍と農民)にプラスかマイナスか、競争相手(野武士)にとって弱みか強みか、将来にチャンスと脅威のどちらをもたらすかなどを分析する。そこで出てきた一つひとつの戦略課題を、方針と照合しながら取捨選択する。

 たとえば、村の前の田んぼは、土を掘って水を張れば、立派な濠になる。さすがに騎馬集団も足止めせざるをえない。野武士が深みにはまれば、弓で射るチャンスも生まれる。籠城作戦の方針にも合致している。そうして勘兵衛が立てた戦略が、「村の中心部に防御柵をめぐらせ、田には水を張る。一個所だけ防御を緩くして敵を誘導し、一対多で一人ずつ撃滅する」であった。

 しかし、勘兵衛一人でその戦略を実行できるわけではない。現場指揮官たる「人材=侍」が必要だ。総指揮官である勘兵衛自身のほかに、村の東西南北を固めるために一人ずつ、副将と後詰めを兼ねて一人、伝令に一人、最低でもあと6人はほしい。しかし、問題はここから。巷にあぶれた侍のなかから、優秀な人材を選ぶ必要がある。

 そこで勘兵衛の判断基準を設問[5]で考えたわけだ。ヒントは、戸口の陰で薪を振りかざして待ち構える勝四郎(木村功)の殺気を感じ、「ご冗談を」と笑いながら制した五郎兵衛(稲葉義男)のシーン。絶えず警戒を怠らない一方で、平常心を維持し続ける。つまり、「戦いに対する基本ができている」「懐の深い人物」が基準だったのだ。

 たとえ立派な戦略を立てても、それを運用できなければ意味がない。そのポイントは、自分たちの組織がどのような分野の特性で構築されているかを理解し、おのおのの分野で適切な施策を考えていくことだ。これを考えてもらったのが設問[6]の(1)と(2)である。実際の研修では(1)の答えとして、いきなりリーダーシップやコミュニケーションをあげる人がいる。確かにこれらはマネジメントの機能で大切だが、もっと包括的な視点で組織を捉えたい。

 一つ目は「構造・制度」。メンバーの構成と役割分担だ。本部でリーダーの勘兵衛が五郎兵衛と一緒に指揮をとり、その指示を伝令役の勝四郎に与える。残った久蔵(宮口精二)、平八(千秋実)、菊千代(三船敏郎)、七郎次の4人が、それぞれ農民10人前後からなる戦闘隊を率いて、戦略通りに防御線を緩くした口へ野武士を誘い込む。でも、そこに手抜かりはなかったか……。

 次に「人材」をあげた人は多いはず。侍の能力をフルに活かすために、自分が率いる農民の指揮と野武士撃滅に集中させていた。また、それまで鋤や鍬しか持ったことのない農民に竹槍を持たせて、集団戦法の速成訓練を行い、貴重な戦力として育て上げた。いずれもミッション・戦略の達成に向けた人材活用・人材育成である。

 しかし、ここで「文化・風土」という壁が立ちはだかる。農民は侍に対する警戒心をなかなか解こうとしない。長年虐げられて“野武士恐怖症”も蔓延している。また、農民同士でも助け合うのは隣組までで、村全体での団結心にも欠けている。こうした文化・風土を打破しない限り、方針で定めた「侍と農民の連合体」は到底実現しない。

 そこで勘兵衛は、防護柵の外に住んでいる農民に家屋を捨てさせ、村の中心部で寝起きするよう強制する。いまここで立ち上がらないと、すべてを失うという危機感をあおりながら、団結心を芽生えさせたのだ。その一方で、菊千代がおどけてみせて子どもたちの歓心を買うなどして、徐々に農民たちの警戒心を解く。会社組織でも同じで、風土・文化を変革するのは一筋縄ではいかず、臨機応変な対応が重要だ。

 それ以外には「人材以外の経営資源」も考えられるだろう。「1本の刀じゃ5人と斬れねえ」といって、菊千代が何本もの刀を林立させる有名なシーンがあるが、落ち武者狩りをして隠し持っていた刀を活用したものであった。

 これら四つの特性は何もバラバラに機能していたわけではなく、勘兵衛のリーダーシップの下、お互い密接に絡み合いながらミッション・戦略の達成に向けて機能していったのだ。その勘兵衛のリーダーシップについて検証を試みたものが設問[7]である。

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 リーダーシップの源は「強制的・関係的・専門的・情報的・地位的・好感的・報酬的・実績的」という八つのパワーで構成される対人影響力だ。武道の世界では「力がなければ技はかけられない」というが、そうしたパワーを涵養しておかないと、「何かしてほしい」と思ったときにリーダーシップという技を駆使できない。しかし、すべてを満遍なく備えている人は稀である。

 では、勘兵衛はどうだったのだろう。五郎兵衛の「あなたのその人柄に惹かれた」という言葉からは好感的パワーの強さが窺える。知略を駆使して最適な戦法を立てる専門的パワーはもちろん、野武士の来襲で逃げまどう農民を「待て」と一喝で制してしまう強制的パワーにも富んでいた。手柄のあった者には「よくやった」と声をかけており、報酬的パワーも強かった。

 しかし、負け戦ばかりして浪人に身を落としているだけに、実績的パワーや地位的パワー、そして強力な後ろ盾を持っているなどの関係的パワーには乏しい。また、ささいな情報ももらさずに状況分析に役立てていく情報的パワーも意外と弱かった。名将のように思える勘兵衛にも欠点があったのだ。

 ここで、野武士の砦を奇襲した際に平八が命を落とし、最後の決戦の場で菊千代と久蔵が撃たれた原因に行き着いたのだが、皆さんはお気づきだろうか。

 
 
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