特集/全予測「働き方、生き方、稼ぎ方」

PART4.マネー篇 - 4

北京五輪間近。人民元が切り上げられたらどうなるのか

 
 
切り上げによる日本産業全体への
影響はむしろマイナスである
 
 
野村資本市場研究所
シニアフェロー
関 志雄
Chihung Kwan
香港生まれ。香港中文大学卒、東京大学大学院博士課程修了。HSBCを経て、1987年野村総合研究所入社。アジア調査室などを歴任。2001年に経済産業研究所上席研究員に就任。04年より現職。

大山弘子=構成
 
 

中国発デフレで倒産
企業が出ているが……

 今年8月、いよいよ北京五輪が開催される。ポスト五輪のリスクとしてバブル経済の崩壊などが危惧されているが、対中貿易赤字を抱える諸外国からの度重なる圧力による、人民元の大幅な切り上げは、そのきっかけになりかねない。

 中国の中央銀行は、2005年7月21日に人民元を2%切り上げ、管理変動制に移行した。速いペースで為替レートを上昇させた場合、輸出産業に打撃を与える恐れがあるため、現段階では変動より管理がメーンで、政府が為替相場に介入しながらゆるやかに上昇させている情況である。しかし、大規模なドル買い・人民元売り介入は、中国国内の貨幣供給量の増加、ひいては過剰流動をもたらしている。結果、不動産価格と株価が高い水準に達しており、インフレ率も高まっている。

 流動性を抑える最も効果的な方法は、介入を控え、人民元の切り上げのペースを加速させることだ。人民元は依然として市場の需給を均衡させるレートより大幅に過小評価されていることを考えれば、介入がまったく行われなければ、人民元の上昇幅は、約2、3割に達する可能性もある。

 近年、中国発デフレによって一部の日本企業が厳しい競争にさらされて倒産し、失業者が出ている。人民元が切り上げられれば、中国発デフレが中国発インフレに変わり、これらの企業が救済されることを期待し、日本は米国と同調して人民元の切り上げを中国に求めたのである。

 しかし、ちょっと考えてみてほしい。中国と競合する日本企業といえばいわゆる組み立てなどを行っている製造業の下請け産業であり、日本にとっての衰退産業だ。

 今、日本企業の強いところは、他の先進国と同じく研究開発など川上部分、あるいは川下のブランディングやマーケティング、アフターサービスなど付加価値の高い部分である。これに対し、途上国である中国の強みはいまだ、儲けの少ない労働集約型の組み立ての部分に限られている。人民元の切り上げによって助けられる中国と競合する企業または産業は、多く見積もっても日本の製造業の2割程度である。「元高」の日本企業への影響を考える際、中国を市場として捉えているか、それとも生産拠点として捉えているかによって、明暗が分かれていることに注目してほしい。

 まず、中国を生産拠点として捉え、中国でつくった製品を日本に逆輸入している企業にとっては、人民元高は中国での生産コスト高につながり、それを価格に転嫁できなければ収益が圧迫される。これに対して、中国をマーケットと捉える企業の場合、人民元が強くなれば、中国人の購買力も強くなる。結果として、日本からの輸入が増えるはずだ。

 また、自動車産業をはじめとする現地生産・現地販売型の企業にとって、人民元が切り上げられれば、日本から輸入する部品などのコストが安くなるだけでなく、中国国内の購買力が高まり売り上げも増える。

 このように、各企業の中国に対するスタンスによって、人民元が切り上げられた場合の影響も異なるのだ。確かにマーケットとしての中国の重要性は高まっているが、依然として中国を生産拠点と捉える企業が多い。となると、日本政府の期待とは裏腹に、人民元切り上げによる日本の産業への全体的影響はむしろマイナスである。さらに、切り上げが行われれば中国からの輸入品は値上がりする。消費者の立場で言えば、中国の製品は安いほうがいいに決まっている。

 
 
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