特集/全予測「働き方、生き方、稼ぎ方」
PART2.家族・自分篇 - 5
精神世界にはまっている妻を
どうやって現実に引き戻すか
過剰に反応するな。
実害があるかどうか見極めよ
殺人や少年の凶悪犯罪は
本当に増えているか?
もしあなたの奥さんがなんらかの宗教にはまったとき、まずは頭ごなしに否定せず、どれほど実害があるものなのかを見極めたほうがいい。壷を何万円で買うとか、あちこち折伏に行くとか、実害があるならそこから考える。将来必ず問題を起こす、といったものではないと思う。細木数子さんや江原啓之さんらに夢中になる人を「自我が弱い人」と決めつけるのは簡単だが、そうとは言い切れないと僕は思う。決めつけはカレーが好きな人の共通項を探すようなもので意味はない。
精神世界の問題は、オカルトというよりメディアの問題である。メディアリテラシー(知識・教養)をまず身につけるべきだ。1995年のオウム事件の後、テレビ局は心霊現象やオカルトの番組を数年間自粛し、ほとぼりがさめたら復活させた。その後もカルトが問題化したらまた自粛……を繰り返している。そういうメディアの性癖を知っておくべきだ。
宗教の本質は反社会的なのだ。オウムに限らず、2003年に話題になったパナウェーブはいい例だ。ワイドショーや一般のニュースでも大騒ぎしながら、法に触れたのは道路交通法違反ぐらい。騒ぎが裏目に出て、彼らが反動化する可能性だってある。キリスト教もイスラム教も仏教も、最初は反社会的なカルト集団から始まっている。それは宗教のある意味での本質だ。キリスト教の「ミサ」も仏教の「法事」も、異文化の人が初めて見れば、不気味な儀式に見えるだろう。知っているか知らないかの違いだけだ。
メディアには今、「治安が悪い」「少年犯罪が多発している」とのフレーズが蔓延している。でも実際の治安は悪化などしていない。たとえば少年の刑法犯は戦後のピーク時の四分の一程度に減少している。殺人もピーク時の54年あたりには1日8.4件だが今は1日3件未満。件数そのものも水難事故死、交通事故死、自殺のほうがずっと多い。
最近来日したアメリカのテレビ関係者に、「なぜ日本のメディアは殺人事件ばかり報道するのか」と尋ねられた。アメリカでは殺人事件はほとんど報道されない。イギリスもフランスもドイツも同様だ。日本は世界一殺人事件が報道されている国かもしれない。その帰結としてほかのニュースが追いやられる。他者への恐怖や不安ばかりが煽られ、結果的に法律が変わり、国のシステムが変わりつつある。
そんなメディアの状況の中で、カルトやスピリチュアルといった現象も何らかのバイアスがかかっていると捉えるべきだ。オウム真理教という先例があったことで、「危険」「狂信的」という印象がまず先にくるが、本当に危険か否かをもう少し見極めたほうがいい。
僕がオウム事件を扱ったドキュメンタリー映画「A」の上映(98年公開)の際、オウム信者の姉が観にきていた。キリスト教信者である彼女の上の娘はイスラム教徒、下の娘がヒンズー教徒。「一つ屋根の下で、いったいどうなっているんでしょう」と嘆息する彼女に、僕は思わず「とてもいいことじゃないですか」と言った。彼女は「そう言ってくれますか。確かに実害はないんです。救われました」とほっとしていた。
自分がやがて死ぬことを知ってしまったからこそ、人は宗教を手放せない。そしてこの死と生とを転倒させることが宗教の意味であり怖さでもある。不安や恐怖が高まると、善と悪、黒と白、死と生などの二項対立ばかりに意識が向けられる。その二項の間にたゆとうているのが人間だ。できるだけ多面的な眼を持ったほうが人生は楽しい。片方に埋没してしまってはもったいない。
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