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特別インタビュー○政治展望2008

これが「ねじれた政治」をまっすぐにする劇薬だ!

 
 
御厨 貴
Takashi Mikuriya
1951年生まれ。75年東京大学法学部卒業。東京都立大学教授、ハーバード大学客員研究員、政策研究大学院大学教授などを経て、現在東京大学先端科学技術研究センター教授。96年『政策の総合と権力』でサントリー学芸賞受賞。97年『馬場恒吾の面目』で吉野作造賞受賞。日本における「オーラル・ヒストリー」研究および実践の第一人者。
久保田正志=構成
三島 正=撮影
 
 

まさかこんな状況になるとは


 前回の参院選の結果、衆議院と参議院の多数党がそれぞれ違う「ねじれ」が起きて、政策決定が非常にしにくい状況になりました。こんなことになるとは、選挙前には誰も思っていなかったわけです。

 安倍(晋三前首相)さんは先の参院選に勝つために選ばれ、しかもおそらく勝つだろうと思われていた。それが松岡(利勝)農林水産大臣の自殺や、その後の年金問題で完全に逆風になって、見事に崩れてしまった。

「政治というのは一寸先は闇だ」と言うけれども、政治という事象がそういう不確定性を本来的に持っているということを、みんな気づかされたんだと思うんですよ。どうも政治というものは、放っておけば勝手に運営されていくものではないんじゃないか、と。

 特にいまの政治家はみんな子どもっぽくなってしまって、くだらないことで争っている。突然辞めた安倍さんにしても、大連立が通らなくて辞めると言って、結局辞めなかった小沢(一郎民主党代表)さんにしても、普通の感覚なら、恥ずかしくて人前に出てこれないでしょう。

 少し前には額賀(福志郎)財務大臣を証人喚問するかどうかで民主党が大騒ぎをしたあげくにとりやめてしまった。問題は額賀大臣が本当に口利きをしたかどうかということなのに、宴会に出ていたかどうかをはっきりさせるのに血道をあげただけで終わり。

 こういうみっともないことになってしまったのは、これまで国民が政治をきちんと扱ってこなかったことのツケでもあるんです。小泉(純一郎元首相)さんの登場以降、政治がワイドショー的におもしろくなって、みんなも興味は持つようになった。けれどもそろそろ次の段階に進まなくてはいけないと思います。


大連立はしょせん期限付きの解


 これからしばらくは自民も民主もいろいろ手札を出してくるでしょう。特に大連立の話は繰り返し出てくると思います。なぜかというと、政治家にとってみればそれがいちばん楽だから。

 自民党にとっては閣僚ポストが減るといった痛手はあるけれども、50年も政権党としてやっているから、組んだときには強いんです。いままで連立で組んできた相手を徹底的に利用して、最後は捨てていますよね。かつての社会党然り、自由党然り。今まさに公明党もそうなりかかっています。自民党は自信があるから今回もおそらく「組みたい」と思っているでしょう。

 ただ、大連立では小選挙区の選挙ができない。それを考えると大連立政権は、たとえできたとしても、賞味期間限定なんです。ある期間が過ぎたら、その間に政界再編が起こるなり、どちらかが強くなって次の選挙で勝つなりして、大連立は壊れる。ただし、一度できると今度は「大連立を続けていくために、小選挙区はやめて、中選挙区に戻そう」と言い出す人たちが出てきます。少数党は中選挙区のほうが有利ですから、公明党にしても、組合を支持基盤とする民主党の左派にしても、内心は「中選挙区に戻ってほしい」と思っているはずです。

 僕自身は大反対です。選挙区制の話はもう本当に過去の遺物というか、そもそも中選挙区こそが諸悪の根源で、それをなくして二大政党制にしようということが、前の世紀の最後の10年のスローガンだったわけですから。でも、政界の怖いところは、そういうお化けが本当に生き返ったりすることです。だから今年はこの問題も充分注意しなければなりません。


小泉時代を経て「見る目が肥えた」


 日本のこれからのリーダーシップの一つのモデルは、やはり小泉さんだと思います。

 小泉さんに騙されてきたという「騙され史観」の人や、彼が「諸悪の根源」であるかのように言う人はいるけれども、あそこであれだけのことをやらなかったら、その間日本はどうなっていたんでしょう。

 いま、小泉改革のハレーションでいろいろな問題が起きていることは事実ですが、どんな改革にも反動はあるのが当たり前。自民党が本当に変わりたいなら、むしろ小泉路線をこのまま続けるべきでした。ところが安倍さんは、そこでちょっと躊躇した。郵政民営化反対組を復党させたでしょう。安倍さんが小泉さんと似ているところは外交だけで、国内政治的には、何かを変えるというモチベーションがない。そこが決定的に違ったんですね。

 小泉さんの場合は、判断の基準がはっきりしていた。「郵政に反対するやつは全部ダメ」っていうね。それも滅茶苦茶だとは思うけれども、はっきりはしている。ところが安倍さんは、問題閣僚が出たときも、柳沢(伯夫前厚労相)さんはよくて、佐田(玄一郎元行革担当相)さんはダメで、松岡さんはどうしようと、いつもその場その場の判断でやってきた。

 福田(康夫首相)さんもそうですが、安倍さんも、閣僚に問題が起きたとき、「適切に処理していただきたい」とか「きちんと説明責任を果たしていただきたい」と言って、本人に任せてしまったでしょう。要するに逃げているんです。国民の前ではっきり説明をしなきゃいけないときに、「していただきたい」と言うのは丁寧そうに聞こえても人を馬鹿にしている。これは国民が鉄槌を下して、「そういう言葉は使うな」と言ったほうがいいと思いますね。

 小泉さんは説明も含めて、国民に対して話しかけていった。あれはすごいですよ。結果として国民の政治を見る目が肥えたという面もある。安倍さんにブーイングが浴びせられたのは、一つにはそのためでしょうね。

 ただ安倍さんの場合はまだ、憲法や安保というところに争点を持っていきたいということが見えましたが、福田さんはやりたいことがまったく見えてこない。おそらく福田さん自身が暫定政権という感覚でいるのでしょうね。だから長期的な視野で考えた政策が出てこないのだと思います。


一度民主党にやらせてみては


 小沢さんの辞任騒動で驚いたのは、あんな騒ぎがあったにもかかわらず、民主党の支持率がほとんど下がらなかったということです。調査によってはかえって上がっている。それは国民が深層心理的に「政権党をいったん変えたほうがいい」という気持ちになっているからではないでしょうか。

 小泉改革が安倍政権で失速し、次に福田さんが出てきて、改革の勢いを止めて現状維持でやっていこうとする。そしてそこに10年1日のような防衛利権の問題が起こってくる。これをどう解決するにしても、「自民党ではダメだ」とみんな感じているんです。とにかく、いまのシステムを変える方向の政党に投票してみようと国民が考えれば、政権交代はありえます。そういう意味でいうと2008年は、日本にとって決断の年になるかもしれない。


「家族観」という新たな対立軸


 民主党が次の衆議院選挙で勝てば、あっという間に「ねじれ」は解消する。民主党政権がうまくいくとは限りませんが、「やらせてみてもいいか」と国民が思い始めたのは、あまりに自民党の政治が長く続きすぎて負の面が大きくなってきたからだと思います。ただ、システムを変えるということは、痛みを伴う。それを覚悟で選んで、新しい政権ができたなら、政党と国民の関係は前よりずっと近くなるでしょう。

 いま、じつは自民党も民主党も、党の中に「ねじれ」を抱えています。

 自民党の中にも「もうばら撒きはやめよう」と考える人たちもいれば、口当たりのいい公約を言わないとおさまらない人たちもいて、それが同居してせめぎ合っている。民主党も同じです。

 ところがこの手のねじれでは党は割れないんですね。ばら撒きをするかしないかという対立軸では政界再編は起きないんです。

 政界再編に通じるようなねじれとは、もっとイデオロギー的な問題です。たとえば憲法改正で、憲法九条を変えるか変えないか、という問題もその一つ。それ以上に大きな問題だと僕が思っているのは、「家族をどう捉えるか」ということです。その捉え方の感覚が自民と民主で、また党内でも世代によって、相当に違っています。

 民主党は「夫婦二人に子ども」という家族を基礎単位にして世の中を考えてゆくという姿勢があります。民主党の憲法改正案も、まさにそういう感覚から出たものでした。

 一方の自民党は、じっちゃん、ばっちゃん、息子夫婦、そして子どもたちがいて、これを一単位として考え、子育ても老人の世話もその中で解決するべきだと思っている。要するに、「女性は家庭の中にいろ」ということです。自民党の上の世代はほとんどそういう家族観です。福祉から子育て、年金まで、それがあらゆる政策に表れている。

 一方で自民党にも違う家族観を持った人たちもたくさんいるし、民主党にも保守的な家族観を持った人はいる。

 選挙の争点がそういう身近な問題になれば、各党内のねじれが顕在化します。それが政界再編につながっていく可能性もあるでしょう。今後は、そういう生活の根幹に関わるイデオロギーこそ選挙で問われるべきだと思います。


見えていない経済界のニーズ


 経済界がいま、政府に求めているのは、昔のように補助金をくれとか、護送船団のように業界を守ってくれということではなくて、グローバル市場での日本企業の戦いを政府がどうサポートしてくれるのかということです。

 いまはどの企業も「業態変革して世界に出ていかなければ負ける」という状況になっていて、国の枠を超えて競争しています。アメリカ政府などはそういう場に出てきて、自国企業のサポートをしている。ところが日本政府はサポートどころか足払いを食らわせているような状況です。

 国際政治の場でのパフォーマンスよりも、グローバルに活動する企業のニーズをどう捉えるかのほうが大切なのですが、政治家はそれに全然気がついていない。役所にしても、それぞれの管轄ごとに企業を囲い込むようなやり方はやめるべきです。彼らはわかってはいるのでしょうが、そのように動けていない。それは結局、市場と企業というものを、きちんと理解していないからでしょう。


地方に必要な「知恵のある」人材


 平成の市町村大合併をやった結果、中央の政治家と地方をつないでいた自治体の中間管理職クラスがいなくなって、地方の疲弊が加速しています。

 それを解決するのにまた補助金を出すという話になっていますね。農業にも補助金、教育にも補助金、道路もやっぱりつくりましょう、と。代議士にとっては、お金を動かすのがいちばん楽なんです。何も考えないでいいから。

 補助金目当てで投票してきた人たちも、今後はその地方ならではの活性化の方法を考えなければいけないんです。お金をばら撒くのではなく、アイデアを持ってきてくれる人こそが地方でも政治家として大成していくと思います。

 そういう考え方への切り替えが、これから何度かの選挙で行われるのではないでしょうか。前回の参院選で、民主党は農家への個別所得補償を約束して地方票をとりましたが、今回民主党に投票した人たちだって、未来永劫これが続くとは思っていないでしょう。そうなったときに、次は自民党のばら撒きに乗り換えるのか。しかし自民党だってない袖は振れなくなりますよ。

 自治体も「わが県、わが町は、こういうことをやって発展していきたい。そのためにはこういうものが必要だ」ということを、国に対して発信し、説得してゆく。国の側も、そういう各地のニーズを捉えていくべきです。これからの政治は、お金から知恵にシフトするでしょう。日本人が明治以来あまりやってこなかった、本当に物事を考えるということをする時期です。


二大政党制はありえるのか


 自民党の一党支配が続いてきた中で、唯1、1993年の細川連立政権の時代に政権交代がありました。政権が代わったこと自体はよかったと思います。よくなかったのは、自民党が「健全な野党になろう」と思わなかったこと。ひたすら「与党に復帰しよう」と思って、その結果、前より悪い政党になった。自民党はかつて「キャッチ・オール・パーティー」と言われたように、もう少し余裕があって、様々なものを包含していたんです。それが野党になって以降は余裕を失って、どんどん連立を組みました。そのたびに自民党本体は痩せ細っていった。自民党を支えている唯一の存在理由というのは、「与党であり続けること」です。

 ヨーロッパの政党はもっと懐が深い。イギリスは保守党と労働党の二大政党制をとっていますが、負けたら「どうして自分たちは野党になったのか」を真剣に討論し、党内改革をやって、新しいリーダーを選びます。野党の代議士は政府の仕事ができないぶん、政策のことを考える時間があるものなのですが、日本の場合、「負けたら、とにかくとり戻そう」としか考えない。

 野党も、長いこと政権をとれずにいるから野党ずれして、与党の足を引っ張ることしか考えなくなってしまう。かつての社会党がそうでした。民主党も最近、そういう様子が見えてきたような気がします。そういう点から言っても、そろそろ政権をとってほしいと思いますね。



--------- 【リレー問答】 ----------------------------------

竹中平蔵 → 御厨 貴

「日本の政治をよくするトリガーはなんですか?」


 日本の政治をよくするためには、とにかく一度、システムチェンジすることが必要だと思います。

 善し悪しは別として、戦前は軍が介入することが政治が変わるきっかけとしてありました。もう一つ、戦争も大きな契機になっていました。しかし戦後は軍も戦争もない。その中で政治を変えようとするなら、やはり政権を変えないといけないでしょう。つまり民主党に政権をとらせてみるということです。

 ここは、日本の政治のシステムチェンジのために、みなさん、次の選挙で民主党に投票しましょう、と提案したいと思います。

 倒幕や明治維新ではありませんが、やはり「変える」ということが大事なんです。このまま自民党政権が続いたら、みんな茹でガエルみたいになって、じわじわと死んでしまう。

 確かに政党としての統治能力という観点からは、やはり自民党に力があって、民主党は学級会民主主義みたいな薄っぺらなところがあります。枝葉というか、どうでもいいような細かな問題にこだわりすぎているんですね。

 だからといってやらせてみて悪いことばかりでは決してありません。実際に政権交代してみたら、これまで見えなかったものが見えてくるという発見が必ずあると思います。

 その前提として民主党には、工程表の発表を希望します。

 06年の衆院選で岡田(克也元)代表の民主党は、「もし勝ったら政権移行委員会をつくって、こういう政策をやります」というマニフェストを発表しました。「100日間でこう変えます」という工程表です。工程表を示すことによって「こういうふうに政治を変えてみせる」という党としての姿勢が、国民に見えるわけです。そうしたら期待感も高まりますよね。あの当時に比べたら、次の選挙のほうがはるかに政権獲得の可能性が高くなっている。小沢代表の民主党では難しいかもしれませんが、いまこそやるべきです。

 民主党が政治改革の工程表を出すこと。それから国民みんながそれをやらせてみること。これが僕の考えるトリガーです。

 
 
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