特集/全予測「働き方、生き方、稼ぎ方」

PART1.仕事篇 - 18

些細なミスで取引先が激怒。どうやって収拾すべきか

 
 

激怒するのは期待の裏返し。
平謝りで次のチャンスを待て

 
 

落語家

柳家三三

Sanza Yanagiya
1974年、神奈川県生まれ。中学生のときから落語家を志し、93年県立小田原高校卒業後、柳家小三治に入門。2006年真打ち昇進。平成19年度文化庁芸術祭で大衆芸能部門新人賞に選ばれるなど古典落語を得意とする実力派。


山川 徹=構成

 
 

 落語の世界は上下関係が非常に厳しい。入門後はまず前座として、掃除や洗濯、買い物など、師匠や兄弟子の世話をするのが仕事です。一を聞いて十を知ることが求められるのですが、私はどうにも気が利かない。師匠の家や楽屋でミスをしてはよく怒られました。実は、うっかりした失敗から、破門になりかけたこともあるんですよ。

 あれは、前座から二つ目に昇進する半年ほど前の元旦のこと。しきたりを重んじる落語の世界では1年で最も重要な朝として、羽織、袴で正装し、一門がそろって年始の挨拶回りをします。ところが、朝6時に一番早く師匠の家に到着していなければならない下っ端の私が、兄弟子からの電話で起こされてしまったのです。完全な寝坊でした。

 実は前日の大晦日、師匠とおかみさんにそば屋で年越しそばをご馳走になりました。下っ端の私が師匠夫婦の相伴にあずかるのは初めて。「昇進したらどんな名前がいいだろうか」と上機嫌でこれまでの働きぶりを褒めてもらっていたんです。それにもかかわらず、いきなり元旦に寝坊してしまった。師匠やおかみさんだけではなく兄弟子たちも激怒しました。

 その場で破門されてもおかしくなかった。必死で謝りましたが、師匠からは「処分は追って沙汰する」と一言だけ。師匠もおかみさんもしばらくは口も利いてくれなかった。結局、正月の多忙に紛れる格好でどうにか破門だけは免れました。その代わり、昇進してからも1年間は前座がやるべき雑用を続ける羽目になりましたが。

 些細なミスで激怒する相手とは、それだけ高い期待を寄せているということではないでしょうか。元旦の遅刻は些細ではありませんが、二つ目、真打ちと昇進していくうちに、師匠や兄弟子が真剣になって怒るのは、弟子への教育なのだと気がつきました。どうでもいい相手は真剣に怒れません。ミスしたときは、その怒りをもろにかぶるのを覚悟で、謝るのが最優先。期待の裏返しだと思って粛々と反省すべきでしょう。

ミスもツボにはまれば
「かわいげ」になる

 逆に、相手の怒りを和らげようと言い訳や弁明をすべきではありません。大しくじりを繰り返し、ことある度に師匠から「坊主になれ!」と命じられてきた先輩の例をご紹介しましょう。

 ある朝、師匠が炊飯ジャーを開けると、炊きたてのご飯の真ん中だけが凹んでいた。師匠は「一番旨いところを真っ先に食う弟子がどこにいる!」と先輩を怒鳴りました。翌朝、今度は真ん中だけがプリンのようになって残っていた。周辺だけを律儀に食べたわけです。「嫌みか、馬鹿野郎!」と師匠の雷が落ちました。ただならぬ雰囲気を察知した先輩は即座に「坊主になります」と申し出た。ですが坊主は毎度のこと。師匠は「(処分の内容は)俺が決めるんだ!」と再び激怒??。失敗を笑いに転化させることができるのは、それを意識していないからでしょう。ミスもツボにはまれば「かわいげ」につながります。

 落語家は同じ噺を何度も演じます。しかし、同じ公演は二度とない。それぞれの個性を発揮したり、客席の反応に気を配ったりしながら、新たな演出を加えるからです。たとえ同じ噺にせよ、落語家が「またか」と惰性で演じれば、お客さんには楽しんでもらえません。私もイヤになるほど怒られましたが「またか」とは思いませんでした。仕事に真剣に取り組んでいれば、怒鳴ってくる相手の話をいい加減に受け流すことはないはず。仕事に対する姿勢が、怒られたときの態度にも表れるのでは、と感じますね。

 
 
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